怖いものを表す言葉に、地震・カミナリ・火事・親父というものがある。
地震というのは、我が国ならではのものだろう。
他の国に比べてみても、圧倒的に地震の数が多い。
それだけでなく、それに対する対策もいろいろととられている。
東日本大震災以降は、地震に慣れすぎている気がしなくもない。
火事もまた、木造建築物の多い、日本ならではのことかもしれない。
特に昔ながらの日本家屋は、木と土と紙でできている。
木と紙は、火をつければ、あっという間に燃えてしまう。
こんな家に住んでいては、火は何よりも恐ろしいだろう。
親父はどうだろう?
近年、日本の家庭では父親の権威というものが、落ちてきているように思われる。
昔ほどには、父親を怖がっている子供も少なくなっている。
これは、見方を変えれば、父親という存在が家庭の中にとけ込んだとも、
言えるかもしれない。
そういう風に捉えるのならば、父親が怖くなくなったことは、
そう悪いことではないのかもしれない。
そして今回のテーマ、「カミナリ」だ。
先日うちにやってきた甥っ子が、遠くの空でカミナリが光ったのを見て、
あわてて母親の元に走っていった。
どうも、相当に怖かったようだ。
ドーンと空気をふるわせる雷鳴は、確かに子供には恐ろしいだろう。
保育所で教わったのか、おなかを隠しているのが
見ていて可愛らしかった。
「カミナリ様におへそをとられる」というのは、
子供の世界では、まだ通用しているらしい。
さて、「おへそをとられる」というのは、大人には通用しないが、
大人は大人で、カミナリを恐れる。
どういう風に恐れるかといえば、カミナリに撃たれることを恐れる。
日本では、年間約20人がカミナリに撃たれている。
そのうちの14人が命を落としている。
死亡率は実に70%だ。
こういう風に言い切るのはどうかとも思うが、
あたれば死ぬ、と考えて間違いない。
カミナリに撃たれる場所として、よく知られているのはゴルフ場や川など、
さらには登山中に、山で被害に遭うこともある。
ゴルフ場というのはわかる。
だだっ広いコースの上で立っていたら、カミナリにも撃たれるだろう。
川はどうか?
実は釣りをしている人の、釣り竿に落雷するのだ。
川の中に立っていると、意外に周りに高いものがなくなる。
そんな中で、長い竿を立てるように持っていると、
カミナリを呼び込んでいるようなものだ。
登山中にカミナリに撃たれる、という事故もある。
登山道は、山の尾根の上に作られていることが多いので、
登山中はカミナリに狙われやすい場所を、歩いているといえる。
特に尾根上を縦走するような場合、
辺りで一番高いのが登山者自身ということになる。
山の場合、カミナリは上から来るとは限らない。
地面を這うような、横からの雷撃がある。
こうなってくると、頭を低くしているからといって、
カミナリに撃たれないとは限らない。
1967年には、西穂高岳において松本深志高校の登山パーティーが、
落雷被害を受け、11名が死亡している。
これは、登山中の落雷事故として、最悪のものである。
では、被害に遭わないために、どういう行動をとれば良いのか?
よくいわれることに、
「雷が鳴りはじめれば、身につけている金属製品をすてる」
というものがある。
が、これは間違いである。
実際に金属製品を身につけていても、つけていなくても、
カミナリに撃たれる確率は、変わらないのである。
なんだ、かわらないのか、じゃあ、やっぱりはずしてもいいんじゃないか、
そういう風に考えるかもしれない。
間違いである。
実はカミナリに撃たれた場合、金属製品を身につけていた方が、
生き残る確率が高いのだ。
というのも、身体に金属製品を身につけている場合、
それが電流の逃げ口になってくれることがあるというのだ。
そうなってくると、金属製品を捨てるのは間違い、ということになってしまう。
早い話、金属製品を捨てている暇があったら、
一刻も早く安全な場所に逃げ込むか、
身体を低くしてカミナリに狙われないように祈ろう。
よく、高い木の下に避難する、とも言われる。
しかし、これも危険である。
避難している木に雷が落ちてきた場合、木の側に立っていると、
木からカミナリが飛んでくることがある。
こうなると、避難したことが完全に裏目に出る。
高い木が側に立っている場合は、少なくとも5mほど離れ、
体全体を低くして、うずくまるようにした方が良い。
実際、雷が落ちてくるような状況になった場合、
できることといえば、安全な建物の中に逃げ込むくらいである。
それができない状況であれば、低い位置に移動して、
頭を低くしてうずくまり、カミナリにあたらないように祈るしか無い。
後はもう本当に運任せだ。
これまで、登山中に一度だけ、雷鳴を聞いたことがある。
幸い、雷が落ちることは無かったが、
正直、生きた心地はしなかった。
ゴロゴロ、という音が聞こえているということは、
すでにそこは落雷の可能性のある場所だからだ。
音を聞いたときは、できるだけ速やかに避難したい。
この時期、正午を過ぎれば、カミナリまじりの夕立が起こりうる。
これを避けるためには、午後からは山にはいらないことである。
夕立の最中、いつも登っている山に、雷が落ちているのを見ると、
カミナリが身近な危険であることを、認識させられる。
カミナリによる死者は、年間約14名。
この中に入らないよう、カミナリには常に細心の注意を払いたい。