夏場が近づいてくると、播磨地方の瀬戸内海沿岸にアジやサバ、
イワシの群れが回遊してくる。
これを波止場の上から、サビキで釣るのが、夏の風物詩だ。
人気の釣り場では、家族連れなどが釣りに興じている。
アジやサバなどは、子供でも大量に釣れる、
ファミリーフィッシング向きの魚である。
小アジの南蛮漬けなど、晩ご飯のオカズにもなる。
そんなサビキ釣りをしていて、突然、釣れなくなるときがある。
さっきまではバンバン釣れていたというのに、突然ぱったりと喰いが止む。
潮もよく動いている。
そんな時、近くの水面をようく眺めてみると、
巨大な座布団のようなものが、ゆっくりと泳いでいることがある。
ゆったりとした動きで、実に不気味だ。
エイである。
このエイが出ると、アジやサバなどの魚はぱったりと釣れなくなる。
そのうちエイが行ってしまってしばらくすると、再び魚が釣れるようになる。
今回は、この釣り場荒らし「エイ」について書いていく。
エイ。
軟骨魚類。
体がいちじるしく縦扁していて、うちわのようになっており、
左右五対、あるいは六対のエラ孔は体の腹面にある。
胸びれが体側にくっついて、境目がなくなっており、
尻びれがなく、背びれは全くなくなっているか、非常に小さくなっている。
体の尾部は細長く伸びている。
この尾の先に、毒を持つ種もいる。
多くは卵胎性で、雌の腹の中で卵が孵る。
底生生活に適応しており、瀬戸内海などでは、
アサリなど貝類に対する漁業被害が、深刻な問題になっている。
鮮度が落ちると、身に含まれている尿素が加水分解し、アンモニアが発生する。
このため、強い臭いがあり、一般的にはあまり食べられない。
ただ国内でも一部地域では、好んで食べられている。
韓国の有名なエイ料理、ホンオフェはエイの肉を発酵させたものであり、
凄まじい臭いがある。
その臭いの強さは、納豆の14倍もあり、その香りを深呼吸で吸い込むと、
失神してしまうとさえ、いわれている。
食用に供されているのはアカエイで、これ以外のエイは、
基本的には食用にならない。
可食部分は、左右のヒレの部分と、キモである。
鮮度の落ちていないものは、臭みもなく、淡白な味わいである。
肉に含まれている尿素があるために、腐りにくい魚であり、
昔は山間部で食べることのできる、数少ない海の魚であった。
稀に、スーパーの鮮魚コーナーに、エイが並んでいることがある。
身の色はきれいなピンク色で、皮がついたままブツ切りにされている。
多くの店では、「煮付けに!」という売り文句を付けて、販売している。
中に皮が黄色い部分が含まれているが、これはヒレの外縁に近い部分である。
エイを食べる習慣のない地域では、あまり売れていないようだ。
閉店間近に店にいくと、半額のシールが貼られていることもある。
最初、サビキ釣りをしていると、エイがやって来るという話を書いた。
だから、魚が釣れなくなったからといって、
仕掛けを海の中に垂らしたままにしておくと、
エイが引っかかってしまうことがある。
そうなったら、実に面倒である。
エイは結構大きいので、サビキ釣りで使うような磯竿や、
コンパクトロッドなどでは、釣り上げることができない。
比較的丈夫な、投げ竿でも同じことだ。
サビキの仕掛けに絡まったエイは、水面をヒレでバンバンと叩きながら、
抵抗してくる。
小型のエイならば、大きめのタモ網ですくい上げることもできるのだが、
中型のサイズのエイになると、網を使って取り込むのは、まず不可能である。
こうなると、仕掛けを諦めて、ラインを切ってしまうしかない。
あまり長い時間、エイに暴れられると、せっかく寄って来ていたアジやサバが、
散ってしまうこともある。
うまく取り込むことができたとしても、注意が必要だ。
アカエイなどは、食べることができるので、
持ち帰ることもあるだろうが、その尾の先には毒針がある。
これに刺されると、激痛に襲われ、さらにその痛みが長く続く。
ひどい時では、数週間も痛みが引かないこともある。
針には鋸歯状の返しがついており、ささってしまうと抜きづらい、
下手をすると、ひどく傷口が広がってしまう。
エイが生きているうちは、しっぽをふり回すので、かなり危険だ。
厄介なことに、エイの毒は死んでも残っているので、
浜辺などに打ち上げられた、エイのしっぽをふんでしまっても、毒にやられる。
特に注意しなければならないのは、アレルギー体質の人で、
エイに刺されると、アナフィラキシーショックを引き起こし、
最悪の場合、死に至る。
死んでいるからといって、安心はできない。
ネット通販で、エイが買えないものかと調べてみたが、
ペット用の淡水のエイばかりが出てくる。
さらに探して、ようやく見つけた。
それによると、100gあたり40~90円ほどの価格帯だ。
なかなかの安値である。
数が少ないのは、やはり死んでから時間が経つと、臭いが強くなるからだろう。
そういう意味では、通販には向かない商品のようだ。
加工品も、いくつかネット通販にあったが、やはり数は少ない。
やはり、スーパーの鮮魚コーナーをマメに見て回り、
数少ない販売品を探すのが、一番楽な入手方法のようだ。
臭いの件もあるので、なるべく新鮮なものを購入したい。