ブラックライトと呼ばれる電灯がある。
普通の室内照明などに使われる電灯と違い、
これをつけても、部屋の中は明るくならない。
点灯中のブラックライトを見てみると、
なんだかうすぼんやりと、紫色に光っているのが分かる。
一応、わずかではあるが、
人の目でも関知することの出来る光なのである。
では、このブラックライトの正体は何か?ということになるのだが、
これは普通の光ではなく、紫外線を出す電灯だ。
紫外線は、光の波長が長いため、
人はほとんどこれを関知することが出来ない。
紫外線といえば、肌を日焼けさせるものとして知られており、
あまり過度にこれを浴びれば、健康被害をもたらすこともある。
そんな事情から、悪役にされることの多い紫外線であるが、
実際には、我々の周りでも頻繁に利用されている。
例えば、医療器具に紫外線を当てることで、これを殺菌したり、
虫などを紫外線でおびき寄せ、これを電気ショックで駆除する
害虫駆除装置などに使われているのだが、
我々にとって、もっとも身近な紫外線利用は
電灯として使われている「蛍光灯」である。
「蛍光灯」の仕組みを大雑把に説明すると、
あの白いガラスの筒の中には、水銀の機体が封入されており、
そこに電気を通すことで、水銀が紫外線を発生させる。
その紫外線が、ガラスの筒に塗られている、蛍光物質を光らせ、
ガラスの筒の外側へ、可視光線として放出されるのである。
白熱灯などに比べると、同じ明るさでも消費電力を抑えられるため、
電灯として、そのシェアが広まった。
近年では、水銀の使用と輸出入を規制しようという動きがあるため、
蛍光灯に代わって、より省エネルギーなLED照明へと移行しつつある。
紫外線を可視光線へと変えて放出する「蛍光灯」と違い、
そのまま放出するものが、ブラックライトであると考えてもらえばいい。
このブラックライト、蛍光物質のみを光らせることから、
近年では、これを視覚効果として利用する
インテリアとしても利用されることが増えている。
さて、このブラックライトをあてると、光を放つガラスがある。
ガラス製造の際、着色料としてごく少量のウランを加えると、
ほんのりとした緑色に発色するガラスが出来上がる。
この出来上がったガラスに、ブラックライトなどで紫外線をあてると、
ガラス自体が緑色の光を放つのである。
このガラスの名は「ウランガラス」。
紫外線を受け光を放つ、この不思議なガラスは、
1830年ごろ、チェコで生まれたとされている。
もともとは、黄色いガラスを作るための発色剤として
ウラン化合物を加え、ほぼ狙い通りの色のガラスが出来上がった。
……。
そう、あくまでもウランを使った「ウランガラス」は、
光を放つガラスとして作り出されたものではなく、
あくまでも、黄色いガラスを作ろうとして作られたものである。
そもそも、この「ウランガラス」が発明された1830年ごろには、
まだ、人工的に紫外線を照射できる装置がなかったため、
人類は、自らの力では「ウランガラス」を光らせることが出来なかった。
だが、ちょうど夜明け前の時間、空が青色のときには
空に紫外線が満ちているので、その時間帯になると、
そのわずかな時間だけ、緑色の光を放っていたのである。
このウランを発色剤として使用した「ウランガラス」。
ウランが核物質として広く知られている現在では考えにくいことだが、
この「ウランガラス」は、世界中で大量に生産されていた。
もちろん、それは日本でも同じことで、
大正時代から昭和初期にかけてのころには、
日本でも大量の「ウランガラス」製品が生産されており、
特に紫外線を可視光線に変えるという性質を活かし、
鉄道の前照灯などに使われることもあった。
人間の目には、ほとんど明るさを感じさせない紫外線を可視化し、
その分だけ、電灯の輝度を上げることが出来たためである。
そんな状況を一変させたのが、原子爆弾の開発だ。
第2次世界大戦中、ウランが原子爆弾に使えることが判明すると、
米国では使用が中止され、戦後、ウランの価格は跳ね上がり、
「ウランガラス」の生産量も、極端に落ち込んでしまうことになった。
なんといっても、民間でウランを扱うのは難しい。
現在では、原子爆弾や原発事故の影響もあってか、
ウランという名前にすら拒否反応を示す人も多そうだが、
実際に「ウランガラス」製造の際に使用されるウランの量は、
1kgあたり1g程度で、全体からの割合だと0.1%程度になる。
そのため、「ウランガラス」が人体に与える影響は、
ほとんど無いと考えられている。
第2次世界大戦以降、ウランは軍事利用の他、
原子力発電などにも使われるようになったため、
「ウランガラス」の生産は、ガックリと落ち込んでしまった。
もちろんこれは、日本国内においても同じことで、
戦前、大量に作られていた「ウランガラス」は、
全く、製造されなくなっていたのだが、
近年、チェコやアメリカで、再び「ウランガラス」が
製造され始めたのにならって、2003年から
岡山県鏡野町の人形峠で「ウランガラス」が製造され始めた。
どうしてそんなところで?と、思われるかも知れないが、
岡山県鏡野町の人形峠には、日本では珍しい
ウラン鉱石を産出する鉱山が存在しているのである。
この人形峠から産出するウラン鉱石は、特に「人形石」と呼ばれ、
資源価値を有する、もっとも重要なウラン鉱物とされている。
現在では、海外から安価なウランが輸入できるようになったため、
人形峠ウラン鉱山は閉山されているが、
これには、貴重な国産のウラン鉱山を、いざというときのために
とっておくという目的もあるようだ。
この人形峠から掘り出されたウラン化合物を使って、
「ウランガラス」を作り、これを1つの特産品にしているワケである。
まあ、放射能漏れ事故を起こす原子力発電所や、
原子爆弾などの核兵器にウランを使用するよりは、
ずっと安全で、平和な利用方法には違いない。
2006年には、「妖精の森ガラス美術館」が開館しており、
中では美術館所蔵の「ウランガラス」製の美術品の数々や、
日本産の「ウランガラス」を見ることが出来る。
今回、この「ウランガラス」のことを知り、
ネット通販などで買えないものかと、値段を調べてみたのだが、
民間では貴重な「ウラン」を使っていることもあって、
「ウランガラス」製品は、どれもなかなかのお値段がついている。
何せ、「ウランガラス」で作ったビー玉1つが、
500円以上という具合である。
もちろん、この「ウランガラス」、
ただ置いておくだけでは、その真価を発揮させることが出来ない。
ブラックライトを使って発光現象を起こさせなければ、
ちょっと黄緑色を帯びただけの、ただのガラスに過ぎない。
そうなると当然、それ用の設備を用意しなければならず、
結果的には、相当高価なインテリアということになってしまう。
もし、光るガラス「ウランガラス」に興味があるのであれば、
まずは岡山県の「妖精の森ガラス美術館」に足を運んでみるのが
いいだろう。