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ヨモギ

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「草餅」というものがある。

緑色をした餅の中に、アンコの入った和菓子である。
「緑」といっても、鮮やかな「それ」ではなく、
どこか灰色じみた、くすんだ緑色である。
この草餅の表面をよく観察してみると、
濃い緑色をした粒が目につく。
大きい粒や小さい粒、様々な粒があるが、
色はどれも同じ色である。

「草団子」というものもある。

これもやはり「草餅」と同じように
灰色がかったくすんだ緑色をしている。
そして同じように表面をよく観察してみると、
やはり「草餅」と同じように、
緑色の粒が見て取れるのである。

「草餅」にしても、「草団子」にしても、
餅や団子に「草」を練り込んだものである。
そしてその「草」こそが、ヨモギである。

ヨモギは、キク科ヨモギ属に属する多年生草本である。
原野や道端に自生しており、
一般的には雑草の扱いを受けている。
別名はモチグサ(餅草)、エモギ、サシモグサ、
サセモ、タレモグサ、モグサ、ヤキグサ、ヤイグサなど、
実に多彩な呼ばれ方をしている。

モチグサというのは、そのままの意味で、
餅に練り込まれる草だからだ。

モグサというのは、
聞いたことがある人もいるかもしれないが、
お灸に使われる、アレのことである。
お灸に使われる「艾(もぐさ)」は、
ヨモギの葉を乾燥させて搗き砕き、
葉の裏の綿毛のみを集めたものである。
作るのに大変な手間がかかるため、
不純物の混じっていないモグサは、非常に高価である。

サシモグサというのも、
聞いたことがある人が、いるのではないだろうか?
百人一首の中に
「かくとだに えやは伊吹の さしも草
 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」
という一首がある。
これは藤原実方朝臣が詠んだ恋の歌であるが、
この中に「さしも草」という一節がある。
これもまた、ヨモギのことをさしているのである。
下の句に「燃ゆる」という言葉が使われているが、
これはお灸に使われる「さしも草(モグサ)」に
かかっているのである。

ヨモギは、夏から秋にかけて背丈が大きく成長し、
70㎝~1mほどにもなる。
秋になると、茎の上部に黄褐色の花をつける。
花は目立たないので、よほど注意していないと
咲いていることに気がつかない。
セイタカアワダチソウと同じように、
地下茎から他の植物の育成を阻害する物質を出す、
「アレロパシー」と呼ばれる現象を起こす。
多年生であるため、
地上部が枯れてしまったように見えても、
地下茎は生きており、翌年、再び芽を出してくる。
深く裂けた、独特な形の葉をしているが、
実はこれに似た形の葉を持つ植物の中に
猛毒のトリカブトがあり、
誤食による死亡事故も起こっている。
良く見れば葉の形は異なっているのだが、
葉の形を良く知らない場合は、
気軽に採集しない方がいいだろう。
トリカブトは、紫系統の目立つ花を咲かせるので、
「そういう」花が咲いている場合、
それはヨモギではない。

葉の形が似てはいるものの、
ヨモギの方は無毒で、広く食用、薬用に使われる。
香りが高いため、
新芽を茹でてすりつぶし、餅などに混ぜる。
これが「草餅」である。
この他にも、おひたしや汁ものの具、天ぷらなどにされる。
薬用としての用途は多様で、
先に書いたお灸用の「モグサ」に加工されるものの他にも、
生葉には止血効果、
乾燥させた葉は、健胃、腹痛、下痢、
貧血、冷え性などに効果がある。

姫路市の「十二所神社」に伝わる話によれば、
928年、疫病の流行に里人が苦しんでいると、
一夜にして12本のヨモギが生えた。
そこに少彦名神が現れ、
このヨモギで病を治療するようにといわれた。
里人たちがその通りにすると、
たちまちのうちに病は癒えた。
感謝した里人たちが、少彦名神を祀ったのが
「十二所神社」の始まりとされる。
「十二所神社」の「十二所」というのは、
12本のヨモギが生えた場所、という意味だろう。
おお、あの神社のある場所にヨモギが生えたのか、
と思ってしまうが、実は現在の十二所神社は
1175年に遷座されたもので、
12本のヨモギの生えた場所ではない。
本来の十二所神社があった場所は、現在の南畝町で、
姫路駅の南西部辺りである。

話がかなり横道にそれてしまったが、
肝心なのは、ここに書かれているヨモギの薬効である。
里人たちが苦しんでいた疫病を、
癒したのがヨモギである。
もちろん、この手の話にありがちな創作であろうが、
このような話が作られるほど、
ヨモギの薬効が信じられていたということである。

現在では、ヨモギを料理に使うことも少なくなり、
我々が身近に接するヨモギ料理は、
「草餅」と「草団子」くらいのものである。
これらにしても、最近ではヨモギを使わず、
緑色の着色料を使って、
餅や団子に色を付けたりしている始末だ。
そうなると、全く草の香りのしない
「草餅」になってしまう。
さすがに、ひとかけらも「草」を使っていない
「草餅」というのは、和菓子好きとしては看過できない。

古代より、食べられる「草」の代表格として、
日本人の健康と、食生活を支えてきたヨモギ。
目の前に生えているヨモギが、
食べられることを誰も知らない。

そんなことにならないように、祈るのみである。

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