日本では、身近に山が存在する。
見渡す限りの平野というのは、日本ではほんの数えるほどしか存在しない。
それだけ山がありながら、日本人が登山に目覚めたのは、
明治時代以降、外国人によって「登山文化」がもたらされてからである。
そんな日本に移り住んだ外国人が、妙な登山をはじめた。
毎日、早朝に身近な山に登る「毎日登山」である。
今回はこの「毎日登山」について書いていく。
日本はまわりを海に囲まれているため、ややもすると
「海洋国家」の様に思われがちだ。
しかし、改めてその国土を見回してみると、そのほとんどを山地が占めている。
国土だけで考えた場合、日本は「山国」ということができる。
古来より、日本人のほとんどは、
「山」と何らかの関係のある生活をしていた。
それだけ日本人にとって、山は身近なものだった。
身近であったにもかかわらず、日本人は仕事と信仰を除いては
積極的に山に登ろうとはしなかった。
それだけ生きることに必死であり、
山登りを趣味にできるほどの余裕が、なかったためである。
そのため、日本は山国でありながら、レジャーとしての登山は、
全く発展してこなかったのだ。
日本に「レジャーとしての登山」という思想が持ち込まれたのは、
黒船来航によって、外国人が日本に住むようになってからである。
もともと「レジャー登山」という思想をもっていた外国人達は、
まだ手つかずの日本の山々に魅力を覚え、これに登り始めた。
これこそが、日本における「レジャー登山」の始まりであった。
さて、一般的に「登山」といえば、大げさな装備を整えて、
高山に登る行為を、思い浮かべる人が多いだろう。
それこそ、3776mもある富士山や、同じく3000m峰が連なっている
日本アルプスの山々へ、登っていくイメージである。
しかし登山というのは、そんな大げさなものだけではない。
近所にある、それこそ標高500mもないような山に登るのも、
間違いなく「登山」である。
そんな低山であれば、特に大げさな装備も必要なく、
しっかりとした山道のみを通って、山頂を目指すこともできる。
もちろん、往復しても1~2時間ほどしか、時間はかからない。
これなら毎日の散歩代わりに、山に登ることもできる。
そういう風に考えた外国人が、神戸にいたのである。
明治時代半ば、神戸に在留していた外国人達は、
六甲の山歩きをするようになり、
やがてE・H・ドーンを中心とする外国人達によって、
毎日登山をする習慣が出来上がった。
大竜寺参道の下の方にあった善助茶屋に、登山者のサイン帳がおかれ、
登山仲間の社交場として賑わったという。
現在、この善助茶屋は残っていないが、ここが「毎日登山発祥の地」とされる。
この外国人達の習慣が、神戸に住む一般市民の間に広がっていった。
毎日、朝の運動として、出勤前に山に登った。
あるいは、夕方の仕事帰りに布引や再度山を散歩した。
神戸の背面、六甲山系は最高峰こそ931mの標高があるが、
その他の山には、再度山のように標高400mほどの山もあり、
毎日登山で登られている山は、これくらいの高さの山が多い。
毎日登るのなら、これくらいの高さが、ちょうど良いのだろう。
毎日登山の会は、大正~昭和初期にかけて、400以上存在しており、
場所も六甲山系全域に広がっていった。
現在でも、毎日登山を行なっている人は、4000人~5000人ほどいる。
山頂には、登頂者が書き込むノートや、表が用意されていて、
一度山に登るたびに、これに記入していく。
その記録を信じるならば、なんと20000回以上登っている人もいる。
1年365日として考えれば、実に55年もかかる計算である。
これと同じようなことが、現在、各地の山でも行なわれている。
自分の地元、たつの市でいえば的場山、
隣の相生市であれば天下台山で行なわれている。
どちらも山頂にはノートが設置してあり、
登頂者がこれに名前と日時を記入していく。
自分も的場山のノートに記入していたが、
どんなにがんばってみても1年のうち、20~30回登るのがやっとだった。
これを20000回というと、どれだけ山に通い詰めないといけないのか。
ちょっと疑問に思うことがあった。
毎日登山といっても、台風が来たりして、とても山に登れないような日もある。
そういう日は、どうしているのか?
まさか、無理して登っているのか?
それを確認してみると、やはり台風などの荒天の日は、
毎日登山を休んでいた。
意固地にならず、危険な時には、山に登らない。
その姿勢があるからこそ、20000回などという記録を、
打ち立てることができるのだろう。
さらによくよく記録を見てみると、そういう休まざるを得なかった日の翌日は、
1日に2~3回も山に登っていた。
これもほどほどの高さの山だからこそ、できることだろう。
危険なときは無理をせず、安全なときはたっぷりと。
その姿勢は、毎日登山のみならず、普通の登山にも通じるものがある。