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カズノコ

更新日:

先日、スーパーの鮮魚コーナーの前を通りかかると
大々的に「カズノコ」が売り出されていた。

箱入りのものや、お馴染みの食品トレーに入ったもの、
キチンとした丸のままの形を保っているもの、
一口大の大きさで、バラバラになっているもの、
ほとんど味付けされていない淡黄色のもの、
調味液につけ込まれていたのであろう、赤味を帯びたものなど、
様々な種類の「カズノコ」が、売り場の一角を占めていた。

ちょうどお正月が近くなってくると、
どこのスーパーでも、このように「カズノコ」を売り始める。
もちろん、冷凍技術の進んだ現代では、
この季節ほど大々的ではないにせよ、売り場の片隅に「カズノコ」は
常備してあるものである。
さらに松前漬けなどの具材や、ワサビ漬けの具材のひとつとしても、
形の崩れた「カズノコ」が使われているため、
我々は年中、どこかで「カズノコ」を見ることが出来る。
この時期、特にその数が増えて来るのは、
もちろん、おせち料理の中の一品としての需要があるからだ。
我が家でも、その昔は母親がおせち料理を作っていたが、
その中にも「カズノコ」は入っており、
我が家のおせちの中では、まさに「カズノコ」がトップスターであった。
(我が家のおせちは、一般的な重箱に詰められているものではなく、
 買って来た黒豆や田作り、焼き豚やカマボコなどを
 大皿の上に適当に並べただけのものであり、
 当日の朝に、適当に作るものであった)
ん?「カズノコ」がトップスター?
おせちといえば、他にも色々スターがいるだろう?と、
思われる人も多いだろうが、我が家のおせちはどういうわけか、
例年、「カズノコ」のみをトップスターに据え、
その周りを、安価な脇役で固めるという、
アンチ・オールスター的な配役であった。
うちの父親も母親も、好き嫌いの激しい人間だったので、
その影響があったのかも知れない。
いずれにしても「カズノコ」は、我が家のおせちの中にあって、
他者の追随を許さぬトップスターであり続けた。

「カズノコ」は、ニシンの魚卵である。
漢字で書くと「数の子」となり、一文字では「鯑」と書く。
ただ「鯑」の方は、日本で作り出された漢字であり、
本来的には存在しない漢字である。
読みも訓読みで「かずのこ」と呼ぶだけで、音読みは存在していない。
ニシンの卵であるのなら、「ニシンコ」などと呼ばれていそうなものだが、
どういうわけか、表記の上では「数の子」となっている。
これではまるで、数学者の子供みたいである。
「カズノコ」という言葉の語源を辿っていくと、
ニシンと言う魚の古名に行き当たる。
ニシンは、かつて「カドイワシ」と呼ばれており、
「カズノコ」は、この子供であったため、「カドの子」と呼ばれた。
そう、「カドノコ」と「カズノコ」。
やがて「カドノコ」はだんだんと変化していき、
最終的に「カズノコ」で定着した、というワケなのである。
この「カドノコ」→「カズノコ」の変化の理由として、
こんな説があげられることもある。

江戸時代、お正月やお祝い事の席で食べる縁起物として
庶民階級にまで定着していた「カドノコ」であったが、
これをめでたい席で食べるには、何かそれなりの理由がいる。
そこで出てきたのが、日本人お得意の語呂合わせである。
「カドノコ」を1文字いじり、「カズノコ」とすることで
「数の子」という風に当て字が出来るようにした。
子沢山も1つの幸せと考えられていた時代、
この「数の子」という名前は、当時の人々に大いに受け入れられた。
実際に「カズノコ」は、小さい卵が膨大な数、固まっているため、
見た目的にも、この名前はすんなり受け入れられたのだろう。
何よりも幸いだったのは、当時、ニシンは
畑の肥料に使われるほど大量に水揚げされており、
当然、その卵である「カズノコ」も大量に取れたため、
価格も安価で、庶民階級にまで広まっていたことだ。
仮に「カズノコ」が現在の様な高級品であれば、
一部の富裕階級のみの食文化に留まり、
新しい名前は、定着しなかったかも知れない。
こちらのエピソードは、現在、おせちの中で
「カズノコ」の縁起がいい理由として定着しているため、
なんとはなしに、そんなものかな?と、思ってしまう話である。

さて、この「カズノコ」、ニシン自体の漁獲量が落ち込んでいる現在、
国内に流通しているものの大部分が、外国からの輸入品である。
ニシンという魚自体は、昔から世界各地で漁獲され、
食料などとして大いに活用されてきたのだが、
その卵である「カズノコ」については、
日本以外の国は、ほとんど見向きもしない状態であった。
そのため、仮に卵がとれたとしても、
それらは廃棄されていたのだが、そこにニシンの漁獲が激減した
日本からの注文が入った。
どうやら日本では、このニシンの卵を食べるらしい。
しかも日本では、近年、ニシンの漁獲量が激減して、
ニシンの卵は高級品として扱われているらしい。
そういうことになれば、これは世界中、こぞってニシンの卵をとって、
日本へ売りつけようとなるのは、当然の流れである。
自分たちの所では、とっても捨てるだけだったものが
日本へ持っていくだけで、それなりのカネになる。
カナダ、アラスカ、スコットランド、ロシアなどでは
水揚げされるニシンから「カズノコ」が作られ、
これらが日本へと輸出されている。

日本のスーパーで販売されている「カズノコ」を見ると、
大きく分けて、2種類に大別することが出来る。
「塩蔵カズノコ」と「味付けカズノコ」である。
冒頭、自分がスーパーの鮮魚コーナーで見た「カズノコ」も、
全く自然のままの色を残したものと、赤っぽい色のついたものがあった。
この自然なままのものが「塩蔵カズノコ」、
赤っぽい色のついたものが「味付けカズノコ」である。
このうち「味付けカズノコ」の方は、購入後すぐに食べることが出来るが、
「塩蔵カズノコ」の方は、塩抜きをしなければならない。
我が家では、「塩蔵カズノコ」を塩抜きし、
皮などをきれいに除去した上で、改めて自家製の調味液に漬け込んでいた。
その調味液に醤油が使われていたせいか、
我が家の「カズノコ」は淡黄色ではなく、どす黒い黄色をしていた。
一般的には、「味付けカズノコ」よりは「塩蔵カズノコ」の方が
高級品として取り扱われているのだが、
実は「カズノコ」にはもう1つ、
「干しカズノコ」というのが存在している。
これはその名の通り、「カズノコ」を天日で乾燥させて
保存性を高めたものだ。
こちらは水分が無くなって、全体的に色が浅黒くなっている。
色でいえば、我が家のおせちに入っていた「カズノコ」に近い。
この「干しカズノコ」は、「味付け」「塩蔵」を上回る
高級品として取り扱われ、木箱などに収められて販売されている。
もちろん、そのままでは食べられず、食べる前には水につけて、
「戻し」の作業をしなければならない。
天日で乾燥させた「カズノコ」を水で戻すだけだから、
「カズノコ」には、全く余計な味がつくことがない。
この点が、「干しカズノコ」が高く評価されている点らしく、
食通で知られた北大路魯山人なども、
「「カズノコ」は塩漬けや生よりも、一旦干したものを
 水で戻したものが美味い、
 「カズノコ」に他の味を染み込ませてはならない」
と評している。
生よりも美味いとなっているのは、一度乾燥させることにより、
旨味がグッと凝縮されるということだろうか?
ただ、魯山人は他に
「「カズノコ」は音を食うもの」
などという発言をしており、ひょっとしたら味は二の次で、
その食感の方に、より大きな価値を見出していたのかも知れない。

我が家では、「カズノコ」は文句無しにおせちの主役だったため、
どうも「カズノコ」といえば、お正月に食べるものという
イメージが定着してしまい、
それ以外の時期に買おうという気にならない。
ひさしぶりに買って、おせちに入れてみるかな?という気も
起こらないではないが、一人暮らしの男のおせちに
「カズノコ」が入っていても、あまりめでたい気にはならない。

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