前回、スーパーにて、鯛の頭を購入し、調理して食べたことを書いた。
実は同じように、その日、もうひとつの格安食材を買っていた。
それが「鮭の白子」であった。
ある年代の人たちは、学習教材として、鮭の一生というものを見せられたはずだ。
鮭が生まれた川に戻ってきて、そこで産卵して命を落とすというものだ。
それと一緒に教えられたのが、
近年、川の汚染が進んで鮭が帰ってこなくなった、という話である。
それをどうにかするため、川の浄化と、鮭の人工孵化、
稚魚の放流をしていることについても教えられた。
その鮭の人工孵化の絵面がすごかった。
水槽一杯に入れられた鮭の卵(イクラ)に、
オスの鮭を持ってきて、絞って精子をかけていたのである。
子供のころは、「イクラ、うまそうだなー」くらいにしか思っていなかったが、
今思い返してみると、なかなか壮絶なシーンであった。
今だと、動物愛護団体からクレームが入るかもしれない。
以降、鮭の卵の方に関しては、何度も口にする機会があった。
イクラや筋子としてである。
婆さんは筋子が大好物だったので、そのおこぼれを貰うこともあった。
逆に白子の方に関しては、全く縁遠い食生活であった。
たまに、スーパーなどでタラの白子や、鮭の白子などが売られていたが、
どうも購入する気が起きなかった。
具体的な調理法がわからなかったというのもある。
さらに同性としては、「ソレ」を摘出されて、売り物にされている鮭に、
一抹の同情心のようなものがあったからだ。
しかしそれから随分と時代は変わった。
すでに白子は、食材として普通に認知されている。
インターネットで「鮭の白子」「レシピ」で検索をかけると、
それこそいくつでも、関連レシピがヒットする。
フグの白子などは、高級食材として、美食家たちの垂涎の的だ。
人間というのは現金なもので、まわりの空気がそういう風に変化してくると、
とたんに食べてみたくなる。
そんな中、前回「鯛の頭」を購入したスーパーで、
「鮭の白子」を発見したのである。
こちらは200円。
それに「半額」シールが貼ってあり、100円になっていた。
自分は迷わず、これもカゴの中に入れた。
さて、前回と全く同じ展開になるが、安くて思わず買ってしまったが、
自分は白子を食べるのは初めてである。
当然、調理法も全く思い浮かばない。
「鯛の頭」の方は、最悪でも焼けば何とかなる、というのがあったが、
鮭の白子に、それが通用するかどうかはわからない。
相手が普通の身肉でないだけに、火を通せばどういう変化を起こすのか、
想像もつかない。
ひょっとしたら、あれよあれよという間に溶けてなくなってしまうかもしれない。
そんなことになったら、目も当てられない。
が、最近はインターネットという便利な道具がある。
先に書いた通り、「鮭の白子」「レシピ」で検索してみると、
いくらでもメニューが出てきた。
その中で、もっとも単純だったものは「鮭の白子のバター焼き」であった。
簡単なので、これにしようと決めたが、問題がひとつあった。
バターがないのである。
しようがないので、バター抜きにしてやることにした。
最初、フライパンに引くのをバターではなく、サラダ油にするのである。
バターの風味はなくなってしまうが、白子の風味を味わうには、
返ってよいかもしれない。
かくして、そのレシピを参考にして調理を開始する。
まず、白子を水できれいに洗う。
洗ったら、それを一口大の大きさに切る。
この際、中が流れ出てくるのでは?と思ったが、そういうことはなかった。
切った包丁に、白い粘液がつくことがあったが、
切り分けた後も、白子は形を保っている。
フライパンを熱し、サラダ油を引いた後、焼きはじめる。
水分が多いのか、油が跳ねる。
焼いているうちに、大きさがひと回りほど小さくなる。
と、同時にあれだけ柔らかかった白子が固くなる。
こうなったら、箸などでも扱いやすい。
次々とひっくり返し、両面をきつね色に焼き上げる。
焼き上がりに、塩胡椒で味付けをして完成である。
レシピには、「焼き鳥のような焼き上がり」と書いてあったが、
まさしく焼き鳥そのものの、焼き上がりとなった。
調理している所を見られなければ、多分、焼き鳥と間違うだろう。
実際に食べてみると、柔らかかった白子が適度に締まって、
本当に鶏肉のように感じられる。
しかし鶏肉よりは柔らかく、肉の繊維も全く感じないので、
存外、歯の弱ったお年寄りに、焼き鳥の代わりに食べさせるには、
いいかもしれない。
ただ、やはり鶏肉と違い、白子はただ焼いただけだと微妙な生臭さが残る。
バターを使うのは、この微妙な生臭さを隠すためかもしれない。
仕上がりにレモンなどの柑橘類をかければ、生臭さも消えるだろうが、
白子の微妙な味わいも消えてしまうかもしれない。
「白子」というのは、今まで全く食べたことのない食材であったが、
濃厚なコクのある食べ物かと思っていた。
もちろん、そこは魚の種類によっても代わってくるのだろうが、
鮭の白子の場合は、思ったほどこってりとはしておらず、
あっさりと食べられた。
しかし、ここだけの話、どうもこれを食べていると、
大事な所がキュンッと縮こまる思いがする。
犠牲になった鮭に、合掌。