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クッキーとビスケット

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子供のころ、我が家のオヤツには
よくビスケットが出てきた。

サクサクとしていて、ほんのりと甘く、
そこそこお腹も膨れる。
ぼろぼろとカスを床に落とせば、怒られたが、
大方の場合は、一口で食べてしまえるサイズの
ビスケットだったので、カスをこぼすこともなかった。
多分、子供があまりにカスをこぼすので、
そうさせないための工夫だったのだろう。

クッキーに初めて出会ったのは、
ビスケットよりも随分と後のことだ。
記憶している限りでは、どこか余所の家で
オヤツとして出てきたのが、最初だったと思う。
ビスケットのように表面が滑らかでなく、
ビスケットよりも、やや湿気っているように感じられた。

日本では、クッキーとビスケットというのは、
別物という風に捉えられているが、
世界的には、この2つに違いはない。
「クッキー」というのはアメリカを中心とした、
北米で使われる言葉で、それ以外の英語圏では、
「ビスケット」という言葉を使っている。

日本には最初「ビスケット」が入ってきた。
室町時代後期、南蛮人達が伝えた
南蛮菓子のひとつに「ビスカウト」なるものがあり、
これが、日本に持ち込まれた最初のビスケットであった。
ビスケットは、小麦粉を油脂などで練って、
しっかりと焼いているため、保存性がかなり高い。
南蛮人が持ち込んだ「ビスカウト」も、
お菓子というよりは、
航海用の保存食という意味合いで
積み込まれていたものだろう。

ではこれ以前、日本には
「ビスケット・クッキー」にあたるものはなかったのか?

実は縄文時代、栗の実の粉を固めて焼き上げる、
「縄文クッキー」なるものが、
存在していたといわれている。
もちろん、栗の実を粉にしただけでは、
いくら水を加えてもクッキーにはならないので、
何らかのつなぎを使ったようだ。
現在、縄文クッキーを再現する場合には、
長芋か卵などをつなぎにすることが多いが、
縄文時代には卵を食べる風習はなかったので、
当時、つなぎに使ったとすれば、ジネンジョだろうか?
肉などをつなぎに使うこともあったらしいが、
それでは出来上がりがクッキーではなく、
ハンバーグになってしまう。
栗入りのハンバーグだ。
当時は砂糖などがなかったので、
全く味付けされていない、素の栗の味だったはずだ。
しっかりとアクさえ抜けていれば、
ほんのり甘くて、おいしいクッキーが出来たかもしれない。

次にそれらしいのは、奈良時代の唐菓子だ。
唐菓子の中には、小麦粉を練って焼いたり、
油で揚げたりしたものがある。
ただ、小麦粉を練る際に、油で練らなければ、
焼いてもあのサクッとした食感は得られない。
恐らく、このころは、水で練っていたと思われるので、
食感はかなり違っていたのではないだろうか?

「クッキー・ビスケット」の定義を、
「小麦粉を主原料にして焼いたもの」とまで広げれば、
この唐菓子辺りは、条件を満たしているかもしれない。
だが、そうなると、パンやたこ焼きでさえも、
「クッキー」ということになる。
現在のものに近い、サクッとした食感で、
乾燥しているもの、と定義した場合、
やはり南蛮菓子の「ビスカウト」が、その嚆矢といえる。
室町時代後期に伝わった「ビスケット」だが、
「ビスカウト」としては伝わらず、
江戸時代中は「ぼうろ」として、
似たような菓子が作られていた。

「ビスケット」が再び日本の歴史に登場するのは、
幕末、戦時のための兵糧、軍用食としてである。
1855年、パンの製法を学ぶため、
長崎に留学していた水戸藩士・柴田方庵が、
オランダ人から学んだパン・ビスケットの製法を、
同じ水戸藩士の萩信之助に送った。
これを送った日付が2月28日であったため、
現在、この日が「ビスケットの日」になっている。
ちなみに、このとき学ぼうとしていたパンも、
軍用食とするためのものだった。
ちなみに「ビスケットの日」はあるが、
「クッキーの日」はない。
記念日の上では、この2つは同一のものとされている。

ビスケットが民間で作られ始めたのは、
明治時代初頭、凮月堂がイギリスより機械を購入し、
生産を始めたのが、最初である。
ただ、これが一般的になるのは、日清戦争にて
ビスケットが兵糧として採用され、
大量生産されるようになったためだ。
南蛮人が持ち込んだ「ビスカウト」は、
250年以上続いた江戸時代を超えて、
明治時代に復活した。
しかし、その影には常に戦争の影が、
見え隠れしていたのである。

ところが「クッキー」の方は、
このような不穏な空気は漂っていない。
こちらが大衆に知られるようになるのは、戦後のことで、
先進的なアメリカのキッチン用品とともに、
贅沢な手作りお菓子として、知られることとなった。

ビスケット=機械生産
クッキー=手作り

というのは、日本における一般的な認識だ。
ビスケットには保存性や栄養といった実質的なものが、
クッキーには手作りの暖かさやリッチな味わいという
嗜好性の強さが見て取れる。
世界的には、ビスケットもクッキーも同一視されているが、
日本では法律的にも、クッキーは
「手作り風の外観を有し、
 糖分・脂肪分を重量比で40%以上含むもの」
と定められている。

そういう経緯もあってか、日本では

ビスケット=災害時に供えた非常食
クッキー=ちょっとリッチなお菓子

という認識が定着してしまった。
形や、微妙な成分の違いで、
随分とその評価に差がついてしまった。

子供のころ、お菓子として
散々ビスケットを食べさせられたためか、
普段はクッキーを美味しく食べていても、
疲れた時や、ひどく空腹な時は、
やはりビスケットが食べたくなる。

これが子供のころからの刷り込みのせいなのか、
あるいは非常食としての、
ビスケットの本領なのかは、わからない。

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