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塩昆布

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By: se7en

子供のころ、イベントなどで「お汁粉」が提供された場合、
かなりの高確率で、口直しがついていた。

イベントの「お汁粉」は結構気前が良く、
ひとつのお椀の中に2つ~3つも餅を入れてくれた。
なんせ、子供は食べ盛りである。
1回、ひとつしか餅を入れないと、
それこそ際限なくおかわりを要求してきて、
手間がかかってしまう。
それを防ぐために、1回で餅を2~3個ほど入れ、
手っ取り早く、子供の腹を満たそうとしたのだ。
自分が子供のころには、
ダイエットなどという言葉は頭の中になく、
(あくまでも男の子の話である。
 女の子の場合は、その辺りの事情は違っていたと思うが)
ただただ、食欲の赴くままに「お汁粉」を食べていた。

もちろん、甘くて温かい「お汁粉」はウマいのだが、
これを2杯も3杯も食べると、いい加減、
口の中が甘さでおかしくなってくる。
アンコの中で煮込まれた甘い餅を、
アンコと一緒にひたすら食べ続けているのだから、
当たり前といえば、当たり前の話だ。
どうしても、何か「しょっぱいもの」を食べて、
味覚をリフレッシュしたくなる。
「お汁粉」の提供側も、その辺りのことは心得ていて、
テーブルの真ん中に小さな皿がおいてあり、
そこには口直し用の「塩昆布」が山盛りにされていた。
我々は、口の中が甘ったるくなったら「塩昆布」を食べ、
口の中をリフレッシュして、
再び「お汁粉」に取りかかったのである。

ここで、「塩昆布」ってなんだ?
と、頭をひねる人もいるだろう。
「塩昆布」とは、昆布を細切り、あるいは角切りにして、
醤油、砂糖、みりんなどを加えた
調味液の中で炊き上げ、これを汁切りして乾燥させたものに
塩、うま味調味料などをまぶしたものである。
パッと見た感じ、柔らかくなった昆布に
塩がまぶしているように見える。
概ね、関西を中心に食べられており、
関東などでは、ほとんどその姿を見ることが出来ない。

醤油、砂糖、みりんなどの調味液で、
昆布を炊き上げると書いたが、
それって要は、昆布の「佃煮」じゃないの?
と思う人もいるだろう。
なるほど、たしかに昆布を炊き上げる調味液は
「佃煮」のものと全く変わらないものだ。
だが「塩昆布」と「佃煮」では、
昆布の炊き上げ方が大きく違っている。
「佃煮」は、大量の調味液の中に昆布を入れて、
そのままの状態で炊き上げ、
炊きあがった後に調味液の中から昆布を取り出す。
調味液の中で昆布が「浮いて」いることから、
この炊き方を「うかし炊き」という。
「うかし炊き」では、
昆布の中の旨味が調味液の中に出てしまい、
昆布の旨さが充分にいかされない。
これに対し、「塩昆布」を炊く場合、
調味液を必要最小限の分だけ入れて炊き上げる。
炊きあがるのと同時に、調味液は全て昆布に吸い取られ、
鍋の中には全く調味液が残らない。
この炊き方を「いり炊き」という。
イメージしにくい場合は、
ご飯を炊くのを思い浮かべてみればいい。
あれも、きっちりと量った水の分量で炊き上げるため、
炊きあがりには全く釜の中に水は残らない。
「いり炊き」は、あれと同じことなのである。
この炊き方では、調味液の中に抽出された旨味も、
すべて昆布の中に回収されることになり、
昆布の旨味を全く損なわず、
全て生かすことが出来るのである。
現在、「伝統のうかし炊きで炊き上げた」と謳っている
「塩昆布」もあるが、
伝統の「塩昆布」というのは、
「いり炊き」で作られるものなので、
なんともミョーな謳い文句である。

さて、この「塩昆布」、
一体いつごろから作られているのか?
昆布を醤油などの調味料を使って調理したものは、
平安時代には作られていたようである。
(このころは、まだ醤油はなく、
 「醤(ひしお)」と呼ばれる調味料が使われていた)
室町時代には「醤油」が誕生し、
これで昆布を煮染めることも行なわれた。
恐らくは、昆布の「佃煮」に
近いものだったのではないだろうか?
江戸時代になると、江戸で「佃煮」が誕生する。
もっともこの「佃煮」を作ったのは、
徳川家康に招かれ、江戸へと移住した
摂津・佃の漁民たちなので、
江戸時代以前の大阪には
佃煮に近いものがあったのではないかと思われる。
江戸時代、江戸ではほとんど昆布が使われなかったので、
昆布の「佃煮」が誕生したのは、
昆布が豊富にあった大阪だったのではないだろうか?
恐らくは出汁をとった後の、昆布の再利用策のひとつとして、
考え出されたのではないかと推測できる。

現在のような、乾燥した「塩昆布」が
作られるようになったのは意外に遅く、戦後のことになる。
昭和36年には「乾燥塩昆布」の製法が特許を取得し、
3年後の昭和39年には、乾燥塩昆布商工業協同組合が設立。
技術は機械化され、「塩昆布」は大量生産されて
一般家庭へと広まっていくことになるのである。

この「塩昆布」、かなり使い勝手がいい。
ご飯の上にのせてお茶をかければ、手軽にお茶漬けになるし、
キュウリや大根などに混ぜ合わせれば、
手軽に即席の漬け物を作ることが出来る。
昆布自体に旨味があるし、
旨味調味料もまぶしてあるため、
混ぜ合わせた野菜に、塩味と旨味を
同時に付け加えることが出来るのだ。
もちろん、炊きたてのご飯にのせてそのまま食べてもいいし、
バターを塗ったパンの上に乗せて食べてもいい。

これだけ使い勝手が良い上に、
かなりの期間、保存が可能である。
冷蔵庫に入れておく必要もないので、
無精者の一人暮らしの男性にも向いている。

ただ湿気には弱いので、
保管の際には、その点だけ気をつけるようにしたい。

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