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りんご飴

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祭り屋台というのは、概ね色鮮やかなものである。

もともと祭りに出ている屋台には、
「商売」という根本的な目的の他にも、
祭りを盛り上げるという役割もある。
そういう視点で考えてみると、
祭り屋台が鮮やかに彩られているのも頷ける。

お面や金魚すくい、ヨーヨー釣りやボールすくいなどは、
扱っている商品自体が色鮮やかであるし、
くじ引きや射的などは、様々な景品を並べることにより、
彩りや賑やかさを演出している。
唐揚げやフライドポテト、お好み焼きやたこ焼きなど、
商品に彩りがない場合は、
看板や、屋台そのものに派手な色を使い、
派手さを演出している。
前回、紹介した綿菓子などは本来、白一色の地味な姿だが、
色とりどりのキャラクターが印刷された袋に入れ、
店先に並べることによって、派手に演出している。

そんな中、同じ食べ物系であっても、
自前の強烈な色合いでアピールするものもある。
たとえば、かき氷である。
本来は綿菓子と同じ、白一色の出来上がりだが、
綿菓子と違い、かき氷には色とりどりのシロップがかけられる。
赤、黄、緑、オレンジなどの他に、
青や紫など、これでもかというくらい
派手な色のシロップをぶっかける。
一応、赤はイチゴ、黄色はレモン、緑はメロン、なんて風に
テイストが分けられているが、
実際には果汁など一滴も入っておらず、
砂糖、食紅、香料だけで作られたシロップである。
白いかき氷にかけた状態でも鮮やかな色が出るように、
シロップそのものはかなり強烈な色をしているのだが、
それがまた、強烈に屋台を彩っている。

同じように食紅の強烈な色で彩られているのが、
「りんご飴」である。
もちろん、リンゴということで「赤い」のだが、
その「赤」はリンゴそのものの「赤」ではなく、
食紅によって色付けられた、強烈な「赤」である。
時にその「赤」は、毒々しいまでに鮮やかに
リンゴを包んでいる。

一般的に「りんご飴」と呼ばれるものは、
シロップや飴などで、生のリンゴをコーティングし、
手で持つための棒を突き刺したものである。
日本では、主に祭りの屋台で販売されている。
作り方は意外に簡単で、リンゴ、砂糖、食紅があれば、
家庭でも作ることが出来る。
普通に考えれば、リンゴに飴をかけただけのものなのだが、
沸騰したお湯よりも熱い、150度にもなる飴をかけてあるため、
その熱により、リンゴの表面に火が通っており、
生のままのリンゴとは、ひと味違った状態に仕上がっている。
(あくまでも、表面部分近くだけだが)

前回、紹介した「綿菓子」と同じく、
古くから祭り屋台で販売されていることから、
ともすれば、日本で作り出されたものと
思っている人もいるかも知れないが、
「綿菓子」と同じように「りんご飴」もまた、
海外で作り出されたものである。
この「りんご飴」の発祥についても諸説あり、
はっきりとした出自は明らかではないが、
アメリカの西海岸で生まれたとする説が有力である。
1908年のクリスマス、菓子職人ウイリアムは
レッドシナモンの飴を作っていたが、
その際、彼はいくつかのリンゴをその飴に浸し、店頭に並べた。
これこそが、世界で最初に作られた「りんご飴」であった。
この最初の「りんご飴」は、1個5セントで販売された。
「綿菓子」に遅れること11年、
「綿菓子」がセントルイスの博覧会で販売されてから、
わずか4年後のことである。
「綿菓子」が1箱25セントで売られていたことを考えると、
「りんご飴」の1個5セントは、いかにも安い。
砂糖のみで作られる「綿菓子」より、
リンゴや食紅を用いて作られる「りんご飴」の方が、
値段が5分の1だったというのは納得し辛いが、
それだけ当時の「綿菓子」製造技術が
珍しかったということだろうか。
少なくとも、当時としては「綿菓子」=「高級」、
「りんご飴」=「庶民的」という認識だったのかもしれない。
後に年間数千個の「りんご飴」が販売されるようになり、
大西洋沿岸の各都市に広がっていった。
そして「りんご飴」は、アメリカからフランスへと伝えられ、
さらに世界中へと広まっていくことになる。

この「りんご飴」が、いつ日本に伝えられたのかは、
はっきりとしない。
ただ、同じ時期に「綿菓子」が
アメリカで人気を博していたことからも、
これと同じ時期に日本に伝えられたとは、
考えられないだろうか?
明治時代の末期から大正時代にかけて
「綿菓子」と一緒に日本へと持ち込まれ、
それぞれ「屋台」で扱われることになった。
恐らくは、きちんとしたリンゴではなく、
形の小さいもの、糖度の低いものなどが、安価で買い取られ、
「りんご飴」に加工されることとなったのだろう。
そういう意味ではリンゴ農家にとっても、
売り物にならないリンゴを商品に出来ることから、
それなりの恩恵があったのだろうと考えられる。

現在では「りんご飴」のみならず、
イチゴ、ぶどう、みかんなど、様々なフルーツを使った商品も、
「りんご飴」と並んで販売されている。
これと同じように、串に刺した果物に水飴を絡め、
これを冷やしたものを「あんず飴」として
販売しているものがあるが、
高温の飴を絡める「りんご飴」と、
常温で液状(粘りはあるが)の水飴を絡める「あんず飴」とでは、
構造的に似てはいても、別物であろう。
ただ、断言はできないが、
果物に飴を絡めるという点が共通しているのは、
「あんず飴」が「りんご飴」の製法からヒントを得て、
作り出されたためではないだろうか?
日本人得意の、海外文化のアレンジである。
この「あんず飴」は、主に東日本の屋台などで販売されている。

さて、先に書いた通り、
「りんご飴」は家庭でも作ることが出来る。
ネットでレシピを検索してみれば、
結構な数がヒットするだろう。
そのうち、かなりのレシピでは「食紅」を使わず、
透明な飴でリンゴをコーティングしているが、
やはり透明な飴では「りんご飴」らしさがいまいちだ。
この辺りは食紅が健康に害を及ぼす、という考えから
これを使っていない場合もあるようだが、
そこは食紅の選択次第ではないだろうか?
やはり「りんご飴」らしさを出すには、
食紅をしっかりと効かせて、
ややキツいくらいの「赤」さを持たせた方が、
いかにも「それらしく」仕上がる。
もちろん、家で自作するのなら、赤い食紅にこだわる必要もない。
青い食紅だろうが、緑の食紅だろうが、
思うままに、自由に使うことが出来る。

もっとも、それらの色でコーティングした「りんご飴」が、
美味しそうかどうかというのは、また別の話だ。

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