味覚は、5種類ほどあるらしい。
それぞれ、甘み、酸味、塩味、苦み、うまみとされる。
これを5基本味という。
この中で、いまいちはっきりとしたイメージをつかみにくいのが、うまみだ。
他の4つに関しては、簡単にイメージすることができる。
甘みを知りたければ、砂糖をなめれば充分に感じることができる。
酸味は、レモンをかじってもいいし、酢をなめてみてもいい。
塩味は、そのまま塩をなめればいい。
苦みを知りたければ、インスタントコーヒーでもなめてみればわかるだろう。
では、うまみとは……?
実際どうすればいいかと言われれば、
化学調味料をぺろりとやってみるのがいい。
味の素でも何でもいい。
それがうまみだ。
これを化学調味料を使わずに味わうとなったら、ダシをとってみるのが一番だ。
鰹節を煮出したり、昆布を煮出したりすると、うまみのとけ込んだ汁になる。
これがダシだ。
今回は、このダシというものに関して、書いてみたい。
日本でダシ、といえば鰹節か昆布だ。
その他には干し椎茸や、煮干し、サバ節などがある。
中華の場合は、鶏、ブタ、貝柱、エビなどだろうか。
鶏は鶏ガラが有名だし、ブタは肉からも、中国ハムからもダシをとる。
韓国だと、牛肉、鶏肉などが多い。
西洋の場合は、牛、鶏、魚、野菜などを煮込んでダシをとる。
エビなどの殻などからダシをとることもあるが、基本的には獣肉、獣骨が多い。
このように並べてみた場合、日本のダシはちょっと独特だ。
まず、他国のダシと違って、脂分がない。
昆布や干し椎茸は、もともと脂がないのだから、当たり前だが、
鰹やサバなどはたっぷりと脂ののった魚だ。
しかしこれを鰹節、サバ節に加工すると、脂分が全くなくなる。
煮干しにするカタクチイワシには、もともとそれほど脂がのっていない。
結果、日本のダシは、どれも非常にさっぱりとしたものになっていて、
それが日本料理の味の、ひとつの特徴となっている。
繰り返すが、日本のダシといえば鰹節と昆布だ。
この2つで、日本料理のダシのほとんどをカバーしている。
日本の料理に欠かせないこの2つ、いつくらいから使われていたのか?
日本人は、縄文時代から海草を食べてきた。
この中にはもちろん、昆布も含まれている。
昆布などの海草は、天日で干せば簡単に乾物にできる。
「続日本紀」には代々朝廷に昆布を献上している、とあることから、
5~6世紀にはすでに、昆布は朝廷に献上されていたようだ。
ただ、これがどのように食されていたのかは、わからない。
昆布が日本中で、一般的に使われるようになったのは、江戸時代になってからだ。
北前船が蝦夷地(北海道)から、日本海ルートで大阪に運んできた。
そして大阪から、さらに船を使って江戸に運ばれた。
ただ、関東の水は硬水であり、昆布でダシをとるのには向いていない。
昆布自身は主に関西方面で使われ、関東地方では鰹節が使われていた。
鰹節が現在の形になったのは、やはり江戸時代のことで、
それ以前は天日で干した「堅魚」、煮た後に干した「煮堅魚」、
煮堅魚の煮汁を煮詰めた「堅魚煎汁」というものが使われていた。
ただ、このどれも、鰹節ほどの保存性はなかったようだ。
これらの名前が「大宝律令」の中にあり、
大和朝廷の時代から、使われていたことは確かなようだ。
江戸時代、紀州の漁師によって、燻煙法が広められる。
さらに土佐では、カビを利用して乾燥させる方法が考案され、
現代の鰹節に近いものが作られるようになる。
こうして作られた鰹節の堅さはまさに世界一で、
ギネスブックにも登録されている。
一般に広く使われるようになったのは、
やはり保存性の高まった江戸時代以降のようだ。
日本のダシの基本、ともいえる鰹節と昆布だが、
現代では一般家庭において、鰹節や昆布でダシをとっているところは、
まずないだろう。
せいぜい鍋料理をする際に、土鍋の中に昆布を入れるくらいで、
それ以外の料理の際には、顆粒状のダシか、液状のダシを使うのが普通だ。
鰹節も現代ではダシをとるのではなく、冷や奴やお好み焼きなどに
ふりかける使い方が一般的で、まずダシはとらない。
食べ物について書かれた本を読むと、
昔は鰹節を削るのは子供の役目だった、という話を書いている。
自分も一度削ってみたことがある。
別段、家で鰹節を削ってダシをとっていたわけではない。
台所の整理をしていたら、どういうわけか鰹節と削り器が出てきた。
恐らくは何十年か前のものだろう。
保存がよかったのか、鰹節はまだ食べられそうな感じだった。
とりあえず削ってみたが、どうも思った通りに削れない。
鉋で木を削ったように、薄く削るつもりだったのだが、
出来上がったものは、小さな木っ端くずみたいなものばかりであった。
具体的にいえば、鉛筆削り機でガリガリやった削りカスそのものだった。
昔の子供達は、もっとうまく削っていたのだろうか?
ちなみに自分の削った無様な木っ端くずは、普通に鰹節の味だった。
もうひとつ鰹節を買ってきて、再度挑戦してみようかとも思ったが、
まわりを見渡してみれば、削っていない鰹節は全く売られていない。
ネットで値段を調べてみると、大体1500~3000円。
なかなかいい値段だ。
現代では、鰹節を削るというのは、一種の趣味なのかもしれない。
小学生の頃、家庭科の授業で鰹節と昆布でダシをとり、
みそ汁を作った記憶があるが、これが人生唯一のダシとり経験だ。
家庭から消え去った、鰹節と昆布を使ったダシとりは、
家庭科の授業の中だけで、一種のセレモニーとして
未来へと伝えられていくのかもしれない。