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電動アシスト自転車〜その3

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By: na0905

前回、「電動アシスト自転車」の話の1つとして、
ヨーロッパの自転車レースに忍び寄る、
「負」の側面について書いた。
今回は、ヨーロッパにつぐもう1つの自転車の国、
中国について書いていきたい。

今の若い人では、中国=自転車というイメージを持つ人も
少ないかも知れないが、30代以上の年代の人であれば、
中国=自転車といってもいいくらいのイメージを持っているはずだ。
かつて、中国の首都・北京の朝の通勤風景が
TVなどで紹介されることがあったが、
そこで見た風景は、強烈なものであった。
首都・北京の広い道路を埋め尽くす、
自転車に乗った人、人、人……。
道を埋め尽くすほどの自転車たちが、一斉に移動していく様は、
まさに長江や黄河の流れを思わせる、圧倒的な人の流れであった。
テレビなどでその姿を見た人には、強くその姿が脳裏に焼き付けられ、
中国=自転車というイメージを持つに至るのも、
無理の無い話であった。

あれから数十年。
中国は、驚くべき経済発展を遂げ、ごく一部ながらも、
「富裕層」と呼ばれる高所得者層も生まれるに至った。
人々の生活レベルは向上し、バイクや自動車が普及していった。
その弊害、というわけでもないだろうが、
中国では大気汚染が深刻化し、その汚染物質が風に乗って
日本にまで流れてくる、なんていう事態も起こっている。
その急激な社会情勢の変化の中で、
あの中国名物(?)であった、
圧倒的な自転車の群れはどうなっているのだろうか?

最近、中国にいった人達の話を集めてみると、
かつては自転車ばかりだった中国の道路にも、自動車が増えたという。
まあ、これはある程度、予想できたことである。
首都・北京に至っては、車の数が増え、
走行規制をしなければならないほどに、市内に車があふれている。
ただ、実際の所、車の量は東京などと、そう変わらないようだが、
どうも中国の人たちは、ほとんど交通ルールを守らないようで、
そのせいか、とんでもない数の渋滞が起こっているらしい。
少し前、TVのニュースで、
「北京の慢性的な渋滞を緩和させるため、
 ナンバープレートの末尾の数字による走行規制を行なう」
というものがあったが、どうも、これも
思ったほどの効果が出ているのかどうかは怪しそうだ。
北京の大気汚染は深刻さを増し、
酷いときは、道の向こう端が曇って見えるというのだから恐ろしい。
ただ、北京の道路に自動車は増えたが、
決して自転車の姿が無くなってしまったわけではない。
北京の道路はかなり広いのだが、その広い道路には、
広くとられた「自転車レーン」があり、
そこには今も、大量の自転車が走っているのである。
これは別にお金がないからというワケではなく、
(もちろん、幾分かはそういう理由で自転車に乗っている人も
 いるだろうが……)
先に書いたように自動車では渋滞が酷く、
目的地に時間内に到着したければ、
自転車か地下鉄で移動した方が良い、ということらしい。
まあ、自転車であれば、渋滞で動けなくなるなんていうことは
まず起こらないだろう。
北京は、広い町の中に高低差がほとんど無く、
非常にフラットな町なので、自転車に乗っていても
坂道のストレスとは無縁だというのも、
人々が自転車に乗る大きな理由の様である。

さて、改めてこの「自転車レーン」に目をやってみると、
そこには様々な「自転車」が走っている。
かつての北京で見られた、実用性100%の無骨な自転車や、
新型のマウンテンバイクやロードレーサー。
まあ、ここまでは、実際に北京の「自転車レーン」を
目にしていない我々にも容易に想像がつく。
そしてここに、今回のテーマである「電動アシスト自転車」も、
当然、走っている……のだが。

日本では、「電動アシスト自転車」というのは、
あくまでも人間が自転車を漕ぐのを「アシスト」するだけのものだ。
前々回に書いたように、その「アシスト力」には厳しい規制があり、
人の力「1」に対して、最大で「2」の力までのアシストしか、
してはいけないことになっている。
だが、中国には、このような規制は存在していない。
規制が無いということになると、(まあ、あってもだが……)
自分たちのやりたい様に、好き勝手するのが中国人である。
彼らは、早速、自転車に電動モーターを組み込んだのだが、
センサーを付けて、ペダルを踏む力を計測し、
その力に合わせて、「アシスト」させるなんていう
まどろっこしい方法をとらなかった。
彼らが何をしたかというと、ハンドル部分にアクセルを仕込み、
これをひねれば、モーターによって車輪が回るようにしたのだ。
もうこの時点で、すでに「電動アシスト自転車」ではなくなっている。
いうならば、ただの「電動自転車」である。
アクセルをひねれば車輪が回り、自転車は勝手に進んでいく。
これでは当然、ペダルは無用のものということになり、
あっさりと取り外されてしまうこととなった。
日本の感覚でいえば、これはオートバイということになるのだが、
北京の中心地ではオートバイは規制されているため、
あくまでもここを走っているのは、「自転車」ということににある。
ここまではいい。
本音を言えば、全然、良くないのだが、
それでもここまでなら、まあなんとか、
「自転車」としてガマンが出来る。
しかし、ここで終わらないのが中国人だ。

彼らは次に、雨を避けるためのカバーを自転車に取り付ける。
まあ、ピザ屋のバイクみたいなものだと思ってもらえば良い。
彼らはそれだけでは飽き足らず、風も防ごうとして、
このカバーを、ドアのついた四角い箱の形にする。
当然、そうなってくると2輪では安定性が保てないので、
車輪を増やし、3輪や4輪の自転車(あくまでも)に改造する。
さらに乗りやすさを考え、前面にはヘッドランプ、
後ろ面にはブレーキランプ、後方確認用にバックミラーを取り付ける。
そうなると、ハンドルも丸型の方が扱いやすいとなり、
当然、アクセルやブレーキは足下のペダルで、ということになる。
……。
そう、どうみても「自動車」にしか見えないものが、
出来上がっているのだが、当然、これは「自転車」ということになる。
ここまでに書いてきたものたちが、全て走っているのが、
中国の「自転車レーン」である。
見た目には、「自動車」「3輪自動車」「バイク」「電動自転車」
「自転車」が入り混じっているように見えるのだが、
実は走っているのはすべて「自転車」という、
法を遵守しているのだが、無視しているのだか、
サッパリわからないのが、この国の恐ろしい所である。
(ぶっちゃけていえば、中国では内燃機関で動くもの=自動車、
 電動もしくは人力で動くもの=自転車ということらしい)

我々日本人は、様々な制約があればあるほど、
素晴らしい底力を発揮するが、
彼ら中国人は、制約が無く、自由であればあるほど、
暴走と言っていい行動力から素晴らしい力を発揮する。
アシスト力の制限や、子供2人を乗せる設計など、
様々な制約の中で生み出された日本の「電動アシスト自転車」と、
ほとんど法整備の整っていない、自由な環境の中で、
ワケのわからないほどおかしな発達をした、中国の「電動自転車」。
どちらも、それぞれの国柄を充分に活かして、
それぞれの特徴を存分に出した、進化型自転車である。
ヨーロッパに次ぐ、自転車のメッカ・中国では、
ほとんど規制のないまま自転車は進化を続け、
ワケのわからないものを、山ほど生み出してしまったわけだが、
実はその根底には、あくまでも1つの思想が見える。
それが
「自転車とは、どこまでも実用的な道具である」
というものだ。
自転車の文化が進んでいけば、この「実用」一辺倒の考え方に
「趣味・スポーツ」としての側面が生まれてくるのだが、
ヨーロッパや日本などに比べると、中国での自転車文化は、
まだまだ「実用」一辺倒である。
もちろん、将来的に言えば、中国であっても必ず自転車を
趣味やスポーツとして扱う文化が生まれてくるはずだ。
そうなったとき、このエネルギーに満ちあふれたおかしな国は、
一体、どんな自転車文化を生み出すのであろうか?

さて、ここまで3回にわたり
「電動アシスト自転車」を中心としたテーマで書いてきたのだが、
実は自分自身、この「電動アシスト自転車」に乗ってみたことは、
わずかに1度しか無い。
それも100mかそこら辺りの距離、緩やかな坂で乗ってみただけだ。
緩やかな上り坂ではあったものの、「アシスト」の力は働いていて、
なんとも不思議な乗り心地であったことは、強く印象に残っている。
確かにアレであれば、坂の多い地域でも、力の弱い老人でも、
はたまた子供を2人乗せた重量のある状態でも、
かなり楽に乗りこなすことが出来るだろう。

高齢者の運転ミスによる交通事故が多発し続けている以上、
近い将来には、高齢者の免許返納義務付けは確実だろう。
その際、生活の足が無くなる高齢者に対し、
国や自治体が出来ることといえば、
精々が、公共交通の格安乗車券を配布する程度だ。
バスなどの交通インフラが衰退している地方では、
きっと、高齢者にまともな「足」は、無くなると思っていい。
そう考えた場合、この「電動アシスト自転車」は
高齢者の生活を左右する、キーアイテムにさえなりうる。

車から自転車へ、自転車から「電動アシスト自転車」へ。
そういう時代が、もうそこまで来ているのである。

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