今年は、裏の畑の、栗の実成がいいようだ。
まるまると大きなイガを、一杯につけている。
充分に育ったイガが、たくさん木の下に落ちている。
それとは裏腹に、山に自生している栗の実成は悪い。
昨年はたっぷりと採れた山栗が、今年は全く採れない。
木にイガ自体がついていないのだ。
もちろん、木の下にも何も落ちていない。
去年なら、あちらこちらにイガが落ちていて、
それを調べると10個や20個の栗は、すぐに集めることができた。
それが今年はゼロである。
どうもこれは、自分の行った山だけのことでなく、
この辺りの山は、みんな同じような状況らしい。
そういえば、昨日書いた「アケビ」も、なってはいたが、
去年に比べると、数も少なく、サイズも小さかった。
猟師をしている友人の話によると、山が不作だけに、
今年はクマに注意した方がいい、ということだった。
栽培品種と野生種、それほど違いがあるとは思えなかったのだが、
どうも栽培品種と野生種の間には、何か決定的な違いがあるようだ。
栽培品種の実成が良いのを見て、期待して山に行っただけに、驚きは大きかった。
ともあれ、今年は栗を店で買う分には、良いものが買えるのかもしれない。
栗は、ブナ科クリ属の落葉性高木である。
高木、というだけあって高さは17m、幹の太さは80cm以上にもなる。
ただ、実際に畑などで栽培されている種は、それほど大きくはならない。
5~6月にはクリーム色の、穂状の花が咲く。
派手さのない、一見すると花とも思えないような花だが、香りはキツい。
そのためか、虫などがその香りにつられてやってくる。
9月から10月にかけて、実をつける。
実は、イガ状の殻斗に包まれているが、成熟するとこれが裂けて露出する。
やがて殻斗ごと、自然に木から落ちる。
日本原産の植物で、縄文時代から人々の食料として利用されていた。
ほぼ、日本中で栽培することができる。
青森県の三内丸山遺跡から出土した栗は、DNA鑑定により、
栽培されていたものであることが、判明している。
縄文人たちは、この栗を主食としていたらしい。
まだ稲作が伝わっていなかったこの時代、
コメの占める位置を栗が担っていたワケだ。
栗が、日本人にとって、いかに重要な意味をもっていたかがわかる。
栗は現在、世界中で食べられているが、西欧諸国で食べられているのは、
西洋グリという品種で、これはヨーロッパ原産の栗だ。
一般的に「マロン」と称されるのは、この西洋グリだ。
本場、ヨーロッパのモンブランケーキは、この西洋グリで作られている。
アメリカにはまた別の、アメリカグリが存在しているが、
こちらは近年、病害虫によって全滅の危機に瀕している。
野生種に関しても、少し触れていこう。
一般に、山などに自生している栗を、山栗あるいは柴栗と呼ぶ。
基本的には、栽培種と同じように9~10月ごろにかけて実をつける。
栽培種と同じように殻斗に覆われているが、
この野生種のイガは針も鋭く、固さもあるために、素手では扱いにくい。
軍手、もしくは火ばさみを持っていかないと、採集は困難になる。
栽培種に比べると小さく、半分以下の大きさである。
そのかわり、味が濃く、香りも高い。
皮を剥く手間は栽培種よりもかかるが、それに報いてくれる味だ。
そんな栗だが、いざ調理して食べるとなると、
意外にその使い道は少ない。
栗を炊き込んだ「栗ごはん」は定番中の定番だが、
これ以外の料理となると、意外に思い浮かばない。
ネットで調べてみると、やはり炊き込みご飯のレシピが圧倒的に多い。
逆にお菓子作りの材料としては、使い道が多い。
栗きんとんに、マロンケーキ、マロングラッセ、栗羊羹、
焼き栗やふかし栗も、お菓子に入るだろう。
天津甘栗などは、さすがに一般家庭で作るのは難しいだろうが、
あれもお菓子である。
栗饅頭という、いかにも栗を使っていそうな饅頭があるが、
実は栗饅頭には、ひとかけらの栗も使われていない。
あのつやつやとした栗色のテカりは、卵の黄身を塗って焼くことで得られる。
栗饅頭の名は、単に栗に似た外見からつけられたものだ。
もっとも最近では、栗を使った栗饅頭を作っている所もある。
栗饅頭に、栗が入っていないとはどういうことかと
クレームがあったのかもしれない。
最初に書いた通り、今年は山の栗が全滅に近い状態だ。
いつもはこの時期に、山栗を使って栗きんとんやマロンペーストを作るのだが、
どうも今年はお預けということになりそうだ。
来年には元に戻っていますように……。