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ジャンボタニシ

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図書館に行くため、自転車で走っていると、
水田のコンクリート壁に、ピンク色の繭の様なものが
張り付いていた。
わりと強烈なピンク色で、どことなく蛍光ピンクの様にも見える。

最初は「蛾か何かの繭かな?」と思っていたのだが、
そのピンクの繭(?)を見つけて以降、
走りながら水田を見ていると、
時々そのピンク色の繭(?)が目につくようになった。
道路に面していて、コンクリートで固めてある場所に多く、
イネについているものもある。
キツいピンク色をしたそれは、水田の中ではかなり目立つ。
面白いことに、このピンク色の繭(?)が非常に多い水田と、
全くいない水田がある。

気になった自分は、家に帰ってからインターネットで
このピンク色の繭(?)について調べてみた。
すると、意外なことが分かった。
ずっと繭だと思っていたあのピンク色の物体は、
貝の卵だというのである。
え?貝?貝って水の中に卵を産むんじゃないの?
思わず、そう突っ込んでしまったが、
モニタに表示されている「それ」は、
間違いなく自分が水田で見たものである。
水田のコンクリート壁や、イネの幹など、
水に濡れない乾燥した場所に、
そのピンク色の物体はへばりついていた。
雨などが降れば別だが、そうでもない限り
水に濡れることはなさそうである。
水棲生物である「貝」の卵が、
こんな乾いた場所で生きていけるのだろうか?

この、水田のコンクリート壁やイネの幹に
ピンク色の卵を産みつける貝を「スクミリンゴ貝」という。
全く初めて耳にする名前である。
ただ、インターネットの画像を見る限りでは、
この「スクミリンゴ貝」は、ごく普通の巻貝のようである。
同じ淡水の貝である「タニシ」に、とてもよく似た型状をしている。
それもそのはずで、この「スクミリンゴ貝」、
別名を「ジャンボタニシ」という。
ああ、じゃあ、これは「タニシ」の仲間なんだなと、思ってしまうが、
「タニシ」はタニシ科、「ジャンボタニシ」はリンゴガイ科、と
この2つは全く別種の貝である。
「ジャンボ」の名の通り、殻高50㎜〜80㎜にもなる。
「タニシ」が、殻高50㎜以下のサイズのものが
ほとんどなのを考えると、「ジャンボタニシ」の大きさが伺える。
この「ジャンボタニシ」は、元々日本にいた在来種ではなく、
1981年に食用として持ち込まれた貝であり、
その原産地は南米・ラプラタ川流域である。
「食用」ということで、一時期は500カ所もの養殖場があったが、
しかし思ったように需要が伸びず、採算が取れなかったために
廃棄されてしまった。
現在ではとても考えられない様な、ずさんな処理方法だ。
このとき廃棄された「ジャンボタニシ」が野生化し、
全国へと広まっていった。
世界の侵略外来種ワースト100のうちの1種類になっている。

自分は今回、水田のコンクリート壁に産みつけられた
「ジャンボタニシ」の卵を見つけたわけだが、
実はこの点、「ジャンボタニシ」と「タニシ」の生態は、
大きく食い違っている。
というのも、「タニシ」は卵胎生の貝であり、
卵を何かに産みつけたりせず、自らの胎内で卵を孵化させ、
稚貝を産むのである。
つまり、人間から見ている分には「タニシ」は「卵」を産まず、
「子」を産む、ということになる。

この水田のコンクリート壁に産みつけられた「卵」を見つけてから、
一度、これを手に取って、観察してみようとした。
コンクリート壁にへばりついている卵を
剥がしてみようとしたのだが、その卵は想像以上に硬く、
いくら力を入れてみても、剥がれそうな様子がない。
さらに強く「卵」を掴み、力任せに引っ張ってみると、
グシャッという音がして、「卵」は粉々に壊れてしまった。
「卵」とはいっても、乾燥や外敵から身を守るため、
それなりの強度を持っているようである。
後になって調べてみた所では、
この卵の中身は神経毒(!)で満たされており、
かなりの苦みをもっているという。
やたらと目立つ場所に、目立つ色で産みつけられた「卵」は、
この毒と味によって、身を守っているのである。
(実際、「卵」を剥がそうとして潰してしまった際、
 手に「卵」の成分が付着してしまった。
 さすがにこれを口にしようとは思わなかったが、
 一応、臭いだけは嗅いでみた。
 特に強烈な臭いなどはなく、すぐに水で洗ったので
 かぶれたりする様なことはなかったのだが、
 手袋などをつけていない場合、
 直接手で触るのは止めた方がいいだろう)
硬く、乾燥にも強く、オマケに食べてもマズくて、
毒まで持っているという「ジャンボタニシ」の「卵」だが、
実は、意外な弱点を持っている。
貝の「卵」のくせに、どういうワケか水に弱く、
何らかの理由により水中に落下してしまうと、
孵化することが出来ずに死んでしまう。
かなりの強さでへばりついているのは、
これを防ぐためであるらしい。

さて、このように硬い殻と、毒に守られた「ジャンボタニシ」だが、
2週間ほど(夏期)で孵化して、稚貝となり、
さらに2〜3ヶ月ほどで成体となる。
「タニシ」に比べて身体も大きく、
侵略外来種ワースト100にも選ばれていることから、
かなり図太く、生命力の強い生物の様な印象があるのだが、
実は産まれてきた「ジャンボタニシ」のうち、
1年を越えて生きられるものは、ほとんどいない。
というのも、「ジャンボタニシ」は寒さに弱いため、
日本の冬を越すことが出来ず、死んでしまうのである。
上手く土の中に潜り込むことが出来れば、無事に越冬できるのだが、
いざ、土に潜ろうとすると、
その大きな身体がネックになってしまう。
そのため、無事に越冬できるのは、
10㎜〜30㎜程度のサイズの個体ばかりで、
これら冬を越した小さな個体が、翌年、卵を産み、
さらにその中の小さな個体が冬を越し、卵を産む。
……。
普通、自然界では強いものが残っていくものであるが、
「ジャンボタニシ」の場合、その逆が起こっているわけである。

この「ジャンボタニシ」、イネの幼苗を食べてしまうので、
一般的には「害獣」と見なされている。
水田の植えつけ初期に、ぽっかりと一部分、
幼苗が無くなってしまっているような所を目にすることがあるが、
これは「ジャンボタニシ」によって、食害を受けた結果である。
ただ、苗がある程度大きく生長すると、
「ジャンボタニシ」もこれを食べることが出来なくなるため、
食害は一段落するようである。
そうなれば「ジャンボタニシ」は、
水田中に生えてきた雑草を食べることになるので、
この性質を利用して、水田の除草をする農家もいる。

もともと「食用」として、日本に持ち込まれた貝なので、
これを食べることも、もちろん可能である。
食味は「タニシ」にはやや劣るものの、美味しいらしい。
ただ、「タニシ」と同じように、寄生虫がいる場合があるので、
食べる場合には、しっかりと火を通す必要がある。

この「ジャンボタニシ」こと「スクミリンゴ貝」が
食用目的で日本へ持ち込まれたのが、1981年。
養殖場があちこちに作られたものの、これがあっという間に破綻、
「ジャンボタニシ」が有害動物に認定されたのが、
1984年のことである。
自分の知る限りでは、1980年代始めには
すでに「タニシ」を食べる、ということ自体が一般的ではなく、
当時の我が家の食卓に「タニシ」が上ったことは、一度もなかった。
そんな状況下で「ジャンボタニシ」を食用として持ち込んだことは、
全く世間の風潮が見えていなかったとしか、いいようがない。
現在、「ジャンボタニシ」というワードで検索をかけてみると、
各自治体から農家への、
「ジャンボタニシ」が増えてきているという警告と、
その駆除方法が大部分を占めている。
全くの「害獣」扱いである。

卵を見つけてから数日後、同じ道を通ると、
水田の中に、かなりの数の「ジャンボタニシ」の姿があった。
食用になる、ということなのだが、
さすがにこれを持って帰って食べてみよう、
という気にはならなかった。

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