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雑感、考察

雨登山

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「行楽日和」という言葉がある。

天気がよく、気温も暑すぎもせず、寒すぎもしない時期の、
穏やかな日のことである。
暑すぎもせず、寒すぎもせず、ということで、
大方、「行楽シーズン」というのは、春や秋のことを指し、
その中の天気のいい日を、「行楽日和」と呼んでいる。

山に登ろうか、ということになったとき、
大方の人は、この「行楽日和」を選ぶことが多いようである。
もちろん、山には山の状況というものがあり、
平地では暑すぎる真夏の時期も、
標高2000mを超えるような高山においては、
暑くも寒くもない、「行楽シーズン」ということになる。
気温というのは、高度が100m上がるごとに、
0.6度下がっていく。
真夏の、日中気温が35度にもなろうかという
酷暑の中にあっても、標高2000mの山では、
23度という、非常に過ごしやすい気温なのである。
そういう理由で、真夏には高山が
「行楽シーズン」ということになり、
多くの登山者が、普段は足を運ばないような高山へと
向かうのである。

じゃあ、冬はどうなんだ?
冬は登山には向いていないのか?と、いうことになると、
別にそういうわけでもない。
冬場は、気温こそ下がっているものの、
低山の樹林帯では多くの広葉樹が、その葉を落としており、
かなり見通しの良い風景に変わっている。
また、春から秋にかけては鬱陶しく感じる虫たちや、
蜂や蛇などの危険生物もいなくなっているので、
これらが嫌いな人にとっては、
まさに最高の登山シーズンかも知れない。
さらにこれは、一部の登山者の話になるが、
厳冬期の高山というのは、一面雪に覆われた、
独特の世界を作り上げる。
町中で暮らしていたのでは、一生体験することの出来ないような、
雄大で神々しいまでの雪山風景である。
(もちろん、高山では早くに冬が訪れ、
 遅くまで冬が残るので、平地の春や秋でさえも、
 冬山を楽しむことは出来るのだが)
これらを楽しむ人にとっては、
まさに冬は山のベストシーズンだろう。

しかし、どの季節にもいえることだが、
天気だけは良くなければならない。
春~秋にしても、雨が降っていては「行楽日和」にはならないし、
冬の吹雪が吹き荒れる中では、行楽もへったくれもない。
当然、どの季節にあっても、
山に行こうという人間は天気を気にかけ、
晴れていればウキウキと出かけていき、
雨や雪が降っていれば、残念ながらと山行を中止する。
もちろん、登山者の中には雨であろうが、雪であろうが、
山へと出かけていく人間もいるのだが、
少なくとも自分は、天気が悪い=山行しない、というのが、
1つの決まり事のようになっている。

しかし、数多い山行の中では、登山中に天気が変わり、
雨が降り出すなんていうことも、あり得る話である。
山の天気は変わりやすい、というのは、
登山者以外でも、よく知られている事実であるし、
そのために、登山道具の中にカッパを入れておくことは、
もっとも重要な登山準備の1つになっている。
自分もかなり慎重に天気を調べて山行しているが、
それでも、途中で雨に降られたことが、何回かある。

しかし、ふと、考えてみた。
登山中、予期せぬ雨に降られるという事態に遭遇し、
否応なく雨の中を登山するのではなく、
最初から、雨の降っている山に登りに行くのもアリではないか?
今までは、天気も崩れなさそうな日ばかりを選んで
山に行っていたため、途中で雨が降り出したとしても、
雨具をつける必要もないような小雨ばかりだったが、
一度、普通に降っている雨の中を、
きっちりとカッパを着て、歩いてみることも必要ではないか?

そう考えているうちに、山に行こうとしていた日に雨が降った。
いつもなら、残念ながらと山行を諦めるのだが、
今回はラッキーとばかりに、山に出かけていった。
登る山は鶏籠山と的場山。
両方とも、たつの市の山で、何度も登った慣れた山だ。
的場山の方は厚く雲がたれ込め、山頂部分が雲の中に隠れている。

紅葉谷から龍野城の裏に回り、そこから鶏籠山山頂への急登を登る。
雨は降っているのだが、頭上に木が生い茂っているため、
思ったほどに、雨の降っている感じがない。
ただ、足下はやや緩くなっているので、
足を下ろす場所に注意を払いながら、ゆっくりと登って行く。
カッパが安物のせいか、少し蒸れるような感じがするが、
雨の方はしっかりと防いでくれているようだ。
さすがに雨の中、山に登っている人間は自分だけで、
他の登山客の姿は見当たらない。
薄暗いものの、視界自体は良好で、歩行に問題はない。
結局、晴れているときと、そう変わらないタイムで
登り切ることが出来た。
この辺りでやや、雨脚が緩くなってきた。
山頂から的場山方向、両見峠へと山道を下って行く。
やはり足下が緩いので、登り以上に歩行に気をつける。

両見峠から、キツい登りが始まる。
足場も小さいので、下手に足を滑らせれば命取りである。
一歩一歩、足を下ろす場所を慎重に決めて、ゆっくりと登る。
途中、ピークで一休みして町を見下ろしてみるが、
風景は雨に煙っており、全然見晴らしがない。
ピークを越えて、さらに登って行くと、
途端に深い霧に包まれてしまった。
ああ、ここから上が、雲がたれ込めていた所なのだなと得心し、
歩を進めるのだが、かなり視界が悪く、
5~10mほどしか見通しが利かない。
だが、何度も登っているコースのため、
それだけ見通しが利けば、迷ったりコースを外れることはない。
だが、深い霧の山道を歩くというのは、
かなり幻想的な雰囲気であり、非現実感が強い。
そんな山道を歩いていると、
霧の中にぼんやりと「赤い柱」が何本も現れた。
ギョッとなって、よく見てみると、
何のことはない、ただの杉の木である。
表皮をシカに食べられてしまっているのだが、
それが水に濡れると、まるで血のように赤黒く発色する。
正直、かなり不気味で、
霧の中に浮かぶ「赤い柱」の間を歩いていると、
まるで死後の世界への道を、歩いているような気分になる。
霧の山道を歩き続け、無事、的場山山頂に着いたが、
山頂も霧の中で、視界は0に近く、播磨平野の展望はもちろん、
すぐ側にあるはずの電波塔でさえ、うっすらとしか見えない。
そんな状況なので、山頂に長居する気も起こらず、
野見宿禰神社の方向へと、さっさと下山を開始した。
下り始めてしばらくすると、霧が晴れた。
すでに雨はほとんど止んでおり、
雨登山ではなくなってしまっているが、
相変わらず足下は濡れているので、滑らないよう慎重に歩く。
わりとゆっくりと歩いたこともあり、
鶏籠山→両見峠→的場山のコースを歩くのに、
3時間ほどかかってしまった。

さて、改めて行なった雨登山だったが、
足下の悪さは予想していたものの、
山頂付近で包まれた深い霧は、想像以上であった。
よく知っているコースだったから、
何の問題もなく歩くことが出来たが、
初めてのコースで、あの霧に包まれてしまえば、
遭難の可能性は跳ね上がるだろう。
しかし、この深い霧は、それまでにない、
不思議な山の世界を自分に体験させてくれもした。
(もちろん、雨が降っていない状態でも、
 深い霧が発生することはあり得るし、
 実際にそれに遭遇したこともある)
そういう意味では、やはり晴れた日の登山だけでは
味わうことの出来ない、貴重な体験だったといえるだろう。

山での天気は変わりやすく、
思いもよらぬ雨などに遭遇することがある。
もちろん、カッパを着込んで歩くことは、
少なからず不快感を感じてしまうことになるが、
そういうときは一度気持ちをリセットして、
滅多にない、雨の「山」を楽しんでみるのがいいだろう。

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