雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

動物 歴史 食べ物

刺身と言えばマグロの赤身?

投稿日:

親の偏食というのは、子供に大きな影響を与える。

親の嫌いなものを、
子供も同じように嫌いになる……なんてことはない。
何故なら、親の嫌いなものは食卓に上らないからだ。
従って子供は、親の嫌いな食品を、食べる機会がなく、
好きとも、嫌いとも、感想を持ち得ない。

ある程度のものは、学校給食で
食べる機会を得ることが出来る。
しかし、給食に出て来ないものに関しては、
どこかよその家で食べさせてもらうか、
自分で外食できるようになるまで、
全く食べる機会がない。
親の偏食は、全く無意識のうちに、
子供に食のハンデを与えるのだ。
そういう意味で、我が家の食はかなり偏っており、
我が家の子供たちは、
大きな食のハンデを持たされていた。

そんな我が家では、「刺身」といえばマグロだった。

父親が好きだったせいか、自分が幼少のころ、
マグロ以外の刺身を食べたことがない。
小学校の高学年になるころになって、
初めてマグロ以外の刺身が、我が家の食卓に上った。
記憶が確かなら、イカだったはずだ。
やがて、自分が中学生になるころ、
マグロの他にブリの刺身が食卓に上がるようになった。
このころから、他の白身の魚なども、
刺身になるようになり、刺身バリエーションが増えていった。
恐らくは、父親が老成し、
味覚の幅が広がったのだと思われる。
それがちょうど、自分の幼少時と重なっていたのだ。

つまり自分は、小学校の高学年になるまで、
刺身=マグロという認識をもっていた。
もちろんマグロにも、色々な部位がある。
赤身、大トロ、中トロなどだ。
この中で、刺身として食べていたのは、
赤身だけである。
幼少のころ、自分はマグロという魚には
赤身しかないものだと思っていた。

マグロは、サバ科マグロ属の回遊魚である。
全長は最大で3mほどまで成長する。
流線型の、いかにも素早く泳げますよ、
という形態をしており、
実際、最大遊泳速度は、時速80kmにもなるとされる。
しかし普段の遊泳速度は、時速7kmほどで、
瞬間的に出すスピードでも、時速20~30kmほどだ。
どういう状況になれば、
時速80kmものスピードを出すのだろうか?

マグロは体重も大きく、最大で680kgにもなる。
マグロの場合、体重の3分の2が可食部(身肉)になるので、
680kgのマグロの場合、453kgもの身肉がとれる。
刺身1人前を100gと計算すれば、
じつに4500人分以上の刺身が作れることになる。
もっとも、平均的なマグロで、体重300kg。
身肉は200kgということになるので、
平均的なマグロでも、
2000人分の刺身が作れることになる。
1匹でこれだけの人間の食をまかなえるマグロが、
現在、IUCNのレッドリストでは絶滅危惧と評価されている。
いかに凄まじい勢いで、マグロを食べてきたのかがわかる。
自分もまた、刺身といえばマグロ、という両親のもとで、
せっせとこれに加担していたわけである。

魚には赤身の魚と、白身の魚がいる。
赤身の魚はマグロをはじめとする回遊魚が多く、
マグロ以外では、カツオ、アジ、サバ、イワシ、サンマなど、
いわゆる青物と呼ばれるものが並んでいる。
鮭はどうなんだ?
あれも身が赤いじゃないか、という人もいるだろうが、
実は分類的には、鮭は白身魚ということになっている。
ではどうして回遊魚の身は赤いのか?
それは、その筋肉の質に由来している。
回遊魚の筋肉は「遅筋」と呼ばれ、
酸素を利用した、継続的な収縮が可能である。
マグロは、泳ぐことによってエラに水を通し、
そこから酸素を体内に取り入れているので、
片時も泳ぎを止めることが出来ない。
もちろん、眠っている時も泳いでいる。
随分、器用なことの出来る魚だなと
思われるかもしれないが、どうもマグロには
眠っている間も、正常に泳げる機能があるらしい。
つまりマグロは、呼吸を維持するために、
生まれてから死ぬまで、
常に全身の筋肉を使っていることになる。
人間でいえば、心臓のようなものだ。
これが止まれば死ぬことになる。
当然ながら、筋肉を効率よく動かすために、
酸素を効率的に運搬する必要がある。
筋肉に酸素を運搬するのは、人間のそれと同じく、
ヘモグロビンの役目だ。
マグロの筋肉は、常時収縮するため、
このヘモグロビンを大量に含んでいる。
身に大量に含まれている、このヘモグロビンが、
マグロの身を赤く見せているのだ。

日本では古くから、マグロを食用としていた。
縄文時代の貝塚からも、マグロの骨が出土しているので、
そのころにはすでに、マグロ漁が行なわれていたようだ。
ただ、実際にマグロ漁が盛んになるのは、
江戸時代の中期ごろからである。
それまでは、腐敗速度が速いこと、
干物にすれば固くなりすぎること、
塩漬けにすればひどく味が落ちること、
といった理由から、全く価値のない魚であるとされていた。
江戸時代中期になり、醤油が出回るようになると、
これにマグロを漬け込む保存方法が考案され、
次第に食べられるようになった。
明治時代になると、日本近海にマグロが近寄らなくなる。
そのため、より遠くへとマグロを追いかけていく
必要に迫られた。
漁船の巨大化、効率化が図られ、
1920年にはディーゼルエンジンを積んだ漁船が開発された。
その後、昭和になり、
マグロ漁の舞台は、
さらに遠洋へと向かっていくことになった。

それだけ日本人に愛されてきたマグロだが、
現在、もっとも珍重されている「トロ」が、
その価値を認められたのは、意外と最近のことだ。
トロの部分は脂肪が多いため、
腐敗の進む速度が速く、
冷凍技術が一般的になるまでは、
なかなか新鮮なものを、
食卓に上げることが出来なかったことと、
その脂肪分の強い味わいが、受け入れられなかったからだ。
江戸時代には、トロはネコも食べずにまたいで歩く
という意味で、「ネコまたぎ」と呼ばれた。
このトロの低評価は戦前まで続いたが、
戦後、食の西洋化が進み、
日本人が濃厚な味を好むようになると、
途端に評価がひっくり返り、珍重されるようになった。

現在、海外での和食(寿司)の流行などによって、
世界的にマグロの需要が増大している。
日本の食文化が世界に広がり、
その結果として、日本へのマグロの輸入量が
圧迫されるとは、なんとも皮肉なことだ。
さらには、需要の増大に応えるための乱獲で、
マグロの数は、急激に減ってきている。
北大西洋では、1970年から比べると、
クロマグロの数は64%も減少しているという。

かつて同じことがクジラで行なわれ、
近くはウナギが同じ境遇に立った。
このままでは、近い将来マグロも同じ境遇になる。
いい加減、ギリギリになる前にブレーキを踏むことを
覚えたいものだ。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-動物, 歴史, 食べ物

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.