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イワシ

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昔から、寿司屋の湯呑みには
魚編の漢字が書かれていることが多い。
漢字の得意な人間は、この湯呑みを手に取って、
いくつその名前を読めるか自慢したがるものだ。

しかし、そこに書かれている魚の名前には、
「寿司」に全く関係のないものも、多く見られる。
「鮒(ふな)」や「鯉(こい)」などの淡水魚は、
普通の寿司屋では出てくることは無いし、
「鮫(さめ)」なども、
よほど変わったネタを仕入れている店でなければ、
寿司ネタとして出てくることは無いだろう。
「鯨(くじら)」に関しても、
ここ数十年の捕鯨禁止によって、
その姿を見かけることさえ少なくなった。

そんな魚の中で、
もっともポピュラーなもののひとつが「イワシ」である。
イワシを扱っていない寿司屋というのは、まずない。
安価で、大衆的な魚。
それが「イワシ」という魚である。

しかしこの「イワシ」、漢字で書くと「鰯」となる。
魚編に「弱」である。
随分と悲惨な漢字をあてがわれたものだ。
「鰯」は、元々中国で使われていた漢字ではなく、
日本で独自に作り出された「国字」だ。
他の魚の餌にばかりなり、
また水揚げ後の傷み方も早いことから、
魚編に「弱」いの字を当てて作り出された。
「イワシ」という読みについても、
「弱し(よわし)」が変じて「いわし」になったとされる。
「弱し」→「いわし」以外の説をみても、
「卑しい(いやしい)」が変じて「いわし」になったなど、
ろくでもない説ばかりである。

イワシは沿岸性の回遊魚である。
世界中に広く分布しており、世界各地で捕獲され、
食用にされたり、魚油・肥料などに加工されている。
日本では、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシの
3種をさして、「イワシ」としている。

マイワシは、体側に一列に並んだ黒い斑点があり、
他のイワシと区別できる。
様々に加工され、食用にされるが、
実はそれ以上に肥料に加工されることが多い。
漁獲量が激しく変動することでも知られている。

ウルメイワシは目が大きく、
潤んでいるように見えることから
「潤う目」→「ウルメ」と名付けられた。
マイワシが東アジアを中心とした海域にしか
棲息していないのに対し、
ウルメイワシは全世界的に分布している。
脂が少ないため、干物などに加工されることが多い。

カタクチイワシは、目が頭部の前方によっていて
口が目の後ろまで大きく開く。
「口が頭の片側によっている」ことから、
「片口イワシ」→「カタクチイワシ」と名付けられた。
マイワシとウルメイワシはニシン科の魚だが、
カタクチイワシはカタクチイワシ科の魚である。
稚魚はシラスと呼ばれ、食用にされる。
成魚は煮干しに加工されることが多く、
そのまま食べられることは少ない。

日本では、古く縄文時代から食べられていて、
古代のゴミ捨て場である貝塚からは、
イワシの骨の化石も見つかっている。
奈良時代・平安時代になると、イワシは干物に加工され、
「税」として都へと運ばれた。
ただ、先に書いた通り、
「イワシ」は卑しいものと見なされていたため、
宮中などでは、あまり表立って
食べられることは無かったようだ。

「源氏日記」で知られる紫式部は、
イワシの美味しさにすっかり魅了され、
夫の留守中にこっそり焼いて食べていたらしい。
夫が帰宅した際、部屋の中がイワシ臭かったため、
「あんな下賎なものを食べてはいけない」
と叱られたという逸話も残っている。
夫に叱られた紫式部は
「日の本に はやらせ給う いわしみず 
 参らぬ人は あらじとぞ思う」
(日本で流行っている、
 石清水八幡宮に参らない人がいないように
 イワシを食べない人も、いないと思いますよ)
という和歌を作り、反論したという。
「下賎」とはされていたものの、
当時、イワシがどれくらい人気のある魚であったのかを、
伺い知ることが出来る。
現在では広く知られていることだが、
イワシなどの青魚の脂肪には、
ドコサヘキサエン酸が多量に含まれており、
これが能の働きを活性化させるといわれている。
当時の女性が残した文学作品は多いが、
意外と彼女等の創作力の源は、
イワシだったのかもしれない。

江戸時代に入ると、イワシ漁は一気に盛んになる。
これは、江戸時代の人々が
大量にイワシを食べていた……というわけではなく、
イワシを畑の肥料として使い始めたからである。
イワシやニシンなど、大量に獲れる雑魚を肥料にして、
各地で綿花が栽培されるようになり、
日本で大々的に木綿が使われるようになったのである。

だが、このような乱獲は
徐々に漁獲量に影響を与えはじめる。
イワシもニシンもその漁獲量は激減していき、
現在ではニシンはほとんど獲れず、
イワシも、かつてほどの漁獲量はなくなってしまった。
元々イワシやニシンなどの回遊魚は、
漁獲量が不安定で、年によって大漁・不漁があるもなので、
乱獲だけが原因ではないとする見方もあるが、
乱獲が全く無関係ということもないだろう。

先に書いた通り、イワシは他の魚の餌になることが多く、
食物連鎖のピラミッドでいえば、
かなり下層を担当している。
つまり、イワシの量が減ることで、
それよりも上、イワシをエサにしている魚達の数も減り、
結果として全ての魚種が、減ってしまうことになる。
「弱い」、「卑しい」などと貶められているイワシだが、
その実、生態系全体を左右するほどの
影響力を持っているのだ。

現在でも、スーパーなどでは
比較的安価で購入できるイワシだが、
その価格は、他の魚の値段にも影響を与えうる、
重要な指針なのである。

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