2017年現在、我がたつの市には様々な外食チェーンが
進出してきている。
牛丼屋は、吉野家、すき家、松屋と大手御三家が揃っているし、
ハンバーガーショップも、マクドナルド、モスバーガーと
大手が揃っている。
その他にも、大手のファミレスチェーンも出店しているし、
ラーメンチェーンもいくつか、出店している。
まいどおおきに食堂のような大衆食堂もあれば、
餃子の王将もあるし、回転寿しもある。
今、たつの市で外食をしようと思えば、
その選択肢は、それなりに多いといってもいいだろう。
ところが、これが2〜30年も前、ということになると、
選択肢はかなり限られていた。
先に挙げたような、大手外食チェーンはほとんど存在しておらず、
市内(当時のことだから旧龍野市街のこと)で外食しようと思えば、
赤とんぼ荘のような、国民宿舎のレストランに行くか、
ダイエーなどのフードコート(というよりは食堂といった方がいいが)
に行くか、くらいしかなく、それ以外の食事所といえば、
どこも小さな個人店ばかりであった。
だから、その当時、もうちょっと色々選択肢が欲しいなと思えば、
車をとばして太子町や姫路市まで出て行かなければならなかった。
自分が成人した、20年ちょっと前でさえ
そんな感じだったのだから、
たつの市は極めて外食には不便な場所であった。
そんな当時、腹を減らした自分が駆け込んでいたのが、
「たいこ弁当」だった。
「たいこ弁当」という名前の通り、弁当を販売している店なのだが、
ひとたび店の中に入ってみると、そこには並べられた弁当の他に、
店の中で調理も行なっており、うどんやそば、ラーメンなどの麺類や
丼もの、カレーや定食などを食べることが出来た。
さらに、大きなテーブルの上には、1ついくらの揚げ物や、
グラム単位で量り売りしているお惣菜がたくさん並べられており、
これらをオカズに、白飯や丼ものを食べることも出来る。
調理している所を、カウンター越しに見ることが出来たが、
中でプロのコックが調理している、というようなことはなく、
どこかその辺の家から連れて来られたようなオバちゃんたちが、
忙しく立ち働き、注文をこなしていた。
そう、分かりやすくイメージしてもらうには、
高校や大学の学食を思い浮かべてもらえれば良い。
「たいこ弁当」というのは、まさしくアレをそのまま
学校の外に持ち出したような店であった。
それも男女共学校の学食ではなく、男子校のそれである。
すなわちメニューは、安い、多い、濃いの3拍子が揃っていた。
高校・大学と学食のお世話になっていた人間にとっては、
なんとも懐かしさを感じさせる店であったが、
さすがに値段の方は学食よりは、少々、高かった。
とはいえ、他の食べ物屋と比べれば、値段はかなり安い。
客層も、男性客の割合が圧倒的で、
中で女性客が食事をしている所は、あまり見かけなかった。
ほとんどの店が、幹線道路沿いにあり、
それぞれがかなり広い専用駐車場を持っていたので、
客の中にはトラックドライバーの姿が多かった。
自分たちは彼らと並んで、オバちゃんたちの作る
安くて、多くて、濃い味の料理を食べていたのである。
その「たいこ弁当」が潰れてしまった。
神戸新聞によると、
「兵庫県姫路市など播磨地域で19店舗を展開する
直営弁当店『たいこ弁当』で知られる食品会社の本陣(加西市)が
31日、事業を停止し、自己破産の準備に入ったことが分かった。
帝国バンク神戸支店によると、負債総額は21億円。
本陣は1972年、仕出し料理店として創業。
近年はコンビニエンスストアとの競合が激しく、
法事向け需要も減少していた。
個人客への仕出し、スーパーへの弁当供給、
企業への弁当宅配から順次撤退し、『たいこ弁当』に特化。
立て直しを図ったが、16年9月期で4年連続で赤字となり、
事業継続が不可能と判断したという」
とある。
親会社である「本陣」から含めると、
40年近く、播磨地域で弁当を販売してきたわけだ。
そういう意味では、年齢の方も自分とそれほど変わらない。
同じような地域で、同じように弁当を販売していた「サラヤ」が、
コンビニエンスストアの台頭によって、早々に姿を消した後も、
地域の安食堂として営業を続けてきていたが、
ついに、その「たいこ弁当」の息の根も、停まってしまった。
先にも書いたように、たつの市などの場合、
長らく、全国区の飲食チェーンが入って来なかったため、
「たいこ弁当」のような、地元密着型のチェーン店でも
充分に利益を上げることが出来ていたのだろうが、
そこに、様々な大手飲食チェーンが入ってくることにより、
顧客がそちらへ流れてしまうようになった。
特に大手の牛丼チェーンなどは、
その低価格ぶりを売りにしていたので、
そういう意味でも、「たいこ弁当」の大きな優位性が
無くなってしまった。
2015年には、企業向け給食や仕出し弁当などの事業から
撤退している所から見ても、
グループ全体がかなり厳しい状況だったのだろう。
そんな中、「たいこ弁当」に特化して
立て直しを図っているが、恐らくそれも、
厳しい経営状況の中での、最後のあがきだったのかも知れない。
2006年の段階では39店舗あった「たいこ弁当」も、
10年後の2016年には24店舗と、
3分の1以上減ってしまっており、
(龍野店も、このころには閉店してしまっていた)
それから全店閉店までの間に、さらに5店舗が閉鎖となった。
かつてはたつの市域(旧龍野市、新宮町、御津町、揖保川町)の
中だけでも3店舗もあったのだが、
この2017年1月末の段階で、
残っているのは揖保川店だけであった。
今回の「たいこ弁当」の閉店は、全く突然のことで、
事前に閉店情報というのが出回らなかった。
そのため、神戸新聞の「たいこ弁当 破産申告」のニュースで、
はじめて閉店を知ることになったのだが、
やはり改めて閉店ということになると、
最後にもう一度くらい、食べに行っても良かったかな?
という気になってしまった。
あのどす黒いダシの中に浮かぶ、おでんの数々。
ひたすら茶色いお惣菜の数々。
その辺のオバちゃんの作った感のある、様々な料理。
間違っても、最高の味と太鼓判の押せる味ではないのだが、
やはり他では味わえない、「たいこ弁当」ならではの味だった。
さようなら、「たいこ弁当」。