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この時期、自転車で市内を走っていると、
あちこちで「葛」が大繁殖しているのを目にする。

とくに龍野新大橋西詰めから、
揖保川に沿って下っていく土手上の道では、
西側法面から大量の葛が沸き上がってきており、
金属製の柵を包み込み、歩道を浸食し始めている。
現在の状況のまま、何もせずに放っておけば、
ひと月後くらいには、歩道の半分ほどが、
通行不能になるのではないだろうか?

もちろん、「葛」が大繁殖しているのは、
そこばかりではない。
ちょっと気をつけて見てみると、
それこそ町中至る所で、「葛」を見つけることが出来る。

草がぼうぼうと生えている空き地、
河原、山裾、山中と、至る所で「葛」が大繁殖している。
自分の住んでいる地区でも、
この時期になると「草刈り」を行なうのだが、
その際にも、金網などに絡まるようにして繁茂している「葛」は、
最高に厄介な雑草の1つである。
金網などに絡んでいる以上、エンジン式の刈り払い機で
一気に刈り払ってしまうことが出来ない。
従って、昔ながらに手に鎌を持って、
伸びてきている「葛」のツルを切っていくのだが、
ウネウネと金網にからみつくツルは硬く、
これを切り分けるだけでも、かなりの重労働になる。
さらにツルを切っても、それでおしまいではない。
切ったツルを金網から取り除かなければならないのだが、
ウネウネと密に絡み付いているため、
これがまた重労働になる。
力尽くで引っ張ってもちぎれず、
引き抜こうにも絡みが強すぎて、引き抜くことが出来ない。
仕様がなしに、また鎌を使い、
強く絡まった部分を切りほどいていくハメになる。
作業は遅々として一向に捗らない。
初夏の照りつける太陽の下、
なんで自分はこんなことをやっているんだろう?てことを、
考えてしまう。
ああ、忌々しい。

「葛」は、マメ科クズ属に属する、ツル性の多年草である。
主に地面に這うようにして成長し、
途中、木や他の草などがあれば、それに覆いかぶさるようにして
繁殖していく。
その繁殖力は、まさに驚異的のひとことで、
一度繁殖を始めれば、それこそ何度刈り払っても生えてくる。
その生命力と繁殖力は悪魔的ですらある。
「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれている。
……。
あれ?「葛」って、もともと日本にあったものじゃないの?
「外来種」って、おかしくない?と、思う人もいるだろう。
その通りである。
「葛」は、アジアの温帯が原産の植物で、
日本でも古来から存在していた植物の1つである。
従って、日本では「外来種」という扱いにはならないのだが、
「葛」を日本より贈られたアメリカなどでは現在、
その大繁殖ぶりが問題になっており、
アメリカの在来植物の大きな脅威になっている。
もともとは1876年の
フィラデルフィア独立百年祭博覧会において
日本より持ち込まれ、飼料用・庭園装飾用として用いられた。
さらに緑化用、土壌流出防止などの役割もあり、
当初は大歓迎を持って迎えられたはずであったのだが、
やがてその強烈な繁殖力は、アメリカ人たちの手に負えなくなる。
栽培されていた状態から、
野生のフィールドへと飛び出した「葛」は、
またたく間にアメリカの大地を覆いつくし始めた。
現在も盛んに駆除が行なわれているが、
「葛」の勢いは、未だ衰えることを知らない。
もちろん、日本国内においても、人工林などにおいては
その害が顕著に表れており、
「有害」ぶりをいかんなく発揮している。
先に書いた、雑草としての大繁茂もまた、
人間にとっては厄介なものなのである。

どうして「葛」は、こんなにも厄介なのか?
その理由が地下茎にある。
「葛」は根茎によって繁殖するため、
どれだけ地上部分を刈り払ってみても、すぐにツルが再生する。
地下茎は肥大化しており、
その太さは20㎝、長さは1.5mにもなる。
この巨大な根茎に溜め込まれた栄養を使い、
すぐにツルを再生させているのである。
また、この根茎には窒素を蓄えた根粒バクテリアが付着するため、
「葛」の生えている場所の土は、どんどんと栄養が豊富になり、
「肥えて」くる。
もちろん、肥えた土は「葛」以外にも恩恵をもたらすが、
当の「葛」自体もその恩恵に預かり、
ますます大繁殖する、ということになるのである。
つまり、諸悪の根源はタップリと栄養を蓄えた、
この巨大な根茎だったわけである。
しかしこの根茎、実は人間に利益ももたらしてくれる。
この巨大な根茎を掘り起こし、粉砕して水に晒すことによって、
根茎内に含まれている「デンプン」を抽出することが出来る。
これで抽出された「デンプン」が、いわゆる「葛粉」である。
奈良県吉野などでは「吉野葛」などと称して、
この「葛粉」を生産しているが、
実は日本全国、どこにでも「葛」は生えており、
採取しようと思えば
どこでも「葛粉」を作ることは出来るのである。
(ただし結構な重労働である。
 100kgほどの根茎を掘り起こし、粉砕し、
 篩いにかけて水に晒す行程を10回ほど繰り返し、
 これを乾燥させて初めて「葛粉」は出来上がる。
 2ヶ月もの時間をかけ、
 出来上がる「葛粉」はわずか7kgである)
さらに、この「葛」の根を乾燥させたものを
「葛根(かっこん)」といい、生薬として使用される。
風邪薬として知られる「葛根湯」は、
「葛根」を主として、マオウ、ショウキョウ、ナツメ、
ケイシ、シャクヤク、カンゾウ、などを配合したものである。
また、根のみならず花も乾燥させ、薬として用いられる他、
ツルは編み込んで籠などを作ったり、布を織ったりもした。
古代の日本人にとっては、
全草が有用であったため、マメに採取され、
現在のように大繁殖したりはしなかったのだろう。

大地を覆いつくさんばかりに生い茂っている「葛」を見ると、
ちょこっと掘り起こして、
根をとってみたいな、とも思うのだが、
「葛粉」をとるには手間がかかりすぎるし、
「葛根」を作っても、使いどころがない。

なんとも、ままならないものである。

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