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山の日

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今年から、国民の祝日が1日増えた。

8月11日が「山の日」と定められ、祝日となったのである。
当日、ニュース番組を見ていると、
どこの局でもこの「山の日」について、トップで取り上げていた。
日本各地の山へと赴き、
そこで登山客へのインタビューを行なっていたのだが、
登山客の反応を見ていても、
「山の日」が出来た、ということを喜んでいる風ではなく、
単純に祝日が増えたことを喜んでいるようであった。

しかし、どうして「山の日」を作ろう、
という様なことになったのか?

今回の「山の日」を作ろうということが叫ばれ始めたのは、
そう古いことではない。
2010年4月に日本山岳会が中心となって、
「山の日」制定の声が挙がり、その活動が開始された。
もっとも活動といっても地味なものである。
登山愛好家たちが何万人と大挙して国会議事堂前に詰めかけ、
「山の日を作れ!」とシュプレヒコールをあげる、
……なんていうこともなく、小さなリーフレットを作り、
それを配布していっただけである。
実にささやかなものだ。
リーフレットには、中学生や高校生、
家族連れなどに読んでもらおうと、
クイズのページを作るなどの工夫がほどこされていた。
これが地味に好評を博し、リーフレットは第4弾まで作製された。
この地道な草の根運動が実を結んだのか、
3年後の2013年、超党派の国会議員による
「山の日」制定議員連盟が設立され、
「山の日」制定が、グッと現実味を帯びてくる。
この「山の日」制定議員連盟には、
衆参合わせて100人以上の国会議員が参加し、
2014年には「山の日」が制定されることが決定された。
これだけ見ていると、短期間の間に
かなりの数の国会議員の賛同を得ているのが分かる。
国会議員の中に「山好き」が多かったのか、
あるいは日本山岳会等の根回しが上手かったのか。
ひょっとすると、祝日が増えるのに反対すると、
国民に恨まれそう……、と考えたのかも知れない。
兎にも角にも2014年に、
8月11日を「山の日」とすることが決まったのだが、
これが実際に施行されたのが、2年後の今年、2016年だ。
2年間のタイムラグがある。
まあ、2014年に決まったのだから、
カレンダーなどの問題から、当年中の施行は難しかったにしても、
2015年に「山の日」が施行されていても、
おかしくはなかったはずだ。
そこにさらに1年の期間を設けたのは、
「山の日」をいうのを、しっかりと周知させるためだったらしい。

だが、実は今回よりもはるか昔、
「山の日」制定が叫ばれたことがあった。
今から半世紀以上前のことである。
1956年、日本隊がマナスルの初登頂に成功した。
当時、世界中の国々が8000m峰の初登頂を競っている中での、
マナスル初登頂は、まさに国が沸き返るほどの快挙であり、
その影響で、日本には一大登山ブームが巻き起こった。
現在、高齢の登山者が多くなっているが、
そのうちの何割かは、このブーム時に登山を始めたクチである。
この空前の登山ブームの中、
「山の日」制定を、という声が出て来るのは、
ごく自然なことであった。
1961年に行なわれた「夏の立山大集会」で、
「山の日」制定が提唱され、満場一致で決議されたらしいが、
どういうわけか、その後「山の日」については立ち消えになっている。
当時の山岳会には、それを実現するだけの
実行力・政治力がなかったのか、
あるいは、「山の日」制定決議自体が、
その場のノリだけで行なわれた、
中身のないものだったのかは分からない。
自分の勘では、恐らく後者だったのではないかと思うのだが、
いずれにしても「山の日」制定の話はうやむやとなり、
その実現には、その後、半世紀もの時間を必要とした。
ただ、現在から50年以上も前に、
「山の日」を、という声があったのもまた、事実なのである。

さて、「山の日」という祝日を作る、
ということになったのはいいのだが、
次に問題になったのは、
何月何日を「山の日」にするか?ということである。
実は、祝日ではないものの、日本各地の自治体では
個別に「山の日」を制定している所があるのだが、
(例を挙げれば、山梨県・岐阜県では8月8日が「山の日」、
 香川県・愛媛県・高知県では11月11日が「山の日」と
 決められていた)
それらはほとんどがバラバラに設定されていて、
全くまとまりがない。
8月8日と、11月11日が多いのだが、
これは漢字の「八」が山のように見えるという理由と、
「11」が、木が立ち並んでいるように見えるという理由らしい。
「山の日」の候補としてあげられたのは、
6月の上旬、海の日の翌日(7月の第3火曜日)、
お盆前、日曜日を祝日にする、などだったのだが、
この中から、お盆前が選ばれた。
お盆の連休とくっつけることにより、
より大型の連休が取れるようになり、
それだけ経済効果が大きい、と判断されたのだろう。
しかし、ここで「?」と思った人も多いはずだ。
お盆と合わせて「山の日」を決めるのなら、
それは「8月11日」ではなく、「8月12日」になるはずだ。
「8月11日」では、間に「8月12日」を挟んでいるため、
お盆の連休と合わせて、大型連休にすることが難しい。
どうして「8月12日」を「山の日」にしなかったのか?

実は「8月12日」という日には、大きな意味がある。
というのも、1985年の8月12日、
東京発、大阪行きのボーイング747SR-100が、
群馬県の御巣鷹山に墜落し、
乗員乗客合わせて520名が死亡する事故が起きた。
世に言う「全日空123便墜落事故」である。
これは日本国内で起きた航空機事故としては、最大のものであり、
単独機の墜落事故としては、世界でも最大の死者数を出した。
(8月12日がお盆前であり、帰省ラッシュが始まっていたことも、
 死者数が増えた一因であったといわれている)
現在でも、8月12日になれば「あの事故から〜年」と、
ニュース番組でも取り上げられ、
その際、犠牲者たちの家族が、
御巣鷹山に慰霊登山をする様子が流されている。
そのため「8月12日」を「山の日」に制定した場合、
この「全日空123便墜落事故」とピッタリと重なってしまい、
「山の日」が「御巣鷹山の日」になってしまう、という意見が出た。
この意見を取り入れ、8月12日から1日ずらし、
「8月11日」を「山の日」とすることになったのである。
仮に「全日空123便墜落事故」が起こっていなかったら、
「山の日」は、「8月12日」に決まっていただろう。

以上の様な理由があり、
「8月11日」が「山の日」に決まったわけだが、
その結果が、偶然とはいえ山の形をした「八」月と、
木が立ち並んでいる形の「11」日になったというのは、
なんとも面白い話である。

さて、普段、山に行くことの多い、山好きな自分なのだが、
今年から始まった「山の日」には、山に行かなかった。
なんのことはない。
8月の中旬である11日には、連日35度を超える様な猛暑で、
すっかり身体が弱り切っており、
とても炎天下の山を登りに行く気には、ならなかったのである。
もちろん、2000m級以上の高山に登るのであれば、
話は変わって来るのだが、西日本にはそんなレベルの山は、全く無い。

できれば、もうちょっと過ごしやすい、春か秋辺りに
「山の日」を作ってほしかったなーと思うのだが、
こればっかりは、もうどう騒いでも後の祭りである。

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