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美味しんぼの「絵」

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つい先月まで、「美味しんぼ」が世間を騒がせていた。

それも、このマンガの主題である「食べ物」以外で騒がせていた。

主に放射能関連であった。

ニュースなどでも取り上げられることが多かったせいで、

知らない人がいないくらい、話題になった。

問題になったのは、福島を訪れた主人公、

山岡士郎が鼻血を出すというシーンだった。

今、インターネットで「美味しんぼ」で検索をかけると、

その問題のシーンが何枚も表示される。

NHKの全国ニュースでもとりあげられ、山岡の鼻血顔が全国に放映された。

この問題になった、「美味しんぼ~福島の真実編」は、無事、全編掲載を終え、

その後、「美味しんぼ」は休載を発表した。

最近は、シリーズ連載→長期休載→シリーズ連載→長期休載というスパンで

連載を続けていたので、今回の休載も「福島編」の影響というわけでは

ないようだ。

さて今回、この「美味しんぼ」を取り上げるわけであるが、

別段、世間の風潮にのって福島編について書くわけではない。

今回は、この「美味しんぼ」の絵について書いていきたい。

さて、「美味しんぼ」のコミックスをみてみると、

作・雁屋哲 画・花咲アキラとなっている。

要は、話を雁屋哲が担当し、絵を花咲アキラが描いているわけだ。

今回の福島の一件では、この雁屋哲が大々的に取り上げられた。

ストーリーを作っているのは、雁屋哲なワケだから、これは当然だ。

福島を取材し、その結果をもとにして、今回のストーリーを作ったわけだ。

そういう意味で、今回の問題の責任は、可否ともに雁屋哲に収束する。

ニュースなどでも、雁屋哲の名前や、彼のブログが取り上げられ、

一躍、世間の注目を集めた。

そんな中で、絵を担当している花咲アキラの名前は全く出てこなかった。

いや、確かに今回の問題では、彼の出る幕はなかったに違いないが、

それにしても、ニュースやワイドショーなどでのスルーっぷりはすごかった。

どこかひとつくらい、彼に言及してもよかったのではないか?

花咲アキラは、1981年「シンベイの海」というマンガでデビューしている。

その2年後に、ビックコミックスピリッツにて、雁屋哲と組んで、

「美味しんぼ」の連載を開始している。

以降、「美味しんぼ」は連載を重ね、現在コミックスにして

110巻まで出ている。

上記したように、「美味しんぼ」は休載がちではあるとはいえ、

連載中であり、実に30年以上「美味しんぼ」を描き続けてきたことになる。

つまり、その漫画家人生のほとんどを「美味しんぼ」に捧げて来たといえる。

「美味しんぼ」以外の作品については、ほとんど知られていないが、

和田竜の「のぼうの城」のコミカライズを担当、コミックスで販売されている。

ストーリーを担当している雁屋哲は、この「美味しんぼ」以前にも

いくつかのマンガのストーリーを担当している。

暴力や権力に絡む、過激な話が多く、「美味しんぼ」とのギャップがすごい。

この「美味しんぼ」の前に原作を担当していた、「風の戦士ダン」が

その作風の転換点となったようだ。

……本当に転換したのだろうか?

「美味しんぼ」を読んでいると、わりと偏執狂的な性格を持った

キャラクターが多い。

一例を挙げてみよう。

サラダをテーマにした話の時だった。

ある女性が、婚約者の母親に食事を用意する、というエピソードだった。

この婚約者は、自分の母親をそんなにうるさい方ではない、と説明する。

さらに、母親はサラダが好きだ、ということで、これをリクエストする。

この女性は食事を作り、サラダも用意するのだが、

そこにそえられた市販のマヨネーズを見て、

婚約者の母親はいきなりヒートアップする。

手作りのマヨネーズは長持ちしないのに、市販のマヨネーズは腐らない。

これは市販のマヨネーズに、合成保存料や防腐剤が入っているからだ。

合成保存料や、防腐剤は体に良くない、毒だ。

こんな毒入りマヨネーズなんか、食えるか!と目をつり上げて、

わめき散らすのである。

もちろん、製品の裏の原材料表示を確認するようなこともない。

テンションマックスのまま席を立ち、帰ってしまうのである。

……。

うるさい方ではない?

これは、とんでもない事故物件ではないか。

むしろ、これを機にこの男と別れた方が、いいのではないか。

もちろん、この後は山岡が立ち回って、市販のマヨネーズには、

防腐剤も合成保存料も、使われていないことを明らかにして、事をおさめる。

そのとたん、この婚約者の母親はころりと手のひらを返し、

ろくな謝罪もないまま、この女性をベタボメするのである。

いやいやいやいやいや。

ダメだ、この母親はダメだ。

こんな母親を持つ男と結婚しても、ろくな事にはならない。

そんな読後感を抱かせる、エピソードだった。

さて、どうだろうか?

もちろん、この婚約者の母親というのが、偏執狂的な性格のキャラクターである。

この手のキャラクターが、「美味しんぼ」の中には頻出する。

そう聞けば、かなり過激なマンガになりそうな気がする。

そうなっていないのは、作画を担当している花咲アキラによるものだ。

花咲アキラの素朴で、朴訥としたタッチは、

そういうキャラクターの強烈な「毒」をうまく消しているのだ。

花咲アキラの絵がなければ、「美味しんぼ」は相当に、

過激で毒のあるマンガになっていただろう。

たしかに「美味しんぼ」の世界を生み出したのは、雁屋哲だ。

だが、ともすれば強烈になりすぎるその世界を、

うまく毒を抜いて描き上げているのは、花咲アキラだ。

そういう意味で、花咲アキラの功績は大きい。

この雁屋哲が作り出した、「婚約者の母親」というキャラクターは、

強烈に思い込みが強く、そのわりに基本的な所を見ていない。

市販のマヨネーズが腐らないのは、合成保存料と防腐剤のせい、と決めつけて、

ごく当たり前の原材料確認をしていない。

そんな片手落ちな状況で、いきなり切れて喚き立てる。

この手のキャラクターは、このマンガにはかなりの数が出てくる。

子は親に似る、というわけではないが、

この手のキャラクターは、どことなく作者である雁屋哲に似ている所がある。

彼がよく取り上げる問題、食品添加物や農薬について、

いつも強烈に批判しているわりには、しっかりとその製造工程、原料、毒性等に

ついて踏み込んだことがない。

捕鯨問題にしても、反捕鯨の矛盾は突いたものの、

かつて日本の捕鯨が引き起こした、クジラの乱獲による、

具体的な生息数の減少のデータは、明らかにしなかった。

どのテーマにしても、わりと一方的な視点からの主張が多い。

もちろんものの見方には、それぞれ人によってスタンスがある。

あらかじめ方向を定めて取材し、それを貫くのもひとつの手だ。

しかし、原発問題でもわかるように、すでに「美味しんぼ」は

それが許されないほどに、社会への影響力を持ってしまっている。

その強烈な「毒」の力は、花咲アキラの浄化力を越えてしまった。

連載開始から30年、「美味しんぼ」は大きくなった。

今回の騒ぎが、その歴史のピリオドにならない事を、祈るのみだ。

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