夏になれば、清涼飲料水が美味しくなる。
もちろん、キンキンに冷やした奴だ。
夏祭りなどに行くと、大きなテントの下で、
巨大なケースに氷水を張り、中に缶ジュースなどを入れて販売している。
その氷水の中に、たまにラムネの瓶が混じっている。
独特の形をした、薄いブルーの瓶は、清涼感をひときわ際立たせる。
今回は、このラムネについて書いていく。
ラムネ、というのはレトロ感のある飲み物である。
自分が子供だったころ、すでに夏の飲料の主役の座にはいなかった。
そのころにはすでに、時代遅れ感のある飲み物であった。
のどが乾き、何か飲み物を買おう、ということになっても、
ラムネが選択肢に入ってくることは無かった。
なぜか?
単純な話である。
瓶ラムネは内容量が200mlしか無い。
他の缶ジュースは350mlである。
内容量において、倍近い差があるのだ。
子供にとって、この差は大きい。
子供が350ml入りのコカコーラなどを選ぶのは、当たり前のことである。
誰が好き好んで、半分程度の量しかないラムネを選ぶだろうか。
子供というのは、大人が考えているよりも、ずっとエコノミックな生き物なのだ。
だから内容量が少なく、レトロ感のあるラムネを飲むのは、
ある程度、財布の中に余裕ができてからである。
自分が生まれて初めてラムネを飲んだのは、
そこそこ歳がいってからのことであった。
その時の第一印象は、「飲みにくい」であり、「サイダー?」であった。
ラムネの瓶は、コカコーラやサイダーの瓶と違って、
飲み口である部分がかなり厚ぼったい。
コカコーラやサイダーの瓶で飲み慣れている身には、やはり違和感がある。
その上、瓶の中にビー玉が入っていて、それがころころと転がり、
どうも飲んでいる者の気をちらす。
で、飲みにくいなー、とその瓶に悪戦苦闘しているうちに、
いつの間にやら、中身はなくなっている。
所詮、200mlの内容量なので、普段350ml缶を飲み慣れている身には、
物足りなさがあるのだ。
ラムネは、もともとイギリスの「レモネード」である。
これが日本にもたらされたのは、嘉永6年(1853年)、
あの黒船と一緒に、日本にやってきた。
この時、黒船上で行なわれた日米の交渉時に、飲み物として供されたのが、
日本のラムネ事始めになる。
なぜ、黒船にレモネードが積み込まれていたのか?
大航海時代、船乗り達の間で壊血病が蔓延した。
これはビタミンCが不足することで起こる病気だが、
当時、その原因は明らかではなかった。
まだビタミンなどというものが発見される、はるか以前のことだからだ。
これを防ぐために、航海をする船には「ライム」が積み込まれた。
ライムの持つビタミンCが、壊血病を防ぐことを、経験から知っていたのだ。
このライムのかわりに、ビタミンCを水夫達にとらせるための飲み物が、
この「レモネード」である。
レモネードは、17世紀ごろから飲まれていた記録がある。
そのころに作り出されたものらしい。
この「レモネード」がなまって、「ラムネ」となった。
レモネードの名前の由来は、原材料に使われている「レモン」からきている。
レモンの果汁を薄め、甘味料を加えた飲み物。
英語では「Lemon ade(レモン・エード)」、つなげて「レモネード」となる。
もともと炭酸を含まないソフトドリンクであった。
慶応元年(1865年)、長崎にて、初めてレモネードが売り出された。
日本での商品名は「レモン水」。
結局、この名前は定着せず、レモネードがなまったラムネという呼称が、
広がっていくことになる。
先に書いた通り、味わいがサイダーと似ているが、
サイダーはもともとリンゴ果汁をさす言葉だ。
つまりサイダーには、もともとリンゴの風味がつけられていたのだ。
現在でも、リンゴ酒のことを「サイダー」と呼ぶことがある。
ラムネといえば、あの独特の形をした瓶である。
あるラムネメーカーのホームページには、ラムネとサイダーの違いを
瓶の違いだ、と言い切っている。
もはや、リンゴ風味とかレモン風味というようなことは、意味を持たないらしい。
あのビー玉の入った瓶は、日本で生まれたものではない。
19世紀、イギリスのハイラム=ゴッドが、ビー玉栓の瓶を発明した。
発明者の名前をとって、これを「ゴッド瓶」と呼ぶ。
当時、瓶の栓には、コルクが使われることが多かったのだが、
コルクは高価であり、さらに時間が経つと炭酸が抜けやすいことから、
コルクに代わる、新しい栓が求められていた。
これに応えるようにして生み出されたのが、ビー玉栓のゴッド瓶だ。
日本では、大阪の徳永玉吉がこれの製造に成功、
ラムネ瓶として生産を開始して、ラムネの普及に貢献した。
最近では、ラムネの容器も、瓶ではなく、ペットボトルに代わりつつある。
軽く、割れたりする心配も無いのだろうが、
手に持ったときの感覚が、どうも軽すぎる気がする。
ラムネというのは、夏の清涼感を演出する、一種の嗜好品なのだから、
容器の素材についても、こだわってほしいというのは、
消費者のわがままだろうか。