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植物

ヘチマ

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先日、物入れをゴソゴソと整理していたら、ミョーな物を見つけた。

大まかな形としては、長さ15cmほどの円筒形なのだが、
微妙にひしゃげている。
全体的には、何か細い繊維が絡み合うようにして出来上がっており、
円筒形の縦方向に、不定形の「穴」らしきものがいくつか並んでいる。
形態的には蓮根に近い。
色はくすんだ肌色で、全体的にどこか白っぽく、
色が少し抜けた(?)様にも感じられる。

このミョーな円筒形の物体の胴の部分に1本、
ピンク色のリボンが可愛らしく結びつけられている。

さて、全く謎の物体なのだが、
それが出てきたのは、掃除用具や風呂用の道具を
仕舞っている場所だったので、恐らくは掃除道具か、風呂用の道具であろう。
手に取ってみると、ほとんど重さは感じない。
軽く握ってみても形は変わらないが、
やや力を入れて握ると、わずかではあるが形が変わる。
多分思い切り力を入れると、グシャリと潰れてしまうかも知れない。
形状は人工的な物ではなく、どこか生物的な印象を受ける。
絡み合っている繊維自体にそれなりの固さがあるので、
触ってみた感じとしては、タワシか何かの様にも感じられる。

そう感じた瞬間、ふと、閃いた。
ひょっとしてこれは「ヘチマ」ではあるまいか?

そう思いついた自分は、早速、インターネットを使い
「ヘチマ」について調べてみた。
ビンゴである。
自分が物入れの中で見つけた、謎の円筒形の物体が、
「ヘチマ」の実を使って作られたタワシとして紹介されている。
ピンク色のリボンをかけられて、可愛らしく装飾されていた所を見ると、
恐らくは風呂で体を洗うための「ヘチマ」タワシだと思われる。

「ヘチマ」の実を、タワシとして使うという話は聞いたことがあった。
ただ、我が家ではこの「ヘチマ」タワシを用いる文化が無かったため、
それを「ヘチマ」だと認識できなかったわけだ。
リボンがかかっている所から見ても、恐らくはプレゼントか何かで
「ヘチマ」タワシを貰ったが、普段、全くこれを使う習慣がないため
とりあえず、物入れに入れておいたという所だろう。
そうなると少なくとも、この「ヘチマ」は10年以上は前のもの、
ということになるのだが、まあ、食べるわけでもないので
消費期限なんていう物を気にすることもあるまい。

「ヘチマ」は、ウリ科ヘチマ属に属する1年生のつる植物だ。
特にその果実を指して「ヘチマ」と呼ぶこともある。
1年で育てることが出来、雄花と雌花に別れていて、
なおかつ単一株でも受粉が可能ということから、
小学校などでの学習教材として使用されることもある。
(自分も、学校の理科の授業などで、いくつかの植物を育てたことがある。
 一番最初は鉢植えの「アサガオ」、次は花壇での「ヒマワリ」、
 そして最後がこの「ヘチマ」であった)
夏に黄色い花を咲かせた後、キュウリのような形の巨大な果実をつける。
この果実が若いうちは、これを食用にすることも出来るのだが、
だんだんと成長していくにつれて、内部の繊維が強く発達するため
次第に食用には適さなくなっていく。
果実が育ち切った後は乾燥し、繊維の中にタネが残っている状態になる。
その状態で風に揺られながらタネを落とすため、
ほんのわずかではあるものの、元の位置から離れた場所へ移動する。

さて、改めて「ヘチマ」という名前を眺めてみると、
何とも間の抜けた言葉の響きである。
そこに、どういう意味合いが込められているのかも、判断できない。
実はこれも当たり前の話で、もともと「ヘチマ」という言葉には
ちゃんとした意味など無いからである。
本来、「ヘチマ」は「糸瓜(いとうり)」という名前であった。
(現在でも「糸瓜」と書いて「ヘチマ」と呼ぶこともある)
これは、果実から繊維が得られることから来た名前で、
「ヘチマ」の実態に即した名前だといえるだろう。
ただ、この「糸瓜」が後に略され、「とうり」と呼ばれるようになった。
頭文字である「い」が無くなってしまったのである。
そうなるとこれは「と」の「瓜」ということになる。
この「と」というのは、いろは歌では「へ」と「ち」の間にある。
……。
そう、「へ」と「ち」の間であることから「へち間」ということになり、
やがてこれが「ヘチマ」ということで、定着していくのである。
インド原産の「ヘチマ」が、日本に持ち込まれたのは
室町時代のこととも江戸時代初期のことともいわれていて、はっきりしない。
恐らくは1500年代から1600年代にかけて持ち込まれたはずだ。
持ち込まれた当初「糸瓜」と呼ばれていたものが、
後に「とうり」→「ヘチマ」と変わっていったのだから、
恐らくは江戸時代の中ごろから後半にかけて、
一般庶民の教養レベルが上がっていく中で、言葉遊びの1つとして
名前が変わっていったのではないだろうか?

先に書いたように、現在では学習教材としても
用いられている「ヘチマ」だが、それ以外にも様々に利用されている。
若い果実を食用としたり、晩秋に茶色くなった果実を水に晒し、
繊維だけ残してタワシとして利用したりすることについては、
すでに述べたが、それ以外の利用法として、有名な「ヘチマ水」がある。
これは、秋に実が完熟した後、地上30㎝ほどの所でツルを切り、
根側のツルから出てくる液体を集めたものである。
この「ヘチマ水」は、古くから化粧水として用いられるほか、
様々な効果のある薬として、飲んだり塗ったりもする。
歌人・正岡子規も、病に冒された晩年、歌の中で
「ヘチマ水」について詠んでいる。
この「ヘチマ水」については、現在でも化粧品として販売されているため、
興味のある人はそちらを購入して、試してみるのもいいだろう。

さて、我が家の物入れから出てきた「ヘチマ」タワシだが、
興味もあったため、早速、風呂で使ってみた。
固かった「ヘチマ」タワシも、水を吸うと若干、柔らかさが増すようで、
体をこすってみても痛くなるようなことは無く、
わりと快適な使い心地である。
使い終わった後は水で洗い、乾かしておくと元の固さに戻る。

化粧品として使われる「ヘチマ水」の入っていた「もの」だけに、
ひょっとして何らかの特別な効果があるかな?とも思ったのだが、
タワシとしての効果以外、特別なものは無いようである。

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