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しゃぶしゃぶ

投稿日:

By: temaki

先日、太子町内を自転車で走っていると、
かつて洋菓子屋があった場所に、新たな建物が建築中であった。
建物の外観はそこそこ出来上がっており、
次に出来る建物も、飲食店らしい。
壁にはすでに店の名前や、オススメのコースとその値段が書き込まれていた。
それを見る限りでは、新しい店は「しゃぶしゃぶ」の店らしい。

その店の名前をインターネットで検索してみると、
どうやら全国的に展開しているチェーン店で、
「しゃぶしゃぶブッフェ」を謳っている所から見ても、
どうやら大衆向けのリーズナブルなお店の様だ。

かつては「しゃぶしゃぶ」といえば、わりと高級なイメージであった。
真ん中の飛び出たドーナッツ状の鍋の中で、湯が沸き立っており、
その中へ、これでもか、というくらい薄くスライスされた肉を入れて、
しゃぶしゃぶと揺すってから食べるというのが、そのイメージであった。
普通の家庭では、どのくらいの頻度で食べているものか知らないが、
少なくとも我が家においては、「しゃぶしゃぶ」というのは
全く食卓に上ることがなかったように記憶している。
(その昔、一度だけ我が家で「しゃぶしゃぶ」をやった記憶があるのだが、
 それ以降は全く、これを食べることはなかった。
 恐らく、余り受けが良くなかったのであろう)

そんな「しゃぶしゃぶ」と縁の無い我が家なのだが、
どういうわけか、「しゃぶしゃぶ」用の鍋が3つもあった。
かつて、親戚の結婚式に両親と一緒に参加した際、
両親と自分で、それぞれに引き出物を貰うことになったのだが、
その引き出物が「しゃぶしゃぶ」鍋だったのである。
当時はまだ、カタログから好きな引き出物を選ぶ、なんていうスタイルが
一般的ではなかったため、全く使いもしない「しゃぶしゃぶ」鍋が
3つも我が家にやって来ることになったわけである。
かつて結婚式の引き出物として配られることのあった
「新婚夫婦の写真入りの皿」などよりはマシだったかも知れないが、
全く使う予定のない「しゃぶしゃぶ」鍋3つというのも、
正直言って、なかなか後の始末に困るものである。
結局の所、バザーに出したり、人にあげたりして
「しゃぶしゃぶ」鍋の始末はつけたのだが、
さすがに1つくらい、実物を手元に置いておかないと
マズいだろうということで、今でも1つ、物置の中に
箱に入ったままの「しゃぶしゃぶ」鍋が眠ったままになっている。
20年ほど寝かせているので、
ワインならヴィンテージものということになり、
その価値が跳ね上がるのだろうが、
残念ながらものが「しゃぶしゃぶ」鍋では、
そういうこともないようだ。

「しゃぶしゃぶ」は、ごく薄く切った肉を、
鍋の中で煮え立たせたダシ汁の中で泳がせて加熱し、
タレにつけて食べる料理である。
一応、分類上は鍋料理の一種ということになっているのだが、
他の鍋の様に、具材を全て鍋の中に放り込んで炊き上げることはないため、
他の鍋料理とは、ちょっと趣が異なっている。
肉、と一言で片付けてしまったが、「しゃぶしゃぶ」の肉として
もっとも一般的(というより、ルーツ的に正しい)のは、牛肉である。
ただ、現在では牛肉の他にも豚肉や鶏肉、さらにはフグ、タコ、ブリ、タイ、
カニなどの魚介類も用いられるようになったため、
ずいぶんとバラエティにとんだ「しゃぶしゃぶ」が食べられている。
基本的に鍋の中でしっかりと火を通す他の鍋物に比べて、
ダシ汁の中を泳がせるだけの「しゃぶしゃぶ」は火の通りが甘いので、
使う食材は新鮮なものを用いるのが大前提である。
一方で、同様の手順で肉を加熱した後にこれを冷やし、
野菜などと盛りつけて、タレをかけて食べるものを「冷しゃぶ」と呼ぶ。

「しゃぶしゃぶ」の歴史を遡っていくと、中国の元の時代に行き当たる。
一説によると、元の3代皇帝フビライ・ハンの時代に始まった
「シュワンヤンロウ」という火鍋料理が、
「しゃぶしゃぶ」の元になっているという。
その当時の元では戦が続いており、兵士達は落ち着いて食事をする時間もなく、
戦の間のわずかな時間で食事を作り、これを食べねばならなかった。
そのため、羊肉を薄く切り、これを箸で熱湯の中にくぐらせて火を通し
食べる方法が考え出された。
後に、食べる際に調味料につけるようになり、
「シュワンヤンロウ」と名付けられたようだ。
「シュワン」というのは「すすぐ、ザッと洗う」という意味、
「ヤンロウ」というのは「羊肉」という意味なので、
直訳すれば「羊肉のすすぎ」、意訳すれば
「羊肉のしゃぶしゃぶ」としてもいいだろう。

これを日本に持ち込んだのが、吉田璋也という人物である。
彼は、大正時代に始まった「民芸運動」の活動家で、
戦後、鳥取に「鳥取民藝館」を設立させる人物なのだが、
彼は第2次世界大戦中は軍医として北京に赴いていた。
そこで彼が出会ったのが、先に書いた「シュワンヤンロウ」である。
戦後、京都に住んでいた彼は、祇園にある料理店「十二段家」の主人に
「シュワンヤンロウ」の調理法を教え、メニュー開発に協力した。
当時、日本で手に入りにくかった羊肉を牛肉で代用し、
味付けには昆布ダシを加え、タレも和風にアレンジした。
そうして完成したのが「牛肉の水炊き」である。
戦後間もない、昭和21年のことである。

ここから6年後、この「牛肉の水炊き」をメニューに取り入れた
大阪の「スエヒロ」が、これよりインパクトのある名前をということで、
『食べ方が、たらいで洗濯物をすすぐ様に似ている』との理由から、
「しゃぶしゃぶ」という名前をつけた。
つまり、「しゃぶしゃぶ」という名前が世に出たのは、
昭和27年ということになる。

先にルーツ的に「しゃぶしゃぶ」には牛肉を用いるのが正しい、と書いたが、
これはあくまでも「しゃぶしゃぶ」という名前になった際の話で、
料理法そのもののルーツ、ということになるのであれば、
これはやはり羊肉を用いるのが正しいということになる。
さらに、「シュワンヤンロウ」の誕生が元の時代であったと考えれば、
材料に羊肉を用いている所からも、中国由来というよりも
モンゴル由来の料理とした方が、ルーツ的には正確なようだ。

最初に述べた、太子町に新しくできる「しゃぶしゃぶ」のチェーンは、
豚肉と牛肉がメインのらしく、「十二段家」「スエヒロ」からの
流れを汲む、正統(?)的な和風「しゃぶしゃぶ」の店らしい。
かなりリーズナブルな様なので、機会があれば
こっそり食べに行ってみてもいいかなと思っている。

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