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白い彼岸花

更新日:

先日、自転車で走っていると、
ある民家の庭先に、1本だけ彼岸花が咲いていた。

秋のお彼岸の時期であるから、彼岸花が咲いていること自体は
不思議なことでも何でもないのだが、
その彼岸花には、他の彼岸花と異なる大きな特徴があった。
そう、その彼岸花は「白い」彼岸花だったのである。

この時期、ちょっと田舎を走ってみれば、
そこかしこに、彼岸花を見ることが出来る。
毒々しいまでの赤い花が、河原、畦、川の土手、墓場などを
埋め尽くす様な勢いで咲き誇っている。
彼岸花というのは面白い花で、
地面から茎だけが何本も伸びてきて、
その先に真っ赤な花だけが咲く。
普通の植物には、茎と花の他にも枝や葉があるものだが、
彼岸花には枝も葉も存在していない。
だから世の中には、彼岸花は「葉」を持たない植物だ、
なんて風に思っている人が、居るかも知れない。
これは間違いである。
……。
いや、間違いも何も、実際、彼岸花には葉が無いじゃないか、
そう突っ込まれそうだ。
実は秋のお彼岸のころ、つまり彼岸花が咲き誇っている今の時期、
確かに彼岸花に葉は存在していない。
だが、彼岸花が全て枯れてしまった後、
同じ場所をよくよく見ていると、深緑色のツヤのある細い葉が
わさわさと大量に生えてくる。
実はこれこそが、彼岸花の「葉」なのである。
この「葉」は、晩秋のころから春先まで生えており、
春になると全て枯れてしまう。
そう。
彼岸花は花が咲く時期と、葉が生い茂る時期が、
完全に別れてしまっているという、おかしな植物なのである。

話が逸れた。
今回のテーマは、白い彼岸花だった。

その日、自転車で走っていた自分は、
それこそ何万本もの彼岸花を見た。
しかし、その何万本もの彼岸花はすべて「赤い」彼岸花で、
「白い」彼岸花は、その民家の庭先で見た1本のみであった。
もし、これが全く新しい新種、なんていうことになれば、
ものすごいことなのだが、
後で「白い 彼岸花」というキーワードでネット検索してみると、
何枚もの「白い彼岸花」の写真が表示された。
残念ながら、新種発見とはいかなかったようだ。
ただ、これまでに一度も「白い」彼岸花を
見たことがなかったことを考えると、
やはりこれは、相当に珍しいものらしい。

この「白い」彼岸花は、その名をシロバナヒガンバナという。
漢字で書くと「白花彼岸花」となる。
名前の中で「花」が2つ重なっているので、
ちょっとミョーな響きに感じてしまう。
シロバナマンジュシャゲ(白花曼珠沙華)とも呼ばれるので、
あるいは、こちらの方が元の名前で、
「白花彼岸花」は、この「曼珠沙華」を馴染みの深い読み方の
「彼岸花」に置き換えただけのものかも知れない。
いっそのこと「シロヒガンバナ」とでもしておけば、
おかしな感じもなくなって、いいかもしれない。
この「白花彼岸花」、
我々の良く知る「赤い」彼岸花の同種ではなく、
近縁種ということになっている。
実は彼岸花の色違いの中には、「黄色い」彼岸花があり、
これはショウキズイセンと呼ばれる。
これもやはり彼岸花の近縁種で、
この黄色いショウキズイセンと、赤いヒガンバナの交雑種が、
白い「白花彼岸花」なのである。
黄色い彼岸花と、赤い彼岸花が交わるのだから、
オレンジ色の彼岸花でも生まれてきそうなものなのだが、
花の交雑というのは、絵の具の様にはいかないらしい。
(実は「オレンジ色の彼岸花」というのも存在する。
 その名をキツネノカミソリ(狐の剃刀)というのだが、
 こちらの方は白花彼岸花ほど、花の形が彼岸花に似ていない)
そういう事情から言えば「白花彼岸花」は、
彼岸花の子孫という風に見ることも出来る。

日本では、非常に数の少ない「白花彼岸花」なのだが、
その少ない中でも、細かく品種が別れており、
それぞれ「アルビフロラ」、「エルアジエ」、「フォーン」と
呼ばれている。
田舎に住んでいれば、秋になると
そこら辺からいくらでも生えてくるため、
「彼岸花」を栽培するというのは、ちょっと考えつかないのだが、
世の中には、これを栽培している人もいる。
そこら辺にいくらでも生えている、という点を考えなければ、
なるほど、確かに色鮮やかで、形もいい花には違いない。
そういう「彼岸花愛好家」の間では、
先に書いた様な「白花彼岸花」が、好んで栽培されるという。
普通の「彼岸花」では、全く珍しいものではないが、
それが「白い」ということになると、途端に希少価値が出てくる。
自分が見た「白花彼岸花」も、民家の庭先(というか花壇?)に
生えていたため、ひょっとすると栽培されていたのかも知れない。

珍しい「白花彼岸花」が、細かく品種が別れているのに対し、
日本各地に自生している「赤い」彼岸花は、全て同一の品種である。
と、いうよりは遺伝的に同一ということなので、
もとは一株だけ持ち込まれたものが、
人の手などで徐々に広まっていき、
日本中に広がった、という説もある。
本場・中国の彼岸花の遺伝状況がどうなっているのか、
ちゃんとしたことは分かっていないので、
はっきりと言い切ることが出来ないが、
ヒガンバナとショウキズイセンの交雑種が、
複数の品種を生んでいるところを見ると、
ひょっとしたら「白花彼岸花」は日本で生まれたものではなく、
中国など、海外で生まれたものが、
日本へ持ち込まれた可能性が高い。
普通の(赤い)彼岸花は、全草に毒を持つ有毒植物で、
虫、ネズミ、モグラなどがこれを忌避する性質を持つことから、
それを利用すべく、日本へ移入されたと考えられているが、
「白花彼岸花」については、純粋に鑑賞目的として
持ち込まれたと考えていいようである。
(ちなみに「赤い」彼岸花の鱗茎は、特に毒が強いのだが、
 これを水に晒しておけば毒が抜け、
 食べることが出来るようになる。
 そのため、彼岸花が一種の救荒食物として、
 日本へ持ち込まれたとする説もある。
 恐らくは、害獣忌避・救荒食物、その両方の目的を兼ねて、
 日本へ移入されたのだろう。
 先に述べたように、彼岸花の鱗茎は水に晒して毒を抜けば
 食べることも出来るが、毒にやられれば死ぬこともあるため、
 軽々に試してみるのは、止めておいた方が良いだろう)

「彼岸花」は、その名の通り、
「死」を連想させる花として、マイナスイメージが強いが、
もし「白花彼岸花」が「彼岸花」と同じくらいに繁殖し、
その割合が半々くらいに至るようなことになれば、
これは「紅白」ということになり、
「おめでたい」ということになる。
毎年、水田が黄金色に染まり始める彼岸のころ、
豊作を祝うように、畦を紅白に彩る「赤」と「白」の彼岸花が
見られるようになれば、
暗い彼岸花のイメージも、180度変わってしまうかも知れない。

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