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歴史 食べ物

ちゃんこ鍋

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連日の寒さが続いている。
比較的温暖な播磨地方でさえ、この寒さなのだから、
北海道や東北地方、北陸地方などをはじめとする
日本海側の地域はどれほど寒いことだろう。
考えただけでも、ぞっとする。

こういう寒い日が続くと、
世間では鍋料理を望む声が大きくなってくる。
TVをつけてみれば、温かい鍋料理の特集。
雑誌を見れば、色々な鍋料理の特集。
スーパーのチラシにも、
大きく鍋料理の写真が掲載されている。

「おじや」の回でも触れたが、
鍋料理というのは、日本全国に星の数ほどある。
それらは各地方ごと、材料ごと、調理法ごとによって、
細かく分類されている。
この、細かい分類の仕方によって、
それこそ鍋料理はどこまでも細分化していくのである。

しかし世の中には、かなりファジーな鍋も存在している。
それが「ちゃんこ鍋」である。

ちゃんこ鍋というのは、
一般的に相撲部屋で作られる鍋料理のことをさしている。
もっと厳密にいえば、相撲部屋で作られる料理のことを
「ちゃんこ」と呼び、
鍋以外の料理、例えばカレーライスなどでも
「ちゃんこ」ということになる。
すなわち、相撲部屋で作られる鍋料理であれば、
それはすなわち「ちゃんこ鍋」であって、
そこには地方、材料、調理法による決まりというものは
全く存在していないのである。

では、この「ちゃんこ鍋」、
一体いつごろから食べられているのだろうか?

実は、ちゃんこ鍋の歴史は意外と浅く、
明治時代末期、出羽海部屋で力士の食事を
「鍋」メインにしたことがはじまりである。
当時、19代横綱常磐山を擁していた出羽海部屋には、
入門者が殺到し、その食事の準備が
大きな負担になっていた。
と、いうのも、このころの相撲部屋では、
力士1人1人に、膳で食事が配されていたのだが、
人数が増えて、膳の数が増えると
それに比例するように、
食事の準備にかかる時間も増えてしまったのだ。
そのため一計を案じ、大量に作るのに適していて、
配膳する必要のない「鍋料理」を、
食事のメインにすることにした。
「鍋」は、肉や野菜をふんだんに含んでおり、
栄養バランスに優れている他、
しっかりと全ての食材に火を通して食べるので、
衛生的な面でも、通常の食事より優れていた。
やがて、手間がかからず、経済的なこの方法を
他の部屋もマネするようになり、
相撲界に「ちゃんこ鍋」が広がっていったのである。

力士が食べている、という点。
さらにはその力士の体型が、太っているという点から、
「ちゃんこ鍋」=「太る」
と、いう風に思っている人も、いるのではないだろうか?
もちろんこれは誤解で、
ちゃんこ鍋が「太る料理」などということはない。
鍋の内容によって、カロリーや栄養バランスに
ある程度の変動はあるものの、
基本的に鍋料理はヘルシーな食事である。
肉、魚、野菜をバランスよく食べることができ、
消化にも良い鍋料理は、「健康食」といってもいいだろう。
我々一般人の食事と比べても、かなりヘルシーである。
そんなヘルシーな食事をとっているはずの力士が、
なぜ、ああも太っているのか?
その理由は、力士の生活習慣にある。
早朝から激しい稽古をして、エネルギーを使っている所へ、
ちゃんこ鍋をドカッと食べる。
食べる量は一般人の5~6人前である。
力士の食事は、1日2回だから、
彼らは1日で、一般人の10~12食分もの量を
食べていることになる。
身体がエネルギーを欲しているタイミングで、
食事をするのだから、その吸収率は高い。
さらに、彼らは食事の後は昼寝をする。
そうすることによって、摂取したエネルギーを
運動エネルギーにしてしまう事なく、
疲労の回復と、身体への脂肪の定着という方向へ
持って行くのである。
そういう意味では、一般人が過剰な脂肪分のとり過ぎや
糖分のとり過ぎなどで太るのとは違い、
健康的に太っている、といえるのかもしれない。

ちゃんこ鍋の「ちゃんこ」という部分の、
言葉の由来については、諸説がある。

もっともよく知られているものは、
「ちゃんこ」の「ちゃん」は中国のこと、
「こ」というのは、中国語で「鍋」のこと、
つまり、「ちゃんこ」というのは、
「中華鍋」をさしているという説である。
しかし、冷静に考えてみれば、これはおかしい。
この説が正しいのならば、「ちゃんこ鍋」というのは、
「中華鍋鍋」ということになってしまう。
さらにいえば、「ちゃんこ」が相撲部屋で、
「食事」の意味で使われている以上、
鍋のみに意味の限定された言葉が、
「ちゃんこ」本来の意味とは考えにくい。
はっきりと言い切ることは出来ないが、
この説は、「ちゃんこ鍋」という言葉が一般的になった後、
この言葉に引きずられるようにして、
こじつけられたものではないだろうか?

もうひとつの有名な説は、
「ちゃん」というのが、父ちゃん・おっちゃんなどの
「ちゃん」であるという説だ。
「こ」については、父と子、
つまり相撲部屋でいえば、親方と弟子が一緒に食べることから、
「ちゃんこ」となったという説である。
また、この説とは少しニュアンスが違うが、
「ちゃんこ」という言葉自体が、
「おっちゃん」を意味しており、
料理番のおじさんのことを「ちゃん」と呼んでいたものが、
やがて「ちゃんこ」に変じていったというものもある。
これと似た説として、
「ちゃんこ鍋」発祥の部屋である出羽海部屋の常盤山が、
料理番の老人のことを、親しみを込めて
「ちゃんこう」と呼んでいたという話もあり、
そこから「ちゃんこう鍋」→「ちゃんこ鍋」へと
変化したともいわれる。
もし、この説が正しいするならば、出羽海部屋は、
「ちゃんこ鍋」「ちゃんこ」両方の発祥の部屋となる。

いずれにしても、この「ちゃんこ」という言葉の中には、
「父親」「親父」「おっちゃん」などという意味が、
こめられている。
「ちゃんこ」と「おっちゃん」を関連づけている
説の多さからすると、
どうも語源としては、この辺りにあると考えるのが、
正しいのかもしれない。

かつて、一度だけ、
姫路で「ちゃんこ鍋」の店に行ったことがある。
当時の自分には、
「ちゃんこ鍋」=「相撲取りの鍋」という思い込みがあり、
でてきた「ちゃんこ鍋」が、
あまりにもごく普通の鍋だったので、
がっかりした思い出がある。
(味は美味しかったのだが……)
今、思い返してみるに、
本来的には「ちゃんこ鍋」というのは、
相撲部屋で供されるものだけを、さしているはずである。
それ以外の場所で出される「ちゃんこ鍋」は、
ようは、全く普通の「鍋」でしかない。
例外があるとすれば、かつて角界に所属していた人間が、
そこで覚えてきた「ちゃんこ鍋」を使って
商売している場合である。
(実際にそういう店は多いようだ)

そういう風に考えると、
かつて自分が行ったあの店の「ちゃんこ鍋」にも、
1人の力士の奮闘と挫折、
なんていうドラマが隠されていたのかもしれない。

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