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世界のパン〜日本

更新日:

さて、ここ何回かに分けて、世界各国のパンを見てきたが、
今回が最終回となる。
最終回は、パンとは縁遠いように思われている国、
お米の国・日本のパンについて、書いていきたい。

以前にも書いたが、日本にパンが持ち込まれたのは、
1543年のことだと言われている。
鉄砲伝来と同時に、ポルトガルから
「パン」が伝わったとされている。
このころの「パン」が、どういうものであったのか、
はっきりとしたことは分かっていない。
航海のための食料として、船に積み込まれていたとすれば、
現代の日本で食べられているような、柔らかいパンではなく、
乾パンや堅パンのようなものだったのかも知れない。
このときに持ち込まれたパンは、ほとんど定着することなく、
歴史の中に消えていってしまっている。
このころ、伝えられたパンの中で、
唯一、生き残っているといっていいのは、
「カステラ」だけかもしれない。
もちろん、卵を泡立てることによって、
生地を膨らませる「カステラ」は、
無発酵のパンということになる。
ここの所が、「カステラ」をパンと認めるか否かと、
判断の別れる所ではないだろうか?

今回、各国のパンについて書いてきた中で、
中国の「饅頭(まんとう)」についても取り上げた。
そしてこの「饅頭」は、1543年よりもはるか以前に、
日本へと持ち込まれている。
中国の「饅頭」がパンだと言うのならば、
日本の「饅頭」もまた、パンではないのだろうか?
だが、中国の「饅頭」と、日本の「饅頭」とでは、
ひとつ、大きく違っている点がある。
中国の「饅頭」は、老面を使う方法によって
生地を発酵させているが、
日本の「饅頭」は、山芋を使うことによって
生地を膨らませており、生地を発酵させていない。
いわば、中国の「饅頭」が、発酵蒸しパンであるのに対し、
日本の「饅頭」は、無発酵蒸しパンということになる。
もちろん、世界中に無発酵のパンが存在していることを考えると、
この「饅頭」こそが、日本に最初に持ち込まれた「パン」と
いえるかも知れない。

「饅頭」と「カステラ」を除いて考えた場合、
日本に定着したパンの始まりは、幕末のことになる。

江戸時代末期、黒船以来の外国船の来日により、
国内に、にわかに国防の意識が芽生える。
その際、保存の出来る戦闘用の糧食として、
「パン」が作られ始めた。
この兵糧としてのパンが作られたのが、
1842年の4月12日であった。
エラく、細かく日時が分かっているが、
実はこの日こそ、日本のパンの始まりということで、
1982年に「パンの日」として、制定されているからである。
このとき作られた「パン」も、やはり保存性を重要視した
乾パンや堅パンのようなものであった。
もちろん、これらが一般に出回ることは無かったであろうが、
これを機に、「パン」というものが、
一般市民の間にも知られるようになったであろうことは、
想像に固くない。

明治維新が起こり、明治時代が始まると、
早々に、日本最初のベーカリー、木村屋総本店が開業する。
この瞬間こそが、近代のパンの歴史の始まりであった。

この木村屋が作り出したのが、
饅頭をヒントにしたといわれる「あんパン」である。
このとき作られた「あんパン」の大きな特徴は、
パン酵母ではなく、酒種が使われていたことである。
この「あんパン」は大人気となり、
日本のパン普及に、大きく貢献することになる。
何より、この「あんパン」によって、
パンが広がっていったことにより、
日本で生み出されるパンに、ある1つの傾向が出来た。
すなわち「中に何かを入れる」という傾向である。
今回、パンについての記事を書くために、
世界中の様々なパンについて調べてみたが、
日本ほど、パンの中に「何か」を
入れたがる国というのはなかった。

もちろん、外国にだって、パンの中に
何らかのフィリングを入れているものはある。
ただ、日本のパンの様に、
まるで饅頭のアンコそのもののような入れ方は、まずない。
大方の場合は、薄く延ばした生地の上に、
干しぶどうなどのトッピングをのせて、
これを巻き込むようにして、具材をパンの中に入れる。
あるいは、パンの方だけ最初に作っておき、
あとからクリームなり、ジャムなりを注入する。
しかし、そういった作りをしているものも、ほとんどなく、
大方は出来上がったパンをスライスし、
その間に具材を挟むというのが、ほとんどである。

それに比べると、日本のパンの、
しっかりとした具材の内包具合は格別である。
先に書いた「あんパン」をはじめとして、
「ジャムパン」「クリームパン」「カレーパン」、
全てが饅頭形式で、パンの中にフィリングを内包している。

このような、饅頭形式だけでなく、
「チョココロネ」のように、
筒状のパンにクリームを入れたもの、
「コッペパン」に水平に切れ目を入れて、
そこにバター、ジャム、アンコ、クリームなどを塗ったもの、
同じく、縦に切れ目を入れて、
そこにコロッケ、メンチカツ、やきそば、ソーセージ、
ツナマヨネーズ、卵サラダなどを挟んだものなど、
様々な形で、具材をパンの中に内包しようとする。

これらは、菓子として「饅頭」からの伝統を汲むものと
食事・軽食としての「おにぎり」や、
「寿司」からの伝統を汲むものと、
2種類あるのではないだろうか?
「あんパン」をはじめとする
「ジャムパン」や「クリームパン」などの菓子パンは、
「饅頭」の流れを汲む、内包的スイーツである。
一方、「カレーパン」や「焼きそばパン」、
「コロッケパン」や「カツサンド」などの総菜パンは、
「おにぎり」や「寿司」の流れを汲む、
内包的な食事・軽食である。
これらのことを考えると、様々な外国文化を取り込み、
さらにその中に、何かを加えることによって、
それらを自分のものとすると言う、日本人の特質は、
「パン文化」においても、如実に発揮されていることになる。

もうひとつ、日本のパンの大きな特徴は、
「しっとりとしていて、柔らかい」ということであろう。
外国人が日本のパンを評するとき、
まず何よりも、そのソフトな食感と、
種類の多さについて言及する。
種類の多さについては、我々日本人自身も実感しているだろうが、
「柔らかい」ということになると、
それほど、特別なことと思っていないのではないだろうか?
それほどに、日本では「柔らかいパン」というのが
当たり前になっている。
自国で、歯ごたえのあるパンを食べてきている外国人の場合、
全てのパンが「柔らかい」日本の「パン文化」に、
違和感を感じるようだ。

何故、日本人は「柔らかい」パンを好むのだろうか?
正確にいえば、日本人は「柔らかい」パンが好きなのではなく、
「固い」パンが嫌いなだけではないだろうか?
コメが基準であった、それまでの日本人の食生活の価値観では、
ご飯や餅の前例から、「柔らかい」=「作りたて、うまい」、
「固い」=「古い、まずい」という固定観念が出来ていて、
これをそのまま、「パン」にもあてはめてしまった。
そのため、日本では固いパンは敬遠されて一般化せず、
柔らかい食感のパンだけを積極的に取り入れ、
それらをさらに柔らかく、
しっとりと改造していったのだろう。
その結果、柔らかいパンが圧倒的に多い、
日本の「パン文化」が出来上がったのである。
現在でも、「食パン」のTVCMなどを見ていると、
「しっとり」「ふわふわ」「もっちり」という
言葉ばかりが多用されていて、
「パン」=「柔らかいもの」というイメージが、
日本人の奥深い所に根付いているのが、見て取れる。

もちろん、数多いパン屋の中には、
本場風のものをウリにしている所が、いくつもある。
そういう店に行けば、日本風ではない、
本場風の歯ごたえのあるパンを、購入することが出来る。
ただ、やはり全体的に見た場合、
日本人の伝統的な嗜好である「柔らかい」パンが、
圧倒的なシェアをもっているのも、また事実である。

この柔らかく、しっとりとした日本風のパンが、
いつか、世界的に認められる日は来るのだろうか?

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