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オートミール

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これは、我が家代々の流儀ということになるのだろうが、
我が家の朝食は、コメかパンであった。

……。
普通は、朝食ってそういうもんなんじゃないの?という声もあろう。
我が家で言えば、コメといえば普通にご飯のことを指していたし、
パンといえば、これは食パンを焼いたトーストのことである。
自分がまだ小さかったころは、パンの割合が多く、
自分がある程度成長してからは、次第にご飯の割合が多くなっていき、
やがて我が家の朝の食卓から、パンは姿を消すことになった。
恐らくこれは、食べ盛りに突入した子供たちの食欲を
パンで満たすのが難しくなってきたためではないかと思う。

実際、自分が中高生のころなどは、トーストが朝食というようなことになれば、
毎日、どれだけの枚数を食べていたか分からない。
それを3人分、さらに両親と婆さんの分もということになれば、
オーブントースターで2枚のパンを5分で焼き上げると計算しても、
恐らく毎日、30分以上、誰かがオーブントースターにかかり切りで
パンを焼き続けることになっていただろう。

もちろん、これ以外にも理由はある。
うちの3兄弟は、それぞれ中学校に上がって以降、
高校を卒業するまでの6年間は「弁当」という形で昼食を摂っていたのだが、
これを母親が毎朝作っていたという事情があった。
弁当の中身は、それこそ3〜4種類ほどのメニューを
ひたすらローテーションするという、作り手の事情を強く意識した構成で、
白飯、玉子焼き、は毎回変わらないとして、後2つ、
肉系と生野菜系のオカズが入っているというものである。
そう。
要は毎朝、弁当を作るためにはご飯を炊かねばならず、
どうせご飯を炊くのなら、そのままその朝食の分もまとめて炊けばいいと
いうことだったのだろう。

こんなわけで、自分は生まれてから高校を卒業するまで、
ご飯とパンの朝食以外を一度も口にすることなく、成長したわけである。
ここに、わずかながら変化が起こったのが、大学生になってからだ。
実家を離れ、一人暮らしを始めると、
当然、朝食も自分で作らなければならなくなる。
最初こそ、普通にコメを炊いたり、パンを焼いたりしていたのだが、
人間というのは、次第に手抜きを覚え始めるものである。
毎日毎日、コメを洗って炊くのは手間であるし、
パンを焼いて食べるのは楽でいいが、
たまにパンを買い忘れてしまうようなことも起こるようになった。
そういうとき、まず、自分が頼ったのがインスタントラーメンである。
とりあえず、これをいくつか買い置きしておけば、
朝、ご飯を炊くのが面倒なときや、うっかりパンを切らしてしまったときに
これで代用することが出来る。
一人暮らしで次第にだらけ始めた自分は、
インスタントラーメンに頼る比率が段々と上がっていった。

さすがにこれではマズい、と思い、
何かインスタントラーメンに変わるものはないか?と思案していると、
あるTVコマーシャルが自分の目に飛び込んできた。
そのコマーシャルの中では、何かザラザラとした小さな物体を深皿にあけて
そこに牛乳をぶっかけ、スプーンですくって食べていた。
そう、シリアルのコマーシャルである。
自分はいくつかのシリアルを買い込み、これを朝食として食べ始めた。
さすがに牛乳に浸して食べるのは抵抗があり、やらなかった。
これらのものは、概ね甘いか、薄い塩味がついているかだったが、
これには1つ、大きな問題があった。
それこそ、スナック感覚で気軽につまめるため、
気がつけばTVなどを見ながらサクサクと食べてしまったのである。
色々と品を買えてみたが、ことごとくつまみ食いしてしまう。
自分はついに、シリアルを朝食にすることを諦めた。

そうしたシリアルが数ある中で、1つだけ、
自分が手を出さなかったものがある。
それが今回のテーマでもある「オートミール」である。

その当時、テレビでは海外ドラマを週に何本か放送しており、
主にアメリカのドラマが放送されていたわけだが、
そのアメリカのドラマで、たまに登場していたのが
この「オートミール」であった。
ほとんどの場合、それはドロドロの粥状の物質で、色は薄いクリーム色だ。
よくよく見てみると、何やら粒状のものが、わずかに形を残している。
これをアメリカの俳優たちは、スプーンですくって食べているのだが、
その様子は全くウマそうではなく、まるでエサかなにかを
ただ黙々と腹の中に流し込んでいるがごとくであった。
当時の自分には、それはあまりにもマズそうに映ったのである。

「オートミール」とは、燕麦を脱穀し、
調理しやすいように加工したものである。
多くの場合、燕麦を押しつぶす加工がされているため、
ある意味ではこれは、燕麦で作った「押し麦」とすることも出来るだろう。
大麦で作った「押し麦」(大麦を蒸して潰し、乾燥させたもの)は、
コメと一緒に炊いて「麦飯」の材料とするものだが、
この燕麦の「押し麦」である「オートミール」は、
それだけを加工して食べるものである。
表皮などを全く取り除いていない「全粒穀物」をつぶしているので、
栄養価は非常に豊富で、水や牛乳などで煮て粥状にして食べるほか、
料理の副材料として用いられることもある。
(ここでいう「脱穀」とは、表皮を取り除く行程ではなく、
 穂から穀物を取り外す行程をいう)
完全に乾燥した状態から少し煮るだけで、あっという間に粥状に変化する。
この粥状のものが、あのテレビドラマで見たものらしい。

粥状にした「オートミール」を食べる場合、
塩、砂糖、バター、ジャム、などを加え、味付けをしてからこれを食べる。
日本の「粥」の感覚からすれば、許容できるのは塩くらいで、
砂糖、バター、ジャムなどは、ちょっと抵抗感があるかも知れない。
何も調味しなかった場合、普通の白粥と似たような味になる。
早い話、コメと似通った性格があるということだ。
そのため、梅干しなどを加えたり、ダシ醤油で味付けしたり、
皿には中華粥風に味付けして食べることも出来る。
日本では現在に至って尚、メジャーな食べ物ではないが、
昭和天皇の洋風の朝食膳には、「オートミール」が供されていたという。
昭和天皇は、和風の食事の際にもコメに麦を混ぜた「麦飯」を
常食していたというから、「オートミール」の味わいにも
抵抗がなかったのかも知れない。

水を加え、粥状にして食べる以外の方法としては、
パンやクッキーなどの生地に混ぜ込まれることが多い。
「オートミール」を生地に混ぜ込んだ場合、
生地がシットリと仕上がるということだが、これは恐らく、
「オートミール」には、粘液状物質が含まれており、
これによって水分が生地の中に残るためではないだろうか?
(お湯を加えた「オートミール」が、わずかな時間で粥状になるのも
 この性質のためだと思われる)
ちなみに、この「オートミール」に砂糖や蜂蜜で甘味をつけ、
それに植物油をからめてオーブンで焼き上げれば「グラノーラ」、
焼かずにそのままのものを「ミューズリー」と呼ぶ。

「オートミール」の原料となっている燕麦(オート麦)は、
もともと小麦や大麦畑の雑草として扱われていた。
これが人工的に栽培されるようになったのは、今から約5000年前、
中央アジアでのことだとされている。
紀元前2000年ごろ、つまり今から約4000年前の
古代エジプト時代の遺跡から種子が出土しており、
一説によれば、あのツタンカーメンもオート麦を食べていたのではないか?
という話もある。
ただ、このオート麦、そのほとんど全てが馬の飼料として用いられており、
これを食料として用いるのは、スコットランドやアイルランドなどの
一部の地域に限られていたようである。
逆にいえばこれらの地域は、馬の飼料であったはずのオート麦でさえ
食べなければならないほど、食料事情が悪かったということだろうか。
その後、17世紀には北アメリカ大陸へオート麦が伝わったが、
ここでもやはり食用とはされず、これが食用にされるのは
19世紀になってからのことで、そのころぐらいから料理本の中には、
いくつかの「オートミール」のレシピが紹介され始めている。

オート麦を工業的にフレークに加工するようになったのは、
19世紀後半、1870年代のころのことである。
現代でも代表的なロールドオーツ(オート麦の押し麦)が発明されると、
様々な会社が「オートミール」の大量生産を開始した。
それに伴い、19世紀末にはアメリカ国内において、
急速に「オートミール」は普及していくことになった。

日本に「オートミール」の製法が伝わったのは、明治時代といわれている。
もともと土壌改良用の作物として、北海道を中心に大量に生産されていた
燕麦であるが、やはり他国と同じように、
そのほとんどが馬などの飼料とされていたようだ。
日本ではほとんど馴染みのない食品だったが、
昭和天皇が朝食に召し上がっていたという話もあるように、
昭和の初期ごろには、それなりに広まっていたようだ。

さて、この「オートミール」だが、自分がよく行くスーパーで、
かなり安価で販売されていた。
なんと500g入りで100円ほどである。
これは最低ランクのコメよりも、さらに安い価格である。
実際に買ってこれを作ってみたが、「オートミール」に対して
2倍か2.5倍の水を入れてかき混ぜ、電子レンジで3分ほど加熱すれば
あっというまに粥状の「オートミール」が完成する。
正直、インスタントラーメンなんかより、よほど作るのが簡単だ。
水と一緒に顆粒ダシを入れ、出来上がりにすりゴマ、ダシ醤油で味付けすれば、
全く普通のお粥のように食べることが出来る。
インスタントラーメンと違い量の調整が可能で、
かつ普通にコメでお粥を作るのに比べ、20分の1以下の時間で出来る。
なるほど、これは合理主義のアメリカで用いられるわけだ。

ただ、出来上がった粥(?)の味は、やはりコメには及ばない。
この辺りが、日本でいまいち流行らない理由だろうか?

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