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時事 植物

葉ボタン

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先日、地区の神社の正月準備に駆り出された。

この手の「役」は、毎年、隣保ごとに割り振られており、
今年は自分の住んでいる隣保が、この「役」にあたったわけだ。
ただ、正月準備とはいっても、まだまだ正月までに時間もあることだし、
本格的な神社の飾り付けや掃除は後日ということになり、
その日は、神社の注連縄作りと、正月飾りの門松を作るだけであった。
自分はその門松づくりの方をメインにやったのだが、
何せ今までに門松というものを作ったことがないため、
地区の古老たちの指導のもと、その他大勢と一緒に黙々と
作業に従事することになった。

さて、いざ門松を作るということで、
まず何より最初にやらなければならないことは、材料集めだ。
適当な太さの竹を数本、それに松などは欠かせないとして、
その他にも、笹、南天などを集めてこなければならない。
これらの物をどこから集めてくるかといえば、近くの山である。
地区の神社からは、歩いて5分ほどの所に里山があり、
そこへ何人かで赴いて、竹を切り出した。
また、自分たちとは別の組が、そことは別の場所から
そこそこの大きさの松の木を切り出してきた。
さらに南天や梅に関しては、誰かの家の庭から切ってきた物が並べられている。
うちの地区は見事な田舎なので、大方の古い家の庭先には
某かの木が植わっているわけだが、どうやらこの南天と梅は
今日来ているメンバーの中の誰かが提供してくれた物らしい。

あらかじめ用意してあったプラスチック製の大きな鉢に筵を巻き、
切りそろえた竹をそこに立てておいてから、土を入れて固める。
門松らしく、竹の切り口は斜めに揃えられ、
真ん中の竹は高く、左右の竹はそれよりも低く切ってある。
その3本の竹の後ろ側に、切り出してきた松を突き刺す。
さらに竹の左右に南天と梅の枝を突き刺すと、
段々と門松がそれっぽい仕上がりになってくる。
うちの地区のすごい所は、これらの材料がそこら辺の山や、
家の庭先に無造作に生えている所だろう。
(もっとも、たつの市のほとんどの地区は、
 うちの地区と同じようなものだと思うが……)
背後に松、左右に南天と梅を配され、3本の竹は門松らしくなってきたわけだが、
もう1つ、門松の仕上がりを華やかにするために用意された物がある。
それが、鉢植えの状態で用意された4つの「葉ボタン」である。
この「葉ボタン」を竹の手前側に植え付けることによって、
殺風景な竹の生え際を、グッと鮮やかに彩ることが出来る。
それぞれに「赤」と「白」の「葉ボタン」を植え付けることにより、
めでたい「紅白」を演出する意図もあるようだ。
ともあれ、地区住民の手によって作られた門松は、
最後に「葉ボタン」を植え付けることによって、
いかにもお正月らしい、華やかな門松へと変身したのであった。

「葉ボタン」は、アブラナ科アブラナ属に属する多年草だ。
我々がよく知る「葉ボタン」は、赤、白、紫といった
大輪の花のような姿をしているが、もちろん、あれは花ではない。
放射状に赤、白、紫の大輪を広げてはいるが、
あれで広がっているのは、文字通りの「葉」であって「花弁」ではない。
では「葉ボタン」の花はどんなものか?ということになるのだが、
我々のよく知る「葉ボタン」をそのまま放置しておくと、
やがて4〜5月ごろには中心部から茎が伸びてきて、
黄色い「菜の花」のような花が咲く。
この「菜の花」の様な花は、アブラナ科によく見られる花で、
同じアブラナ科のキャベツや大根なども、
我々のよく知っている姿のままずっと放置しておくと、
中心部分から茎が伸びてきて、その先に「菜の花」状の花を咲かせる。
もし、これらの植物のタネを採取したいと思えば、
さらにこの状態のまま放置して、タネが出来るのを待たねばならない。
ただ「葉ボタン」をはじめ、キャベツや大根に関しても、
花が咲く前に収穫されたり、あるいは鑑賞期を終えるので、
普通に育てている限りでは、それらの花の姿を見ることはまずない。
キャベツや大根は食べごろになれば収穫されてしまうし、
「葉ボタン」は、その鑑賞時期を過ぎると
さっさと引き抜かれてしまうことが多い。
普通、植物を観賞するということになれば、多くの場合、
その「花」が咲いている時期が最高の鑑賞時期ということになるのだが、
この「葉ボタン」に関しては「花」が咲く前に鑑賞時期が終わってしまうという
ちょっと珍しい植物なわけだ。

タネから「葉ボタン」を育てようと思った場合、
7月〜8月の真夏の時期にタネを播くことになる。
タネを播くと、ものの2〜3日ほどで芽が出てくるが、
大変なのはこれからである。
もともと「葉ボタン」というのは、観賞用のケールが品種改良されたものである。
すなわちキャベツなどと非常に近しい品種ということになるのだが、
当然、その葉は青虫などの害虫の大好物であるため、
放っておくと、あっという間に食い尽くされて全滅してしまう。
そのため、タネを播くのとほぼ同時に、虫に食われないための薬も一緒に
まいておかないといけない。
キャベツなどと違い、葉はあくまで観賞用なので、
残留農薬等にはそれほど神経質にならなくても良い。
現在では、小型の「葉ボタン」を作るために、
成長を抑える矮化剤などを使うこともある。
気温が一定以下になると、着色された葉が出てくる。
それまでは普通に緑色の葉が出るため、
「葉ボタン」の外縁部分は緑色をしているというわけだ。
色が変わった後も、肥料が効きすぎたり気温が上がったりすることで、
葉が緑色になったり、キャベツなどのように葉が丸まろうとすることもある。
仮にキャベツのように結球した場合、外側に緑の葉が来るため
キャベツそのままの見た目になってしまうのだろうか?
(「葉ボタン」は非結球性のケールから改良されたため、
 恐らくそこまでキッチリとは結球しないと思うが……)

先にも書いた通り、「葉ボタン」の祖先はケールである。
ケールはブロッコリーやカリフラワー、キャベツなどの原種でもあり、
紀元前から自生していたともいわれている。
このケールが日本に伝えられたのが18世紀の江戸時代初期。
ただ、食用としては栽培されず、主に観賞用として栽培されていたようである。
江戸時代のうちに観賞用植物として広まり、
品種改良も盛んに行なわれていたようだ。
ただ、ケールを観賞用として栽培し、品種改良まで加えたのは
日本だけらしく、現在では様々に品種改良された「葉ボタン」が
海外へ輸出され、栽培されている。
まさに日本独自の「美」であったわけだ。

ケールの仲間、なんていうことになると、
ひょっとして「葉ボタン」って、食べられるの?と考える人もいるだろう。
もちろん「葉ボタン」は食べることも出来るが、
もともと味については全く顧みることなく品種改良されたため、
その食味は良いとは言い難いようだ。
かつての「青汁」はケールを主原料に作られていたが、
TVCMで「う〜ん、マズい」といっていたとおり、
食用として作られたケールを原料にしても、それほど美味しくはなかったわけだ。
そんなケールを「見た目」だけで改良したわけだから、
そりゃあ、美味しくなろうはずもない。
ただ、ケールでそうしたように「葉ボタン」も「青汁(青くないが……)」に
加工して販売すれば、マズいのはある程度、目をつむってもらえるかも知れない。

ただ商品名が「赤汁」だの「白汁」だの「紫汁」だのと、
やたらカラフルになるのは間違いない。

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