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「関西のつり」休刊

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By: yamakk

先日、図書館に行くと、雑誌のコーナーで
こんな文句が目についた。

「52年間のご愛読、ありがとうございました」
「現時点の集大成」

まるで、どこかの店の閉店の挨拶のようだが、
それも遠からず、と言った所だろう。
この文句が印刷されていたのは、雑誌の表紙であり、
その雑誌が休刊になるため、これまでの愛読を
読者たちに感謝した言葉だったからである。
さらに驚いたのは、その雑誌のタイトルを見てからだ。
そこには「関西のつり」とあった。

「関西のつり」といえば、知る人ぞ知る、
関西釣り情報誌の草分け的な存在だ。
釣り雑誌は数多くあるものの、その中でも「硬派」な雑誌であり、
その浮ついた所のない内容は、まさに「マジメな釣り雑誌」だった。
ちょうど、自分が子供のころに、父親が何冊か購入して、
これを読んでいた時代があったのだが、
そのころには、自分も置いてあった「関西のつり」を手に取り、
パラパラとめくって、中を見てみたものだ。
実に、幼稚園とか、小学校の低学年ごろの話である。
当時の自分は、漫画雑誌も学習雑誌も読んでいなかったので、
実のところ、人生で一番最初に読んだ雑誌である。
釣り雑誌だけあって、海や川、魚の写真が数多く掲載されており、
難しい漢字や、意味のわからない言葉をとばして読んでも、
充分に自分をワクワクさせてくれる雑誌だった。

やがて、小学校の高学年くらいになると、
周りの友人たちが始めたということもあり、
自分も釣りを始めるようになるのだが、
そもそも、幼少時の「関西のつり」による、ワクワクがなければ、
自分が釣りを始めていたかどうかも、疑わしい。

その「関西のつり」が休刊になるという。

少なからず、衝撃はあった。
「52年間のご愛読」とあるように、歴史のある雑誌なのだ。
内容に浮ついた所がなく、「マジメ」というのは、
図書館の雑誌コーナーにおいて、
唯一の釣り雑誌であったことからも伺えるだろう。
(自分の良く利用している、揖保川図書館の話だが……)
最初に図書館の雑誌コーナーでその姿を見たとき、
おお、さすがは「関西のつり」だと、思ったものだが、
それも今回で、最後になるわけである。

自分は、釣りが趣味で、本を読むのも趣味の人間である。
そういう事情を踏まえてみれば、
「釣り雑誌」を愛読していたり、
購読していたりしても、不思議ではない。
しかし、自分は今までに一度しか
「釣り雑誌」を購入したことはない。
と、いうのも、自分が20歳くらいのときには
すでにインターネットが急速に普及し始めており、
釣りに関する情報も、それで集めるようになっていたからである。
月に1度だけ、情報をもたらされるのと違い、
ネットでは、情報は全てリアルタイムで発信されている。
釣りの情報などは、なんといっても「早さ」が命なので、
どうしても、紙媒体の雑誌の情報よりも、
ネットの情報を重要視することになる。
そう、すでに20年前の段階で、
インターネットは「釣り雑誌」を脅かし始めていたのだ。

20年ほど前、本屋にはいくつもの「釣り雑誌」が並んでいた。
今回、休刊となった「関西のつり」をはじめ、
「週刊釣りサンデー」や「月刊釣り情報」などは、
本棚の前に平積みされており、
いかにも「売れてますよ」という顔をしていたものである。
これらの雑誌が並んでいたのは、本屋だけではなく、
釣道具屋にも書籍のコーナーがあり、
そこでは「釣り雑誌」というのは、まさに花形であった。
その花形の1つ、「関西のつり」が休刊になると知り、
他の釣り雑誌が、その後、どうなったのかを調べてみた。
その結果、「週刊釣りサンデー」はすでに休刊になっており、
「月刊釣り情報」は、「月刊釣り画報」と名前を変えて
存続していた。
「週刊釣りサンデー」などは、当時にしても貴重な
週刊の釣り雑誌だったのだが、
元の編集社が業績悪化によって解散、
さらにそこから雑誌名称を受け継いで発刊されたものも、
隔週刊、月刊と、発売間隔が延びていき、
やがてこれも休刊となってしまった。
かなり、あれこれとあがいた末の休刊だったようだ。

紙媒体メディアの、売り上げの落ち込みは、
ここのところ、あちこちで耳にする。
新聞などは、かなり大手の新聞社でさえ、
その売り上げが落ち込んでいると聞くし、
雑誌類は軒並み、その売り上げを落としているようである。
かつては出版社にとって、ドル箱といわれた漫画雑誌でさえ、
ここ最近は売り上げの落ち込みが激しく、
休刊になる漫画雑誌も多い。
かの集英社の少年ジャンプでさえ、
月刊は2007年に休刊している。
そういう流れの中では、雑誌としてはマイナー感のある
「釣り雑誌」が休刊に追い込まれるのも、
仕方がないのかもしれない。

しかし、何故、紙媒体はこれほどまでに
弱体化してしまったのだろうか?

よくいわれるのは、電子書籍などへと移行している、
というものだ。
なるほど、ここ何年かは電子書籍は
そのシェアを伸ばしてきている。
しかし、紙媒体の売上数の減少数と、
電子書籍の売り上げ増を引き比べてみると、
電子書籍が紙媒体の売り上げ減を、補っているとは言えず、
やはり全体として、出版物そのものの売り上げが、
落ちてきているといってもいいだろう。

かつてのラジオやTVなどの台頭も、
新聞や雑誌にとっては、脅威であったはずである。
なんといっても、発信する情報の鮮度がまるで違う。
しかし、新聞や雑誌は、これらに駆逐されることはなかった。
たしかにラジオやTVの情報の早さは驚異的だが、
基本的にその情報は、川の水の様に留まる事なく、
流れていってしまう種類のもので、
さらには、その情報を得ようとする者が、
ラジオやTVの時間割りに合わせ、
情報を受け止めねばならなかった。
録音や録画といった方法もないではなかったが、
それらの方法はどうしても面倒で、
日常的に行なうには、結構な手間を必要とした。
その点、新聞や雑誌では、欲しいときに
その情報を入手することが出来る上に、
持ち運びも比較的簡単で、一切の再生用機器などを必要としない。
速報性のみが重要視される情報はともかく、
それ以外の情報を扱う場合、
まだまだ紙媒体の付け込む隙が、大きかったのである。

ところが、インターネットの普及と、
それにアクセスできるお手軽な機器の普及により、
新聞や雑誌の有利な点は、大きく損なわれることになった。
映像や音で情報を伝える、ラジオやTVと違い、
インターネットでは、
基本的に「文字」と「画像」で情報が伝えられる。
これは「文字」と「絵(広範な意味、写真やイラスト)」で
情報を伝える新聞や雑誌と、丸かぶりしている。
インターネットの環境が充実するにつれ、
それは、新聞や雑誌の上位互換品になっていったのである。

こうした、インターネットの脅威を考えてみれば、
むしろ、インターネットが普及し始めてから20年と言う期間を
生き抜いてきたことこそが、すごいことなのかもしれない。
最終号の表紙に「52年」とあったように、
ほぼ半世紀に渡って、関西の釣り情報誌の草分けとして
情報を発信し続けた「関西のつり」の休刊。

これも時代の流れには違いないのだが、
やはりそこには、一抹の寂しさを感じざるを得ない。

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