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ハンガーストライキ

更新日:

人は、様々な理由から食事を制限する。

ある者は、ダイエットのため。
ある者は、健康維持のため。
またある者は、病気療養のため。

どれも、それぞれ切実な願いがあり、
それを果たすために、食欲という「本能」と戦うのである。
ダイエットは、美容と健康のため、
健康維持と病気療養は、己の身体のため、
人々は「餓え」という苦しみと戦いながら、
食欲という本能に歯向かうのである。

さて、人間が食事を制限するといっても、
基本的には、その量や内容を調整するだけである。
全く、何も食べず、何も飲まない、なんていうことはない。
もしあるとすれば、それは医療行為の一環で、
「明日の昼まで何も食べないでくださいね」
などといわれる場合のみである。
ダイエットにしても、病気療養にしても、
全く何も食べないのでは、
健康を害してしまう結果になる。
時に、強いダイエット願望を持つ女性などが、
絶食に近い方法をとることもあるが、
過度な絶食は間違いなく身体に悪い影響を与える。
たとえ食事を制限する場合でも、
取るべき栄養は、しっかりと摂取するのが
正しい食事制限といえる。

ところが、これらとは全く別の理由によって、
食事を制限する場合がある。
「ハンガーストライキ」を行なう場合である。

ちょっと前のことになるのだが、
安保法案反対の学生が、国会前で
無期限のハンガーストライキに突入した、
というニュースがあった。
よく、○○時間のハンストを行なう、などという、
ダイエットにもならないような、
時間を定めた、いい加減なハンガーストライキが横行する中、
無期限で、という決意は拍手を送りたいと思う。
(ただ、ハンストのためにカンパを、
 と、お願いしている所は、
 食事をとらないことに、一体何の費用がいるのか
 疑問ではあったが……)
直接、命に関わってくることのため、
是非とも完遂してほしいとは言えないが、
それなりにアピール効果はあると思うので、
しっかりと頑張って貰いたいと思う。

「ハンガーストライキ」とは、食事をとらないことによって、
自らの主張を訴える、ストライキの一種である。
インド独立の父、マハトマ・ガンジーが始めたとされる
無抵抗運動の1つでもある。
インド独立運動の他に、
北アイルランド独立運動の際にも
ハンガーストライキは行なわれており、
こちらでは、最終的にハンガーストライキを行なった活動家は
死亡している。
一方で、1992年に行なわれた青島幸男の
ハンガーストライキなどは、途中の体調不良により中断している。
たしかに食事を一切しない訳だから、
だんだんと衰弱し、体調を崩していくのは当然のことだが、
本来のハンガーストライキは、それも含んだものである。

日本の歴史をよく見てみれば、
延暦4年(785年)、藤原種継暗殺事件の疑いをかけられ、
淡路へ配流させられた早良親王が食を断ち、
途中の河内国で死亡している。
これは自分の無実を訴えるための絶食であり、
ハンガーストライキといっていいだろう。
この後、都では彼を罪に落とした桓武天皇の関係者の死が相次ぎ、
疫病の流行や、洪水などの災害が起こった。
人々はこれを「早良親王の祟り」であるとして恐れ、
後に彼は祟道天皇として追称され、
祟道神社に祀られることとなった。
ただ、この事件に関しては、
ハンガーストライキ自体が
大きな政治的効果を生み出した訳ではなく、
早良親王の死後に起こった怪異現象が、人々を恐れさせた。
武士階級のように、武力を持ち合わせていなかった
皇族・貴族たちの中には、このように食を断つことによって、
抗議の意志を示すこともあった。

さらに中国では、「三国志」で有名な司馬懿の妻・張春華が、
病に倒れた夫を見舞いにいった際、
門前払いされてしまい、それに怒った彼女は
息子等とともに断食し、抗議を行った。
これに仰天した司馬懿は、慌てて彼女に平謝りしたという。
「三国志」で、魏の家臣でありながら、皇帝の位を簒奪し
「晋」を建国した司馬懿は、大悪役として描かれることが多いが、
当時としては珍しく、1人も妾を持たなかった上、
妻には全く頭が上がらなかった。
意外に愛妻家だったようだ。
そんな司馬懿の素顔はさておき、
彼の妻が行なった抗議の断食は、確認出来る中でもっとも古い
ハンガーストライキの記録となっている。
もちろん、抗議の意味を持つ断食というのは、
これ以前にも行なわれていた可能性は高いが、
歴史上、最古のハンガーストライキが
夫婦喧嘩の産物であるということには、苦笑するしかない。

さて、話を最初の安保法案反対のハンガーストライキに戻そう。
彼らが死の覚悟を持って、
ハンガーストライキを決行しているのは、
すでに報道されているが、
これは果たして実を結ぶであろうか?

たしかに、暴力をともなわないこの抵抗は、
かつて民主党議員が「実力」を持って
意見を押し通そうとしたことに比べると、
品位のある行動といっていいだろう。
ただ、この安保法案に関していえば、
賛成派も反対派も、「日本人の命を守る」ということを
掲げて言い争っている。
どちらが正しい、ということをここで判断するつもりは無いが、
「日本人の命」がかかっている以上、
賛成派も、安易な妥協はしないと思われる。
恐らく、彼らが死ぬ所まで突っ張ったとしても、
これが翻されることは無いだろう。
彼らが衰弱してくれば、説得工作を行なうことくらいは
あるかも知れないが、彼ら数人の命よりは、
法案を廃止することによって失われるであろう、
不特定多数の命の方を重要視するのではないか。
(あるいは、警察等を使って強制的な入院措置をとるか)

では、ハンガーストライキによって、
安保法案を覆すことは出来ないか?
可能性は、ないでもない。
単純な方法である。
数を増やせばいいのだ。
4~5人なんていう人数ではなく、
安保法案に反対している人間、数十万人なり数百万人なりが、
一斉に命を捨てる覚悟でハンガーストライキを始めれば、
撤回させることは無理にしても、
一時中断くらいには持ち込める筈だ。
数百万人が一斉に飢えて死ねば、
政治的にも、世論的にも、
安保法案は撤廃ということになる筈である。
それどころか、この先100年間は「これ」を理由に
憲法9条は絶対化され、
その改憲は絶対のタブーになるだろう。
安保法案反対が成るかどうか、
憲法9条を現状のまま維持出来るかどうかは、
ハンガーストライキをしている数人のみならず、
反対を訴えている人々全てが、
ここで死ねるかどうかにかかっている。

だが、「日本人の命を守る」主張を押し通すために、
命を落とすというのも、皮肉かつ矛盾した話である。

追記

……と、いうようなことを何日か前に書いておいたのだが、
この記事を公開する前に、
件の大学生たちのハンストは終わってしまった。
1日1食は食べて、飲み物はフリーだったようなので、
ハンガーストライキというよりは、
ただの食事制限に近かったようである。

完全にこっちの都合ではあるが、
せめて記事の公開までは頑張ってほしかった……。

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