世の中には、いろいろな「狩り」がある。
一般的に「狩り」というと、弓矢や猟銃を携えて、
山の中などを駆け回る、というイメージがある。
最近では、「狩り」というと、様々な武器を持って、
モンスターを追っかけ回すなんていうゲームのことを、イメージする人もいる。
ちょっと前には、若者による「オヤジ狩り」なんてのも、話題になった。
「狩り」という言葉には、とにかくちょっと物騒なイメージがつきまとっている。
しかしそんな物騒な「狩り」の中にあって、平和極まりない「狩り」がある。
果物を対象とした「狩り」だ。
「ミカン狩り」、「ブドウ狩り」、「イチゴ狩り」など……。
ここには銃声もなければ、流血の騒ぎもない。
もちろん犯罪の臭いなど、かけらもない。
そこにはどこまでも、のどかな空気だけが漂っている。
そんな様々な「果物狩り」の中、自分が体験したことがあるのが、
「リンゴ狩り」である。
はるか子供時代には「ミカン狩り」もしたことがあるのだが、
30年以上昔のことなので、記憶がおぼろげだ。
イチゴとブドウに関しては、家で栽培していたので、
いちいち狩りにいく必要もなかった。
と、いうよりは、イチゴの場合、供給量が需要を大幅に上回っていたので、
吐きたくなるほど食べさせられて、すっかりイヤになってしまった。
イチゴが嫌いな子供というのは、珍しかったと思う。
……ともあれ、今回はこの「リンゴ狩り」経験をもとにして、
リンゴについて書いていく。
子供のころ、リンゴというのは、微妙な位置にいる果物だった。
家の畑で栽培されていないので、馬鹿みたいに食べさせられることはなかったが、
あれば嬉しいか?と聞かれれば、それほど喜んで食べていた記憶がない。
一級品ともなれば、話は変わってくるのだろうが、
廉価品であれば、スーパーなどで安価で買うことができる。
かといって、いつも家にあるわけではなく、
たまに買い置きのものがあって、普通にかぶりついていた。
一言でいえば、かなり身近な果物だった。
「身近」
これが、リンゴに対する一般的な日本国民の、正直な感想ではないだろうか。
この身近な果物は、一体いつごろから、この国に存在していたのか?
リンゴはバラ科リンゴ属の、落葉高木樹だ。
大方の品種が、秋に果実をつける。
リンゴといえば「青森」、というようなイメージがあるが、
実際には日本全国、あちらこちらで作られている。
自分が「リンゴ狩り」に行ったのも、兵庫県内にあるリンゴ園だった。
暑さに弱いため、高原地帯などで栽培されることが多い。
一般に栽培されている品種は、果実に紙製の袋をかぶせて栽培するが、
これをせずに、太陽の光に当てて栽培することもある。
太陽の光に当てて栽培すると、見栄えはあまり良くないが、
甘くおいしいリンゴになる。
店先でリンゴを見て、名前に「サン」とついているものが、
袋をかけず、太陽の光を当てて栽培したリンゴだ。
原産地はアジア中西部から、インドにかけてだといわれている。
トルコでは紀元前6000年ごろの、炭化したリンゴが発見されている。
スイスでは紀元前2000年ごろのリンゴの化石が見つかっており、
そのころから、栽培されていたらしい。
16~17世紀になると、ヨーロッパで栽培が盛んになり、
17世紀前半に、アメリカに持ち込まれた。
日本でリンゴ栽培が盛んになるのは、
明治以降、西洋リンゴが持ち込まれてからのことだとされている。
これ以前のリンゴは、「和リンゴ」と呼ばれ、区別されている。
この「和リンゴ」は中国から持ち込まれたもので、
平安時代に書かれた「和名類聚抄」には、
「利宇古宇(りうごう)」と書かれており、これが「りんご」になったとされる。
少なくとも平安時代には、日本に持ち込まれていたようだ。
現在のリンゴと比べると、かなり小さい。
主に仏事用として栽培されていたようだが、食用にも供されていた。
天明7年(1787年)には、後桜町上皇から、
3万個のリンゴが下賜されたという記録も残っている。
この状況を見るに、それなりの数が栽培されていたようだ。
江戸末期から明治初期にかけて、現在流通している西洋リンゴが持ち込まれた。
栽培のための試行錯誤が繰り返されたが、
それが軌道に乗ったのは、明治20年代のことであった。
さて、一番最初に書いた「リンゴ狩り」だが、
一般的なスタイルは、
「園内ではリンゴ食べ放題、持ち帰りは別途料金」
というものだろう。
自分がリンゴ狩りをしたリンゴ園も、このシステムだった。
「食べ放題」という言葉に、勢いよく食べ始めたが、
どんなにがんばってみても、10個と食べられるものではない。
死にものぐるいで食べても、5個がやっとであった。
リンゴ1個、100円としても、入場料500円は妥当である。
リンゴ園の中には、いくらでもリンゴがなっている。
もちろん、丸のままかぶりつくこともできるのだが、
入り口では、小さなプラスチック製のナイフを渡される。
よく熟れていそうなリンゴをもいでは、ひたすら皮を剥いていく。
皮を剥いたら、切り分けて食べる。
正直、リンゴをもいだ記憶よりも、リンゴの皮を剥いていた記憶しかない。
リンゴ狩りというのは、そういうもののようだ。