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食べ物

わらび餅

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初夏らしからぬ、猛暑が続いている。

こうなってくると、何か冷たいものを食べて、一時の涼を、ということになる。

そういう場合、氷菓と呼ばれる菓子が一番だ。

猛暑といわれるほどの暑さになっては、なまなかのものでは

涼を得ることができない。

しかし、今の暑さは一時のもので、夜には気温も下がってくる。

そうなってくると、食後のデザートに氷菓は冷たすぎる。

氷菓よりも、冷たさの柔らかいもの。

そう、こういう時は水菓子の出番である。

水菓子とは、もともと果物のことであった。

しかし現在では、果物は「果物」と表現するようになったため、

水菓子は本来とは違った意味を持たされている。

つまり、水分を大量に含む菓子、という意味での「水菓子」である。

この分類の中には、「水ようかん」、「ところてん」、「寒天」、

「ゼリー」、「ババロア」などが含まれている。

今回は、この意味での水菓子、「わらび餅」について書いていく。

わらび餅は、不思議なお菓子だ。

何で作られているのか、いまいちはっきりとつかめない。

見た感じ、ゼリーのようでもあり、寒天のようでもある。

しかし実際に食べてみると、そのどちらとも微妙に感触が違っている。

実は、何で作られているか、というのは非常に簡潔である。

わらび餅は、ワラビから作られている。

あの山菜のワラビだ。

え、「わらび」って、イメージ的な言葉じゃなかったの?と、

思われる方もいるかもしれないが、これはド直球で原材料を表している。

もちろん、あの山菜のワラビをどんなにこねくり回しても、

わらび餅にはならない。

厳密にいえば、わらび餅は、ワラビの根茎に含まれている、

デンプンから作られているのだ。

ワラビは人気の山菜なので、今でもこれを採っている人は多い。

だが、さすがにその根っこまで採っている人は、なかなかいない。

ワラビの根っこは、地面に水平に伸びている。

だからこれを掘り起こすのは、それほどめんどくさいことではない。

ワラビと同じように、細めの根茎が、浅い場所に埋まっている。

逆にいえば、根が細いため、充分な量のワラビ粉をとろうと思ったら、

相当な量の根茎を集める必要がある。

ワラビの根茎を集めたら、それをよく洗い、細かく切り刻む。

それをさらにすり鉢で擦ったり、おろし金でおろす。

これに水を加え、刻んだ根の中に含まれているデンプン成分を、

水の中にもみ出す。

これをふるいなどで濾して、ゴミを取り除く。

これをデンプン乳というのだが、これにさらに水を加え、

成分が沈殿するまで、待つ。

沈殿したら、上水を捨てた後、もう一度水を加え、

よくかき混ぜて再び沈殿させる。

沈殿したら、再び上水を捨てた後、残った沈殿部分を乾燥させる。

乾燥したものの、上部と下部を削り落とし、中間のよい部分だけを取り出す。

この部分が、ワラビ粉と呼ばれる、デンプン質の粉になる。

上記の手順で作られたものを、特に「本ワラビ粉」といい、

現在ではほとんど入手できない。

仮に入手できるとしても、非常に高価であり、気楽には購入できない。

さて、本式に作ろうとしたら、かように面倒くさいワラビ粉だが、

成分が純度の高いデンプンであるため、他のもので代用できるのが救いだ。

この代用品として、手頃なのが、片栗粉だ。

もともとはこれも、「片栗」という植物の根から採ったものだが、

現在、市販の片栗粉は、そのほとんどが馬鈴薯デンプンで作られている。

ジャガイモのデンプンだ。

小学校の理科の時間に、ヨウ素液をかけると紫色になったアレだ。

だからうるさいことを言えば、現在のわらび餅のほとんどが、

ジャガイモ餅ということになる。

このデンプン質のワラビ粉(あるいは片栗粉)に砂糖と水を混ぜ、

これを鍋に入れてゆっくりとかき混ぜながら、透明になるまで温めると、

やがて固まってわらび餅になる。

市販のわらび餅は、これを丸く成形し、パック詰めにして、

袋入りのきな粉をつけたものだ。

作ること自体は簡単だが、うまく作るのには技術がいる。

下手をすれば、随分と片栗粉くさい、わらび餅が出来上がる。

このわらび餅が、いつぐらいから作られていたか?というのは、

はっきりしていない。

醍醐天皇(885~930年)の好物だったという、言い伝えが残っているので、

少なくとも平安時代には、作られていたのは間違いないようだ。

それも天皇の食卓にあがっていたということは、

かなりの高級菓子だったのだろう。

わらび餅の材料のうち、ワラビ粉は現在でも、

砂糖は輸入ものしかなかった平安時代では、高級食材であった。

これらをふんだんに使っているわらび餅は、選ばれた人だけが食べられる、

まさに夢のお菓子だったわけだ。

これを庶民が食べられるようになったのは、江戸時代からである。

実は江戸時代も、ワラビ粉は驚くほど高価だった。

だから、葛粉にちょっとだけワラビ粉を混ぜた材料で作ったものを、

「わらび餅」と称して販売していたのである。

……人間というのが、いかに成長しないものか、よくわかる。

結局の所、本ワラビ粉のみでつくられたわらび餅は、現在にいたっても

驚くほど高価で、気軽には手に入らない。

もちろんスーパーでは、ひとパック100円ほどで売られてはいるが、

厳密には、これは本当のわらび餅ではない。

では、本物のわらび餅とはどういうものか?

実は本物のワラビ粉で作ったわらび餅は、色が黒に近くなる。

そう、まるで黒糖でも溶かしているような、色になるのである。

品質の劣化も早く、作った直後から品質は落ちていく。

さらに恐ろしいことに、この本物のわらび餅、冷蔵庫で冷やすことができない。

冷蔵庫に入れると、とたんに弾力を失ってしまうのだ。

……と、なるとかつてのわらび餅は、涼をとる水菓子ではなかったのだろう。

わらび餅の、意外な秘密である。

かつて、選ばれた者しか食べられなかった、本物のわらび餅は

現在では、値は張るものの、誰でも食べることができるようになった。

京都の老舗の和菓子屋に行けば、本ワラビ粉のわらび餅を、

扱っている所もある。

興味があるのなら、京都に行った際に、一度本物を食べてみるのもいいだろう。

もっとも、スーパーでひとパック100円で販売されているわらび餅も、

これはこれで、うまいものである。

こちらは遠慮なしに冷蔵庫の中に放り込み、キンキンに冷やして食べればいい。

初夏の夜、カエルの鳴き声を聞きながら、

きな粉と黒蜜にまみれた、わらび餅をパクリ。

毎日食べても、飽きないし、

毎日食べても、懐は痛まない。

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