地下50cmという、他の生物の入り込まない世界。
そこに君臨しているのが、地中の王者モグラである。
今回は、そんなモグラの生態について書いていく。
モグラの形について、どういうイメージを持っているだろうか?
大方の人は、
「なんか、こう、楕円形で……、そうそう鼻先が尖ってんだよね。
あと手、というか前足が大きくて……」
こんな感じではないだろうか。
マンガチックなイラストでは、手にスコップを持ち、
頭にはヘルメット、目にサングラスをかけたモグラの姿が描かれる。
この場合、たまにモグラが長靴を履いていたりするし。
手に軍手をつけていたりする。
土を掘る、というその特徴のため、
一見すると道路工事の作業員風に描かれている。
こういうイラストを見ると、24時間休みなく、
トンネルを掘り続けているようなイメージを持ってしまう。
非常に勤勉なイメージだが、これは大きな間違いだ。
実は、モグラの生活サイクルは8時間だ。
人間が24時間サイクルで生活しているのに比べると、
人間が1日過ごす間に、3日過ごしているようなものだ。
地球の自転周期は24時間なんだから、
当然どんな動物でも、1日は24時間になるはず、と考えがちだが、
モグラたちが住んでいる地下世界には、もともと太陽の光が届かない。
従って、太陽の動きに生活サイクルを支配されている地上生物と違い、
完全に独自の生活スタイルを築き上げている。
この8時間の生活サイクルのうち、4時間は睡眠時間だ。
1日の半分を寝て過ごしていることになる。
で、残りの時間で何をしているかといえば、
餌を食べたり、トンネルを掘ったり、昼寝(仮眠)したりしている。
ん?
ちょっと待て、と思った人は正解である。
モグラが起きているうちにやることの中に、昼寝がある。
これは睡眠時間に入れるべきものじゃないの?と考えてしまう。
実はモグラの4時間の睡眠と、起きている間の昼寝については、
明確な違いがある。
モグラが4時間の熟睡期間に入っている間、まず途中で起きることがない。
もともと地中という、邪魔の入らない空間で寝ているわけだが、
人に飼われているモグラの場合、熟睡中に人間に邪魔されることもある。
大きな音を立てられたり、突っつかれたり。
そんなことをされても、熟睡中のモグラは起きることはなく、
そのまま眠り続ける。
あまりに無反応なので、生きているのかすら怪しくなる。
心配になって触ってみると、ちゃんと暖かみがある。
もちろん、それでもモグラは眠り続けている。
恐ろしいほどに、図太い神経をしているのだ。
逆に起きている時の昼寝(仮眠)の眠りは浅く、すぐに目が覚めてしまう。
トンネルを掘り続けて疲れた時、餌をお腹いっぱいに食べてほっとした時、
うとうとと、うたた寝を始める。
ひどい時には餌を食べている途中、ミミズをくわえたまま、うたた寝する。
まるでおじいちゃんである。
おなかがいっぱいになればうたた寝し、
あまつさえ、食べている途中にもうたた寝をするモグラ。
前回も書いたが、モグラが食べるのはミミズや虫の幼虫などで、
100%肉食である。
穏やかそうな顔をしていて、実はガチガチの肉食系なのだ。
やはりトンネルを掘るという肉体労働には、大量のエネルギーがいるのだろう。
動物界きってのガテン系、といえる。
人間界のガテン系も大食漢が多いが、モグラもこれに負けず大食漢だ。
人間のガテン系は2~3kgほど食べて、その大食いぶりをアピールするが、
モグラはもっと凄い。
動物界きってのガテン系は、実に自分の体重の半分ほどの食料を食べる。
体重60kgの人間が、毎日米を30kg食べるようなものだ。
米30kgといえば、米俵のちょうど半分である。
しかもモグラはあっさりとした米を食べるのではなく、
肉を食べているのだ。
驚異的な食事量だ。
人間がモグラを飼育する場合、餌にはミミズなどを与える。
モグラの体重は大体100gほどである。
つまり、ミミズだけで1日50g、必要になる計算だ。
ミミズを1日50g用意し続けるのは、かなり厳しい。
そういう場合は、牛ミンチ肉などでも代用が効く。
ただ脂肪の部分が多いと、器用に脂肪を避けて食べる。
脂肪よりは、タンパク質の方がお好みのようである。
よく、「モグラは太陽の光に当たると死ぬ」といわれる。
嘘である。
モグラは吸血鬼ではないので、太陽の光に当たった所で、
ダメージを受けたりはしない。
それどころかライトなどで強い光を当てても、平然としている。
目が退化しているために、光のまぶしさを感じないのだ。
そういう意味では、むしろ他の動物よりは、光に強いとさえいえる。
これは、たまたま地上で死んでいるモグラを見つけた際に、
うまく死因が特定できず、適当なことを言っただけだろう。
モグラは目が退化している代わりに、鼻と尾の感覚が鋭い。
これが地中において、目の代わりをしているといえる。
モグラが土の中を好むのは、暗い所が好きなのではなく、
身体が何かに触れていると、安心できるかららしい。
わりと鈍重そうなイメージのあるモグラだが、
その動きはかなりスピーディだ。
まるでネズミのように高速でトンネル内を移動する。
ネズミと違って凄いのは、前進もバックも同じスピードが出せることだ。
これはモグラの毛並みが、前方向にも後ろ方向にも向いていないため、
地中を移動するのに、全く抵抗にならないためだ。
地上へ、穴から顔を出しても、そのままバックで中に引っ込むことができる。
まさにゲームセンターにある、「モグラたたき」そのままである。
今回は、モグラの生態について詳しく書いてみた。
普段はまず見ることができないモグラの生活には、
我々の想像を超えたものがある。
しかしモグラは、決して可愛いだけの動物ではない。
次回はモグラの被害とその対策について書いてみる。