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麦飯

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By: minoir

「麦飯」という言葉を聞いて、
あまりいいイメージを持たない人も、多いのではないだろうか?

かつては、刑務所などでも「麦飯」が出され、
臭い飯の代名詞のように受け取られることもあったし、
大量に麦を混ぜ込んだ「麦飯」は、貧乏の代名詞でもあった。
戦中・戦後の食糧難時代を過ごした人たちの中には、
白米のかさ増しとして「麦」を混ぜた、
「麦飯」を食べていた人もおり、
そういう人たちの意見を聞いてみても、
やはり「麦飯」=「まずい」というイメージを持っている人が、
ほとんどである。

そういうわけで、毛嫌いされている感のある「麦飯」なのだが、
一方で、「麦飯」がすすんで供される場所もある。
例えば、トロロなどをかけて食べる場合、
普通の白飯よりも、「麦飯」の方が合うとして、
こちらの方を出す店は多いし、
牛タンなどを名物としている店でも、
これに合うということで、「麦飯」を出している店もある。

さらにいえば、
「麦飯」=「まずい」「貧乏」というイメージであるが、
この「麦飯」を常食としていた有名人として、
徳川家康や昭和天皇などがいる。
両者とも、日本の中では最高峰といえる地位をもった人間である。
そんな2人が、「貧しい」「まずい」の象徴である
「麦飯」を常食としており、
さらに、両者ともかなりの長寿を誇ったということは、
かなり暗示的な事実であるような気さえしてくる。
徳川家康の場合、家臣が白飯の上に薄く麦をまぶしただけの
「麦飯」を出してくると、それを怒ったというから、
ただ、質素をアピールしての「麦飯」食でなかったことは、
明らかであろう。

近年では、その健康効果を期待して、
普通の白飯から「麦飯」に切り替える人もいる。
特に高血糖、高血圧、高コレステロール、便秘、ダイエットに
効果があると言う。
どれも、現代人を大いに悩ませている、いわば「現代病」である。
よくよく考えてみれば、
日本人がしっかりと白米を食べられるようになったのは、
戦後、コメの生産量が増えてからのことである。
それまでの日本でいえば、白米に何らかの増量剤を加えた、
「かて飯」と呼ばれるものを食べるのが、一般的であった。
「かて」というのは、コメに加えるもののことを指している。
この「かて」には、穀物や野菜、海草などが使われたが、
「麦飯」というのは、その「かて飯」の代表的なものであった。
つまり、現在、日本は長寿国と言われているが、
その長寿の部分を支えている人間たちは、
そのほとんどが、かつて「麦飯」をはじめとする、
「かて飯」を食べてきた世代なのである。
これも、見方を変えれば「麦飯」こそが、
長寿国「日本」を作り上げたということが出来るかも知れない。

「麦飯」というのは知っているが、
一体どういう風にして作ればいいのか?
と、思う人もいるかも知れない。
なるほど、スーパーでもコメならば様々な銘柄を販売しているが、
「麦」ということになると、どこで売っているのか、
よくわからないということも、あるかもしれない。
何のことはない、大方の場合、
スーパーのコメ売り場に隣接して、麦や雑穀を並べてある。
これを購入し、コメを炊く際に一緒に釜の中に入れておけば、
簡単に「麦飯」は出来上がる。
そういうことならと、スーパーの「麦」のコーナーを見てみると、
意外に多くの種類の「麦」が販売されている。
どこのスーパーでも、置いてあるのが「押麦」だ。
大きな袋の中に、まとめて入っているものや、
小さな袋の中に、1回分ずつの量を小分けにされているものなど、
数種類のものが置いてあることもあるが、
どれも、中に入っているのは、薄く平べったい楕円形の大麦だ。
ちょうど楕円形の長い方向に、1本の線が入っている。
これは大麦を蒸して、柔らかくなったものを、
ローラーで押しつぶし、乾燥させたものである。
平べったい形状をしているのは、ローラーで潰しているからで、
「押し」と名前がついているのも、この加工のためである。
どうして、わざわざそんな加工をしているのだろうか?

「麦飯」に入れられる大麦は、そのままの状態だと
水を吸いにくく、また消化も良くない。
だから、この「押麦」が開発されるまでは、
大麦を砕き「挽き割り麦」にして、コメと炊いたり、
精白した大麦を一度炊いて、柔らかくしたものを
コメに混ぜて炊いたりしていたのである。
これでは、手間がかかってしようがない。
この手間を軽減するために、「押麦」が開発されたのである。
大正時代から昭和初期にかけて開発された「押麦」は、
先に炊いておく必要もなく、石臼で砕く必要もない。
ただ、洗ったコメと水を釜にかけた所に、
「押麦」と、必要な水を足すだけである。
そのまま、しばらく吸水させて、普通にコメを炊けば、
手軽に「麦飯」が炊きあがるという寸法である。

この「押麦」が開発される以前、明治・大正時代には、
コメと麦の比率が、コメ2麦8ほどだった。
……。
それじゃ「麦飯」というより「飯麦」じゃないか、
というツッコミが聞こえてきそうである。
事実、この比率でいえば、大麦の隙間に
コメが張り付いていると言った方がいいだろう。
大麦の粒が、コメの粒よりも大きいことを考えると、
実際には、比率以上に麦ばかりという感覚をもつかも知れない。
コメの生産量が上がるにつれて、
コメ3麦7、コメ5麦5と、コメの比率が上がっていき、
戦後に至ってようやくコメ7麦3と、
コメ主体の「麦飯」へと変わっていった。
ちなみにこの後、コメだけの「白飯」が一般的となり、
「麦飯」はほとんど食べられなくなっていった.

ところがこの後、皮肉なことが起こる。
戦後、西洋食文化の流入などによって、米食自体が減っていき、
コメが余るようになり始めたのである。
さらにいえば、大麦の生産者が減ることによって、
だんだんと「麦」の値段が上がり始め、
現在では、コメの価格と「麦」の価格は、ほぼ同等となり、
場合によっては、コメよりも「麦」の方が高価になってしまった。
実は現在、自分も日常的に「麦飯」を炊いて、
これを常食しているのだが、
「麦」の価格の方が高いため、1~2割ほど入っているだけである。
かつてはコメを食いつなぐために、「麦」を混ぜていたはずなのに、
今では「麦」を大切にして、コメの比率を多くしている。
TPPの影響で、破格のコメが輸入されるようになれば、
いよいよ、「麦」が多く入っている「麦飯」は
贅沢品ということになってしまうのかも知れない。

「まずい」「臭い」というイメージを持たれている「麦飯」だが、
実際に食べてみると、そうそう「まずい」なんてことはなく、
「臭い」に関しても、コメのそれとは違うだけで、
決して不快なものではないことに気がつくだろう。
むしろ酷いコメの場合は、その「臭い」を
麦がカバーしてくれることもある。
いずれ輸入米が一般的となり、
その香りに不快を感じるようなことがあれば、
それの解決策の1つとして、「麦飯」にしてしまうというのも、
それはそれでアリだろう。

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