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牛丼の価値

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「牛丼」には「貧」のイメージがある。

牛丼ファンに喧嘩を売っているつもりは無いのだが、
ここの所の「牛丼」のイメージはよくない。
自分が子供のころは、
ここまで「牛丼」のイメージは低くなかったのだが、
それから数十年の間に、
「牛丼」のイメージはひどく低いものになってしまった。

もともと丼の世界には、
「うな丼」という不動のトップがおり、
この地位は現在でも変わっていない。
これに継ぐものとして、「天丼」があり、
その下のランクとして、「カツ丼」「鉄火丼」
などが並んでいる。
この下には「親子丼」「玉子丼」などがあり、
ここに挙げた順番が、
「丼もの」のランキングと言ってもいいだろう。
(あくまでも、自分の偏見による意見)

自分が子供のころ、「牛丼」というのは
「天丼」ほどではなくても、
「カツ丼」と同じくらいのランクであった。
町の食堂などでも、「牛丼」は「カツ丼」よりも、
ワンランク上の扱いをしている所もあった。
これは「カツ丼」=「豚肉」、
「牛丼」=「牛肉」ということになり、
「牛肉」>「豚肉」という図式が生まれ、
「牛丼」>「カツ丼」という評価になったのだと思われる。

現在では、「牛丼」に「カツ丼」より
高い評価を与える人は少ないだろう。
ここ数十年の間に、すっかり「牛丼」の地位は低下し、
「牛丼」=「安物」というイメージが
出来上がってしまった。
他の丼もののイメージは、数十年前と変化していない。
なぜ「牛丼」のみが、そのイメージを低下させたのか?

これはひとえに、「牛丼チェーン店」による
行き過ぎた低価格競争のためだろう。
1990年代から2000年代まで、
ほとんどの牛丼チェーンでは、
並盛1杯400円ほどであったものが、
2000年代に入るや否や、一斉に値下げ競争が始まる。
やがて価格は並盛1杯250円~290円ほどに落ち着く。
25%~40%近い、値下げを行なったのである。

しかし2004年、牛丼業界に大きな問題が起きる。
狂牛病問題、いわゆる「BSE問題」である。
もちろんこの問題は、牛丼業界のみならず、
日本人の食卓に、少なからぬ影響を与えたのだが、
牛丼業界の問題は、特に深刻で、
原材料であるアメリカ産牛肉の輸入が、
完全に禁止されてしまったのである。
このため、各牛丼チェーンとも一時的に牛丼の販売を
中止せざるを得ない状況に陥ってしまった。
アメリカ産牛肉の輸入が再開されるまでの間、
牛肉の代わりに豚肉を使った、「豚丼」を販売したり、
オーストラリア産の牛肉を使うなどして、
各社それぞれに苦境を乗り切っていった。

やがて2006年、アメリカ産牛肉の輸入再開を経て、
各牛丼チェーンでは「牛丼」の販売が再開される。
このときには、BSE問題が起こる前よりも、
幾分、値上げされた価格での販売となった。
この後、2009年くらいから、
再び牛丼の低価格競争が始まり、
各社とも、BSE問題発生以前の価格に近くなっていった。
以降は、微妙な値段の変動はあるものの、
大体、同程度の価格帯の中での変動に留まっている。

この牛丼業界が行なった低価格競争により、
確かに「牛丼」は安く、食べやすくなったのだが、
同時に「安物」というイメージを
顧客に植え付けてしまった。
現在、様々な丼ものの中で、
「牛丼」ほど安く食べられるものはない。
かつてはもっとも低ランクだと思われていた
「親子丼」や「玉子丼」でさえ、
300円以下の価格で食べられる所は無い。
(自分の知っている範囲では)
果てしない低価格競争の挙げ句、
自らの「価値」を低下させてしまったのである。

かつて「美味しんぼ」の中で、
牛丼を取り上げたエピソードがあった。
(コミックス9巻、「再会の丼」)
そのエピソードの中では、ある落語家が「牛丼」を出され、
「牛丼か、おごりやがったな」
と厳しい表情をするシーンがある。
もちろん、ここでいう「おごり」というのは
「奢り」であり「驕り」であろう。
「奢り」は、贅沢な生活をするという意味であり、
「驕り」は、たかぶるという意味である。
「牛丼」を出したのは、
贅沢で驕りたかぶった行為だと、非難したわけである。
この「美味しんぼ」の9巻が発売されたのが、
1987年のことだ。
少なくともそのころはまだ、
「牛丼」は「贅沢で驕りたかぶった」という
意味を持つほどの「価値」があったのである。
2015年現在、
同じように「牛丼」を出したとしても、
「牛丼か、おごりやがったな」
とは言ってくれないだろう。
むしろ「もっとちゃんとしたものを出せ」と、
お叱りを受けるかもしれない。
それほどまでに、この30年間で
「牛丼」の価値は下落してしまったのである。

一度、下落してしまった価値が元に戻るには、
下落した時間よりも長い時間がかかるのが「常」である。
そうなると、今から「牛丼」の価値の
復権を図ったとしても、
30年以上の時間がかかるということになる。

少なくとも、自分の生きているうちに
「牛丼」の復権を目にすることはなさそうである。

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