イタリア、というと「パスタ」の印象がある。
だが、冷静に考えてみた場合、
様々な「パスタ」を生み出せるということは、
それだけ、小麦粉が利用されているということでもある。
もちろん、イタリアにも多種多様なパンが存在している。
古くは古代ローマの時代から、
パンが作られているというのだから、
イタリアには「パン」に関しても、長い歴史があるのである。
以前に、「ピザ」について書いたとき、
その最初のものとして、
「フォカッチャ」というパンのことを取り上げた。
一応、「ピザ」の元祖として考えるには
不適という結論に至ったのだが、
そういう名前のパンが、古くからイタリアで食べられていたのは、
事実である。
先に書いた、古代ローマの時代から
作られているというパンこそが、この「フォカッチャ」だ。
小麦粉、水、塩、油(オリーブオイル)のみで作られている
極めてシンプルなパンで、
生地にオリーブオイルが入っているため、
独特の香りと風味があり、口あたりがサックリしている。
「火で焼いたもの」という
極めて根源的な意味を持っているあたり、
この「フォカッチャ」が、古代ローマにとって、
重要な意味を持つ食べ物であったことが伺える。
発祥の地は、イタリア北部のジェノバと言われているが、
現在ではイタリア各地で、
様々な「フォカッチャ」が作られている。
「ピザ」の元になった、といわれるだけあって、
オリーブやローズマリー、岩塩、ドライトマトなどを
トッピングして食べることが多いのだが、
砂糖やバターをのせた、「フォカッチャ・ドルチェ」もある。
ドルチェとは、イタリア語で「甘い」という意味であり、
日本語の「甘味」と同様、お菓子・デザートという意味でもある。
イタリアのパンの中で、とりわけ特徴的な形を持っているのが、
「グリッシーニ」だ。
細長い「棒」のような形をしている。
一般的なものは25~30㎝ほどの長さらしいが、
長いものでは75㎝ほどのものもあるという。
フランスパンに使われる小麦粉を、さらに細長く成型し、
焼いたパンをさらに乾燥させるために、水分はほとんど無くなり、
スナック菓子の様に、カリカリとした食感になっている。
水分を含んでいないため、長期の保存も可能である。
17世紀、イタリア北西部の
ピエモンテ州トリノで作られたとされる。
それによると、この地域を治めていた王家に病弱な子供がおり、
その子のための食事療法として作り出されたのが、
消化のいい「グリッシーニ」だったという。
カリカリのスナック菓子のようなパンが、
果たして、本当に消化がいいのかどうかはわからないが、
少なくとも、子供の好きなスナック菓子に似ているのであれば、
食欲のない子供でも、喜んで食べたかも知れない。
全体的に塩味の薄いイタリアのパンの中で、
塩味の効いているパンなので、
食前酒のおつまみとして、これを食べることもある。
後に、ナポレオンもこの「グリッシーニ」を取り寄せて、
食べていたという。
現在では、日本のパン屋でも扱っている所があり、
すり下ろしたチーズを生地の中に混ぜたものや、
ゴマをまぶしたものなどの、バリエーションがある。
生ハムを巻いて食べることもあるらしい。
パンで具材を挟むとか、パンで具材を包む食べ方は、
それこそ世界中に例があるが、
具材でパンを包むというのは、かなり珍しい食べ方だ。
今回は、それほど詳しく書かないが、
「ピザ」もまた、パンの一種と言うことになる。
生地の上に塗るソース、のせる具材、使っているチーズによって、
それこそ星の数ほどの種類の「ピザ」がある。
さらにいえば、世界中で食べられていることから、
ある意味では、イタリアで作られたパンの中で、
もっとも世界的に有名なパンであるといえる。
ただ、数多いイタリアのパンの中では、
「ピザ」は、新参者である。
キリスト教圏にあるイタリアには、
当然、クリスマスに食べる「パン菓子」が存在している。
ドイツの「シュトーレン」や、オーストリアの「クグロフ」と、
同じようなものである。
卵、バター、砂糖を加えた生地に、
フルーツの砂糖漬けなどを入れたパン菓子「パネトーネ」、
卵とバターをタップリと使った、
「黄金のパン」という意味を持っていた「パンドーロ」。
どちらも、高さ15㎝ほどの円筒形の菓子パンで、
包丁で切り分けて食べる。
日本のクリスマスケーキと、同じようなものかも知れない。
イタリアでは、気に入った店の「パネトーネ」を、
知人や親戚に送る習慣があるそうなので、
クリスマスケーキと、お歳暮の合体したものと捉えると、
案外、正鵠を射ているのかも知れない。
また「パンドーロ」は、もともと貴族しか
食べることを許されなかった菓子、ということなので、
かなりの高級菓子であったようだ。
イタリアのパンは、全体的に塩味が薄いといわれる。
(「グリッシーニ」など、一部の例外はあるが……)
これはパンだけを食べれば、物足りないものの、
味の濃いイタリア料理と一緒に食べれば、
ちょうどいいように、ということらしい。
シンプルな食べ方としては、
パンをちぎってオリーブオイルをつけ、
そのまま食べる、というものがある。
日本人の感覚からすれば、
油を直接パンにつけるなんて、と思ってしまうが、
成分的にいえば、マーガリンなどをトーストに塗るのと、
そう変わるものではないだろう。
むしろ、いい油をつけるのであれば、
マーガリンよりも、味わいは良いかも知れない。
また、「パニーニ」と呼ばれるサンドイッチも、
食べられている。
(広い意味では、パンで具材を挟んだものを、
「パニーニ」となる。
つまり、単純にサンドイッチのみを指しているのではなく、
ホットドッグやハンバーガーも
「パニーニ」に含まれるのである。
イタリア以外では、ホットサンドメーカーを使って作った、
パンの表面をグリルしてあるサンドイッチを、
「パニーニ」と呼んでいる)
フランスに並んで、美食の国であるイタリア。
と、いうより、フランスの食文化は、
イタリアの食文化の影響を大きく受けていることを考えれば、
まさにヨーロッパにおいては、美食の元祖とも言える。
そんなイタリアの食文化の中で、
「パン」は、重要な位置を占めている食品である。
イタリアの「パン」文化は、
ヨーロッパのそれに繋がる、根源なのかも知れない。