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パイ

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日本で一般的に知られる「パイ」というのは、
サクサクと焼き上がった薄い小麦粉の生地が、
何層にも重なっているものである。

概ね、名前に「パイ」という名前が入っているものは、
この手の、サクサクの生地が使われていると考えていい。
ベーカリーで「パイ」という名前のついているパンは、
もれなく、このサクサクタイプのパンになっているし、
スーパーのお菓子売り場などで
「パイ」という名前のついているお菓子も、
やはりこのサクサクしたタイプものが、多いようである。

だから日本人は、「パイ」という言葉を聞くと、
ついつい、あの薄い生地が何層にも重なったサクサクしたものを
思い浮かべてしまうのだが、実はこれは世界基準でいう「パイ」の
認識と少しずれてしまっている。
では、世界基準的な「パイ」の認識は?ということになるのだが、
これは「小麦粉とバターなどから作った生地(パイ生地)に、
甘く煮た果実類や、ナッツ類、食肉類その他を包み込むなどして、
オーブンで焼き上げた菓子、あるいは料理」ということになる。
生地に関しては、小麦粉とバターなどから作ったとあるものの、
薄い生地が何層にも重なったサクサクしたもの、という様な定義は無く、
むしろ生地で、何らかの具材を包み込んで焼いたものという所が、
「パイ」としての、欠かせない条件ということになる。

ところが、日本の「パイ」菓子を見てみると、
ここの条件を全く満たしていないものが、結構ある。
その代表的な例が「リーフパイ」と呼ばれるものだ。
これは、いわゆるパイ生地だけを木の葉型に成形して、
オーブンで焼き上げた焼き菓子である。
もちろん、中に何かを包み込んで焼いているなんていうことは無く、
あくまでもパイ生地のサクサクした食感を楽しむものである。
認識としては、「パイ」というよりは「クッキー」の一種とした方が
その本質を捉えているかも知れない。
これなどは世界的にいえば「パイ」としての基準を満たしていないのだが、
どういうわけか、日本では「パイ」ということで通用している。
どうして日本では、これを「パイ」と呼ぶか?ということになるのだが、
これに関して、ほとんどの日本人がこう答えるだろう。
すなわち「パイ生地を使っているから」。

では、そもそもの所、パイ生地とは何なのか?

先に書いた世界基準的な「パイ」の定義でいえば、
その生地については「小麦粉とバターなどから作った生地」としか
書かれていない。
この手の生地につきものの砂糖や塩、卵や牛乳、
もっと極端なことを言えば、水についても触れられてはいない。
もちろん、それらの材料については、作る人によって
入れたり入れなかったりすることもあるのだが、
決して欠かすことの出来ない材料というのは、
小麦粉とバターだけということである。
パンなどの場合は、小麦粉と水ということになるので、
小麦粉とバターという組み合わせは、
どちらかといえば「クッキー」のそれに近いかも知れない。

それに比べ、日本でいう所のパイ生地というのは、独特である。
焼き上げると、サクサクとした薄い層が何重にも重なった
特徴的な仕上がりになる。
これは、生地の作り方に秘密がある。
パイを作るためのパイ生地には、大きく2つの種類があり、
1つは小麦粉とバターを練って作った練りパイ生地、
もう1つは小麦粉、水、バターで作った生地でバターを包み、
これを伸ばして折り畳むという行程を繰り返して作る、
折りパイ生地である。
これはフランスではパート・フィユテと呼ばれる。
フランスの有名なパンであるクロワッサンなども、
この、バターを包み、生地を伸ばして折り畳んだ生地で作られている辺り、
フランスではメジャーな技法なのだろう。
ともかく、日本にパイ生地として伝わってきたのは、
この折りパイ生地であった。
これは日本の洋菓子の歴史に関係しているようだ。
明治維新を迎え、外国の様々な文化が日本に入ってくるようになり、
一番最初に日本に持ち込まれた洋菓子は、フランスのものであった。
後にドイツ菓子なども持ち込まれたが、
イギリスの菓子はほとんど持ち込まれず、
アメリカの菓子も戦前ごろまでは、かなり限定的だったようだ。
つまり、初期のころの日本の洋菓子は、フランスの影響を色濃く
受けていたことになる。
やがてアメリカなどから「アップルパイ」なども持ち込まれたが、
これを作るためのパイ生地として使われたのは、
アメリカで一般的な練りパイ生地ではなく、
すでに日本で「パイ生地」として定番化していた
フランスの折りパイ生地だった。
こうして、日本で作られる「アップルパイ」は、
アメリカとは違う、折りパイ生地で作られることになった。
いわば、フランスとアメリカのハイブリットパイなわけだ。

さらに日本のパイは、独自進化を遂げる。
先にも書いたように、本来の意味でのパイは
その生地を指しているのではなく、生地で果物類やナッツ類、
さらには肉類などを包んで焼いた、料理そのものを指していたのだが、
日本では、その生地こそが「パイ」であると思い込んでしまったのだ。
そのため「リーフパイ」のような、一種の「クッキー」形式の
何も包んでいない「パイ」が生み出されることになった。
これなどは正に、日本だけで独自進化した、
いわゆるガラパゴス「パイ」といってもいいだろう。
時代が進み、この辺りの細かい情報が入ってくるようになっても
この「パイ」=「サクサクした薄い生地が何層にも重なったもの」という
思い込みは解消されていない辺り、フランスから伝わった折りパイ生地は
よほど日本人の好みにあっていたのだと思われる。

今回は、世界と少しずれている日本の「パイ」について書いてみた。
次回は、この「パイ」の中でも、世界的に有名なものの1つ、
「アップルパイ」について書いてみる。

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