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スコーン

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日本人が「お茶」を飲むとき、
そこには何らかの「お茶請け」が用意されることが多い。

日本で一般的な「緑茶」の場合、
その「お茶請け」としてもっとも用いられるのが、
「和菓子」だろう。
渋みを持った日本の「緑茶」と、
あっさりとした甘味を持つ「和菓子」は相性がいい。
「緑茶」の渋みが「和菓子」の甘さを引き立て、
「和菓子」の甘味が「緑茶」の渋さを引き立てる。
まさにお互いがお互いを、引き立てているのである。

ただ「緑茶」の「お茶請け」は、
なにも「和菓子」のみとは限らない。
塩味や醤油味のきいた「煎餅」も「緑茶」にあうし、
クッキーやビスケットなどの洋菓子であっても、
「緑茶」と一緒に楽しむことが出来る。
一昔前の田舎では、
「漬け物」を「お茶請け」にしていたというから、
「緑茶」というのは我々の想像以上に、
様々なものと合わせることが出来るのである。

これが「紅茶」ということになると、
途端に合わせられるものが制限されはじめる。
「紅茶」に「和菓子」というのも、
いまいちしっくり来ないし、
「紅茶」に「煎餅」というのも、
どうも格好がつかない。
「紅茶」に「漬け物」ときたら、
もう合わせた人間の正気を疑われるレベルである。
やはり「紅茶」とくれば、
ケーキやクッキーなどの洋菓子が、
しっくりとくるようである。

「紅茶」の本場・イギリスでは、
アフタヌーン・ティーという独特の喫茶習慣がある。
イギリスの上流階級のみならず、労働階級に至るまで、
このアフタヌーン・ティーを行なっている。
「紅茶」と一緒にケーキ等の各種洋菓子類、
サンドイッチに代表される軽食類などが供され、
午後のひとときを、家族や友人たちと一緒に過ごすのである。
このアフタヌーン・ティーで出される食べ物は、
日本の「お茶請け」のように単品ではなく、
菓子・軽食とも複数供されるのが普通である。
テーブルの上に2~3段に皿をセットされたスタンドが置かれ、
これに菓子類やサンドイッチが盛りつけられている。
日本の「お茶」は、あくまでもオヤツの範疇にあるが、
イギリスのアフタヌーン・ティーは、
軽食としての側面が強い。
そして、そのアフタヌーン・ティーで供されるものの中で、
もっとも良く知られているものが「スコーン」である。

「スコーン」は、小麦粉、大麦粉、オートミール等に
ベーキングパウダーを加え、牛乳で捏ね上げてから焼き上げた
パンの一種である。
イースト菌などを使わず、
ベーキングパウダーで生地を膨らませている所が特徴で、
生地にバターを混ぜ込んだり、レーズン等を混ぜ入れたりする。
この「スコーン」にジャムやクロテッドクリームをつけて食べる。
クロテッドクリームというのは、
日本ではほとんど聞かない名前だが、
これは脂肪分の高い牛乳を煮詰めて一晩おき、
表面に固まってきた脂肪分を集めたものである。
脂肪分を60%ほど含んでおり、
バター(80%)よりは低く、
生クリーム(30~48%)よりは高い。
これを半分に割った「スコーン」に塗りたくり、
さらにその上にジャムをつけて食べるのが、一般的である。
ジャムが甘さを、クロテッドクリームがコッテリ感を出し、
これと「紅茶」のセットをクリームティーと呼んでいる。

この「スコーン」は、
スコットランドの速成パン・バノックが
もとになったとされている。
バノックはもともと大麦やオートミールで作ったパン生地を、
円形に成型して鉄板の上で焼いたもので、
19世紀以前は熱した石板の上で焼いていた。
現在は、生地の中にベーキングパウダーなどの
膨張剤を入れて作るので、
どちらかといえば「パンケーキ(ホットケーキ)」に
近いものらしい。
文献上に初めて「スコーン」が現れるのは、
16世紀の初めのことである。
イギリスで「紅茶」の人気が高まったのが、
18世紀に入ってからのことなので、
「スコーン」はイギリスにおいて、
「紅茶」よりも長い歴史を持っていることになる。

「スコーン」という名前の由来については諸説あるが、
オランダ語の「良質の白パン」を意味する単語に
由来するという説、
スコットランドのバース・スコーン城にある
「運命の石」に由来するという説が有名である。
「運命の石」というのは、
国王の戴冠式に用いられた椅子の礎石のことで、
スコットランド人にとっては、
独立と自由の象徴ともいえるものであり、
イングランドとの間で、この「石」を巡り、
長い戦いが繰り広げられたのである。
最初のオランダ語の「白パン」説に比べると、
かなり仰々しい曰くが付いているが、
それだけスコットランド人にとって、
「スコーン」は大切なものなのかもしれない。

この「スコーン」、イメージの上では
イギリスのアフタヌーン・ティーの印象が強いのだが、
実は太西洋を隔てたアメリカにも、
同じ「スコーン」という名の、パンがある。
アメリカでは、イギリス式の「スコーン」をビスケットと呼び、
ドライフルーツやナッツ、
チョコチップ等の具材の入っているものを「スコーン」と呼ぶ。
生地自体にも砂糖が混ぜ込まれており、
イギリスのものよりも、かなり甘めに作られている。
そのため、特にジャムや
クロテッドクリーム等をつけることもなく、
そのまま食べるのが普通である。
恐らくはアメリカ独立以前、イギリスの「紅茶」とともに
新大陸へ持ち込まれていたものが、
「ボストン茶会事件」を発端としたアメリカ独立戦争をへて、
「紅茶」はその姿を消していったが、
「スコーン」はその影響を受ける事なく、
残ったのだと考えられる。
「紅茶」という相棒を失った「スコーン」は、
それを埋める意味で具材を使ったり、
砂糖を多めに使うようになっていったのだろう。
「スコーン」もまた、アメリカの地において
「紅茶」というイギリスの呪縛から独立したのである。

「スコーン」が、いつ、どのようにして
日本に入ってきたのかは、さっぱりわからない。
全く情報が残っていないのである。
普通に考えるのであれば、江戸時代後期から幕末にかけて、
長崎の出島に来ていたオランダ人が
食べていた可能性もあるのだが、
それを裏付けるものは何もない。
幕末、黒船でやってきたアメリカ人たちが
食べていた可能性もあるし、
同じく、同時期に日本にやってきていた
イギリス人が持ち込んだ可能性もある。
その場合、アメリカはアメリカ式の「スコーン」を、
イギリスはイギリス式の「スコーン」を持ち込んだ筈である。
ジャム、クロテッドクリームという
特殊なものをつけて食べるイギリス式「スコーン」よりは、
そのまま食べることの出来るアメリカ式「スコーン」の方が、
当時の日本人には、
受け入れやすかったのではないかと思えるが、
いかんせん、その辺りの情報は全く残っていない。

現在でも、「スコーン」を入手するのは手間がかかる。
スーパー等においている商品ではないからだ。
現在では一部のコーヒーチェーン等にも置いているので、
以前よりは食べやすくなって入るものの、
やはり「スコーン」はまだ、一般的ではないようだ。
そして、その「スコーン」よりもなお、入手が大変なのが、
クロテッドクリームだ。
現在でも、かなり品揃えのいいスーパーでなくては、
これを扱っていない。

日本で本格的なアフタヌーン・ティーを楽しむのは、
まだまだ大変なようである。

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