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動物 雑感、考察

ウグイス

投稿日:

うちの庭木には、どういうわけか野鳥がよってくる。

ジッと観察していると、葉の落ちた柿の枝にとまり、
となりのサザンカの花をついばんでいる。
もちろん、花といっても
まるまるひとつを飲み込むのではなく、
赤い花びらを一枚むしり、
それを器用に飲み込むのである。
サザンカの花びらに
どれほどの栄養があるのかは知らないが、
鳥が食べている以上は、
なにがしかの栄養はあるのだろう。

先日、その庭木を見ていると、
ウグイス色をした鳥がとまっていた。
おお、うちの庭にもウグイスがやってきたかと思い、
ちょっとネットで調べてみると、
驚くべきことが判明した。
うちの庭にやってきた、鮮やかなウグイス色をした鳥は、
実はウグイスではなかったのである。

実際に図鑑などに載っている写真を見ると、
そこに写っているウグイスは、茶色というか灰色というか、
一言では言い表し辛い、くすんだ色をしている。
我々が一般的にいう「ウグイス色」ではない。
では、ウグイスよりも鮮やかなウグイス色をした
あの鳥はなんだったのか?
じつはあの鮮やかなウグイス色をした鳥は、
「メジロ」であった。
花札には「梅にウグイス」という札があるが、
あそこに描かれているウグイスも、
かなり鮮やかな色彩で描かれている。
よく知られている配色だと、
背中が黄緑色(ウグイス色)で、
腹側が黄色になっている。
これはウグイスの色ではない。
メジロの色だ。
(もっともメジロにした場合でも、
 背中はウグイス色だが、腹側は黄色ではなく白である)
つまり、あの花札は実は、
「梅にメジロ」だったのである。

……。
いやいやいや、ちょっと待って、ウグイスだって
梅の木にとまることだってあるんじゃないの?
そういう風に考える人もいるだろう。
たしかに、ウグイスも鳥である以上、
その辺の木の枝にとまることもある。
それが、たまたま「梅」だったということも、
あるかも知れない。
色使いにしたって、ディフォルメされている可能性もある。
ウグイスを鮮やかな色を使って表現すれば、
メジロそっくりになるだろう。

しかしそれ以上に、
「梅」とメジロの間には強い繋がりがある。
というのも、メジロは花の蜜や果汁を好む食性であり、
その中でも特に、梅の花には目がないのだ。
梅の花が咲く季節ともなると、
メジロは梅の木を渡り歩くように飛び回り、
一心不乱にその蜜を求める。
そのため、日本画の画題として
「梅とメジロ」も存在している。
一方のウグイスの方は、虫や木の実が主食で、
花の蜜を吸うことは、まずない。
さらに、警戒心が薄く、
簡単に人前に姿を見せるメジロと違って、
非情に警戒心が強い。
木の枝にとまるよりは、
薮の中に隠れていることの方が多い。
梅と一緒に描かれているということを考えると、
やはりあれはウグイスではなく、メジロなのだろう。
メジロとウグイスが混同されてきたのは、
こういうことではないだろうか?

ちょうど、梅の花が開花する時期。
梅林の中を歩いていると、どこからともなく
「ホー、ホケキョ」と美しい声がする。
おお、きれいな声で鳴く鳥がいるなと、
辺りを見回してみると、
そこには美しい色をした小鳥が、花の蜜を吸っている。
途端にこういう公式が出来上がる。
「美しい色の鳥」が「美しい花の蜜を吸う」、
当然、その鳥は「美しい鳴き声」を出すだろう。
いや、出すに決まっている。
そういう思い込みが生まれたのではないか?
そうあってほしい、という願望が
この勘違いを生み出し、
ウグイスとメジロが混同される結果と
なってしまったのだろう。

ウグイスは、スズメ目ウグイス科ウグイス属に属している。
先に書いたメジロも、同じスズメ目の鳥なので、
そういう意味では比較的、近い品種だといえる。
体長はオスが16cm、メスが14cmほどになる。
体色は、褐色がかったオリーブ色で、腹側は白い。
全体的にくすんだ色彩で、見た目は非常に地味である。
雑食性ではあるが、夏場は主に昆虫などの虫類、
冬場は木の実などと、季節によって食べ分けている。
ほぼ日本中に分布していて、
中には3000mを超えるような高地帯に
棲息している例もある。
ただ、警戒心は非常に強く、
なかなか人前に姿を見せない鳥である。

「ウグイス」という名前の由来は、
この鳥の鳴き声が「ウー、グイス!」に
聞こえたからだという説がある。
ウグイスは「ホー、ホケキョ」と鳴くというのが
一般的になっているので、
さすがにこの説には違和感を感じてしまう。
あるいは、昔の人の耳にはあの鳴き声が、
「ウー、グイス!」と聞こえていたのだろうか?
他の説では、「ウク」が奥、「イス」が出づ、
つまり「ウグイス」で、
「奥出づ」という意味だとする説もある。
春先になると、谷の奥から出てくるから
この名前がついたというのだが、
こちらの方も、いまいちしっくり来ない説である。

室町時代ごろからは、その鳴き声を目的として、
人々によって飼養されてきた。
正月にその初音を聞くために、
2ヶ月も前から夜間点灯の元で育て、
その時間感覚を調整するような真似も
行なわれていたらしい。
飼い主の執念を感じさせる。
かつては狩猟法によって定められた、
飼養許可証を受ければ、
ウグイスを飼育することが出来たが、
1980年に完全に禁止された。

田舎に住んでいれば、
春先にウグイスの声を聞く機会も多い。
鳴き声を聞いて、辺りを見回し、
近くの木の枝に、鮮やかなウグイス色をした小鳥がいても、
残念ながらそれはウグイスではない。
声の主は意外に目立たない所で、鳴いている。

ウグイスは鳥の世界では、
ゴーストシンガーに甘んじているのかもしれない。

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