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柿の「渋」を抜く

更新日:

前回、我が家の庭で、実りに実った柿の「実」を収穫した話を書いた。

我が家に生えている、たった2本の、しかもそれほど大きくもない木に
合計で1000に近いと思われる「実」がなったわけである。
(実際には、今年やって来た台風の影響で
 大きな枝が大量の実をつけたまま折れてしまったので、
 本来であれば、これにさらにプラスαした数の柿の「実」が
 あったはずである)
ほぼ全ての枝にたわわに「実」がつき、
木全体が柳の木のように、その枝を垂らした。
結果として、それほど大きくもない木の、結構大きな枝が、
2本も折れてしまうことになった。
自分の体を壊してしまうほど大量の「実」をつけるとは、
柿の木も、なかなかに業の深い植物である。

ともあれ、友人の申し出もあって、この大量の柿の「実」は
その大半が貰われていくことになったのだが、
それでも未だ、手元には50個近い干し柿と、
木についたままの柿の実が100〜200個(推定)残っている。
自分の食べ切れない分については、また友人に引き取りを頼むとして、
これだけの数があるのだから、その全てを干し柿にするというのも
芸のない話である。
折角のことなので、他の食べ方も試してみたいと調べてみた。

さて、まず大前提として書いておかなければいけない事実として、
我が家の柿は、その全てが「渋柿」である。
現在、我が家には表と裏に1本ずつ、それほど大きくもない
柿の木が生えているのだが、出自がハッキリしているのは表の木だけだ。

裏の木に関しては、本当にいつの間にかそこに生えていたもので、
(恐らく、自分が家を離れていた時期に、
 植えるなり、勝手に生えてくるなりしたものであろう)
小型で球形に近い形の固い実をつける。
ひょっとすると、鳥か何かが運んできたタネから生えてきたのかもしれない。

それに比べると、表の柿の木は出自がハッキリしている。
この柿の木が生えてきた原因が、自分だからだ。
その昔、婆さんが作っていた畑には、古い柿の木が1本生えており、
毎年、それなりの数の「実」をつけていた。
これは、「渋」を抜かないといけない渋柿ではなく、
そのまま食べても甘い「甘柿」であった。
自分はその柿の「実」がなると、好き勝手にもいで、
そのままオヤツ代わりにかぶりついていたのだが、
中のタネについては、そのままペッと吐き出して、
そこら辺に捨てていた。
全くお行儀の悪いことであるが、当時の我が家の周りは
現在のような住宅地ではなく、山をただ削っただけの
荒野としかいい様の無い場所だったので、
誰にも文句をいわれるようなこともなかったのである。
そうしていると、あるとき、家の近くに捨てたタネが発芽した。
その芽は、スクスクと育ち始め、
気がつけばそれなりの大きさの木になっていた。
そしてある年、唐突に「実」をつけた。
「桃栗3年、柿8年」という言葉があるが、
タネから育ったその木が、初めての「実」をつけるまで、
8年もかからなかった。
そして、その「実」をもいで、かぶりついてみると、
まったく「渋」が無かった。
そう。
その木は当初、普通の「甘柿」だったのである。

この「甘柿」が、年月を経るにつれて「渋柿」へと変わっていった。
「柿」はもともと全てが「渋柿」だったらしく、
1000種もある「柿」の中で、そのまま食べられる「甘柿」は
20種に満たない。
ひょっとすると、自分の捨てたタネから育った「柿」は、
全く野生で育つうちに、先祖返りを起こしたのかもしれない。
それから何十年もたち、この柿の木は完全な「渋柿」と化している。

そうなると、どうにかして、この「渋」を抜かなければならない。
でも、そもそも柿の「渋」とは、一体何なのであろうか?

答えから言ってしまえば、この「渋」の正体はタンニンである。
タンニンといえば、お茶、ワインなどの「渋み」の元となっている物質だ。
抗酸化作用、血圧抑制、消臭作用、整腸作用などがあり、
人体に良い効果を持つ物質として知られている一方、
摂りすぎれば貧血になったり、便秘を起こしたりすることになる。
特に、妊婦に必要な葉酸の働きを抑制する効果があるので、
妊娠中にはタンニンの摂取は控えるよういわれている。
この様に、功罪入り混じりつつも、どちらかといえば
「健康にいい」という評価のあるタンニンなのだが、
実際にタンニンが強く感じられる「渋柿」は、
そのままでは食べることが出来ない。
そう考えれば、タンニンの最大の欠点は、
その味ということになるのかもしれない。

柿の持っているタンニンは可溶性のもので、
口の中に入れると溶け出し、その強烈な「渋み」を感じさせる。
柿の「渋」を抜くというのは、この「渋み」を感じないようにすることだ。
だからといって、別に柿の中からタンニンを取り除くというワケではない。
柿の「渋」を抜くというのは、可溶性のタンニンを
口の中でも溶けないようにすることであり、
タンニン自体が、柿の中から消え去ってしまうわけではない。
だから「渋」を抜いた柿を食べたからといって、
タンニンの健康効果が得られないなんてことはない。

では、可溶性タンニンを不溶性タンニンに変える
メカニズムとはどのようなものか?

実はこれはどんな「渋」抜きの方法にも共通していることで、
可溶性タンニンをアセトアルデヒドと結合させるということになる。
このアセトアルデヒドは、アルコールが酸化して出来るもので
人間がお酒を飲んで酔っぱらうのも、このアセトアルデヒドが原因である。
「渋」抜きの方法で、アルコールに漬け込んだり、
ヘタをアルコールに浸して袋の中にいれ密封する方法も、
アルコールをアセトアルデヒドに変化させ、
これを可溶性タンニンと結合させることで、
不溶性タンニンに変化させているのである。

さて、そういうことになると、はて?ということになる。
柿の「渋」を抜く方法について調べてみると、
別にアルコールを用いない方法もある。
代表的な干し柿なども、全くアルコールは使わない。
この場合、アセトアルデヒドはどこからやって来るのか?

実は、柿の「実」というのは、収穫された後も呼吸をしているのだが、
これを邪魔してやると、柿の中にアセトアルデヒドが発生するのだ。
ドライアイスを使う方法や、お湯の中に漬け込んでおく方法などは、
二酸化炭素やお湯を使って、柿の「実」を窒息させているわけだ。
その結果、柿の中にアセトアルデヒドが発生し、
これが可溶性タンニンと結びつき、結果、「渋」が抜けるということになる。
いやいや、じゃあ、干し柿なんかはどういうことなんだ?ということになるが、
実は柿の「実」は表面を向くことで、そこに皮膜が出来る。
イメージ的に、人のカサブタのようなものだろうか?
このカサブタが、柿の「実」の表面を覆ってしまうと、
柿の「実」は呼吸が出来なくなり、窒息してしまう。
結果として、「実」の中にアセトアルデヒドが発生して、
「渋」が抜けることになるのである。

だがもう1つ、「渋」を抜く方法がある。
それが、何もしないで木につけたまま放っておく方法だ。
そうしておくと、柿は熟してトロトロに柔らかくなる。
軽く力を入れただけで、崩れてしまうような状態になる。
いわゆる「熟柿」というやつだ。
この状態になった渋柿からは、キレイに「渋」が抜けて甘くなっている。
実はこの姿は、樹上にあるまま水分が抜けた状態であり、
水に溶けていたタンニンが、水が無くなってしまったために
不溶性タンニンと同じ状態になっているのだ。
どうみてもグチュグチュで、水分が多そうに見えるが、
あれはあれで、水分のなくなった結果なのである。

さて、全ての方法に共通しているのは、柿の「実」を窒息させて、
アセトアルデヒドを発生させることである。

これらの方法で、もっとも簡単なのは
木に「実」をつけたまま放置して「熟柿」にすることだ。
全く手間がかからない。
と、いうよりは、すでに「熟柿」になっているのを齧ってみた。
確かに全く「渋」は無くなっており、甘い柿の味しかしなかったが、
よくよく考えればこの方法では、柿の木に対する負担がサッパリ減らない。
そうなると、柿の「実」を収穫して、これを何らかの方法で
窒息させるということになるわけだが、干し柿は別にすると、
もっとも効果的な「渋」抜きは、やはりアルコールを使ったものらしい。
アルコール度の高い、焼酎などに柿の「実」のヘタをつけて、
袋に入れて何日か置いておくのだ。

この方法を実際に試してみるつもりなので、
その際には、そちらの方も記事にしたい。

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