雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

雑感、考察

日本化け物考〜件

投稿日:

日本には、様々な「化け物」がいる。

いや、正確に言えば「いた」といった方が良いかも知れない。
現代日本においては、もう、どこを探しても
「化け物」というものは、存在していないからである。

日本の「化け物」といえば、色々いる。
昔話などを見てみれば、
それこそ多種多様な「化け物」が登場している。

頭に角の生えた「鬼」。
鼻の高い「天狗」。
水の中から現れる「河童」。
人間をひと呑みにしてしまうような「大蛇」。
ヒュー、ドロドロと現れる「幽霊」

どれも昔話には常連といっていい「化け物」たちで、
彼らの存在が無ければ、昔話は随分と寂しいものになってしまう。
これらの「化け物」を、よくよく見直してみると、
いくつかの種類に分類することが出来る。

ひとつは、人の形をとっているもので、
「鬼」「天狗」「幽霊」などがこれにあたる。
恨みや未練などの、強い感情を残して死んだ人間が成仏できず、
「幽霊」になって現れるというのは、怪談などの定番である。
「幽霊」では、全く人と同じ形をしているが、
(もちろん、足が無いというパターンもあるが……)
「鬼」や「天狗」は、人が変化したものである。
「鬼」には角が、「天狗」には高い鼻が付け加えられ、
普通の人間との、外見上の差異になっている。
この他にも、「ろくろ首」や「のっぺらぼう」など、
人をベースにしたと思われる「化け物」は多い。

ふたつめは、既存の動物が変化、変形したものである。
先に挙げた例でいえば「大蛇」などがこれにあたる。
普通に、日本中に生息している「ヘビ」という生物が、
常識以上の巨大さになると「大蛇」として、「化け物」にされる。
タヌキやキツネが人を化かす、というのも、この範疇に入るだろう。
日本中に生息しているこれらの動物に、
超常の力を付与することによって「化け物」になった。
「カマイタチ」は「イタチ」が、「猫又」は「ネコ」が、
それぞれベースになっている。

もちろん、この2つのパターン以外の「化け物」も存在しているが、
日本の「化け物」の姿をよくよく観察してみると、
そのほとんどのものは、この2つのパターンに
大別されると考えていい。

今回、取り上げる「件」という「化け物」もまた、
この2つのパターンに準拠している「化け物」である。
しかも面白いことに、この2つのパターン両方に準拠している。
つまり、人と動物と、両方の姿を持っているということだ。

「件」。
字だけを見れば、思わず「けん」と読んでしまいそうになるが、
これを「化け物」の名前として読む場合、「くだん」となる。
顔が人、体が牛の「化け物」である。
「件」という字が、にんべんに「牛」と書くことを考えれば、
なるほどと納得することが出来る。
(もっとも、あまりにも出来すぎている感がないでもないが……)
全く突然に現れる、という話もあれば、
牛から生まれてくる、という話もある。
どちらの「件」にしても共通しているのは、
人間に対して予言を与える、ということである。
予言の内容については、「豊作」と「悪病(流行病)」について
まとめて予言することが多く、
「これから○○年、豊作が続くが、
 その後、悪病がはやり、多くの人が死ぬ」
というような感じで行なわれることがほとんどだ。
ただの予言と違う所は、予言の中の「悪病」を避ける方法を
教えてくれるという点である。
その方法とは、
「自分(件)の姿を絵に写して、これを家に貼っておく」
というものである。
突然現れ、あるいは生まれ落ち、この予言を行なった後、
「件」はすぐに死んでしまう。
要は、予言をするだけの「化け物」である。

実は、このように予言をする「化け物」というのは、
この「件」の他にも、何種類かいる。
その中で有名なものが「神社姫」や「アマビコ」で、
「神社姫」は、人の顔のついたヘビ、あるいは龍、
「アマビコ」については、決まった形と言うものは無いのだが
クチバシがあり、3本足の姿のものが多いようである。
「神社姫」は主に海上で、「アマビコ」については
特に場所を選ばずに出現するようだが、
その予言の内容については、「件」のそれとほとんど変わらない。
豊作と悪病を予言し、自分の姿を絵に写して、これを貼っておけば、
難を逃れられると予言している。
面白いのは、これらの「化け物」に出会って、
予言を受けたという人物が、かなりの確率で
「柴田某」という人物であることだ。
これは、もともと1つの話であった物が、
様々に脚色されて、広がっていったことを示している。
どの「化け物」の話にしても、
その姿を絵に描いて貼付ける(所持しておく)ことが
難を逃れる条件になっているため、
この「化け物」の絵が、現代まで残っていて、
そこには、「化け物」の絵とともに、
「化け物」の現れた場所・日時・予言の内容などが併記されている。
このうちの「日時」に注目してみれば、
どれも西暦でいう1800年代に起こっていることで、
江戸時代の後期に集中している。
この時代は、飢饉などが頻発し、
外国船が日本近海に姿を見せ始めるなど、
世情には、不穏な空気が流れていた。
そういう世情の中で、人々の不安がこのような「化け物」たちを
生み出したのだと考えられる。

「件」は、そのような予言を行なう「化け物」の中で、
特にその名を知られた存在である。
一説によれば、江戸時代の書き付け証文などには、
「如件(くだんのごとし)」と書き込まれることが多かったが、
これは「件」の予言のように「かならずそうなる」、
つまり書いてあることを、必ず行なうという意味だという。
おもわず、おお、と感心してしまいそうになるが、
先に書いた通り、「件」という「化け物」が現れるようになったのは、
江戸時代も末期近くになってからのことである。
「如件」という定型句については、これ以前から用いられていたので、
(古いものでは、「枕草子」の中にも「如件」という言葉は
 使われている)
「如件」の「件」は、化け物の「件」のことを指しているわけではない。
むしろ「如件」という定型句があったからこそ、
そこから「件」という化け物が生み出されたのかも知れない。

さて、今回は日本の「化け物」のうち「件」について書いてみた。
次回は同じく日本の「化け物」の「ミイラ」について書いていく。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-雑感、考察

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.