ちょっと前に、「あかし玉子焼き」が、
東京で開催された「B1グランプリスペシャル」において、
ゴールドグランプリに輝いたことを書いた。
実は、そのニュースを伝えたニュースサイトの片隅に、
こんな記事も載っていた。
「B1「かつめし」奮闘も… 知名度不足痛感」
今回、開催された「B1グランプリスペシャル」に、
明石市と同じ、兵庫県内の自治体である加古川市も出場しており、
奮闘してみたものの、上位入賞を果たせなかった、
という記事であった。
明石市が、ご当地グルメである「あかし玉子焼き」を
前面に押し出して、アピールしたのと同じように、
加古川市も、ご当地グルメである「かつめし」を
前面に押し出し、これをアピールしたのであるが、
残念ながら「かつめし」の知名度不足も相まって、
上位入賞は果たせなかったようである。
「明石焼」の回で書いたように、
「あかし玉子焼き」は、江戸時代から続いているご当地グルメで、
「たこ焼き」の元にもなった、由緒あるメニューである。
もちろん「たこ焼き」に比べれば、遥かに知名度は低いものの、
明石市の名物として、それなりにネームバリューを得ている。
だが、残念ながら加古川市の「かつめし」は、
まだまだそこまでのネームバリューを、
手に入れていなかったようである。
もちろん、今回行なわれた「B1グランプリスペシャル」は、
それぞれのメニューに投票するのではなく、
それを推している町に、行ってみたい、住んでみたい、と、
思わせなければならないという、趣旨で開催されていた。
つまり、単純なメニューの善し悪しではなく、
それも含めた、自治体としてのアピールが、結果を左右したわけだ。
明石市には、ご当地グルメである「あかし玉子焼き」はもちろん、
その他にも、明石の鯛、タコなどの海産物という、
全国的にも良く知られているアピールポイントがあったので、
その辺りのことも、ゴールドグランプリに
大きく関係しているのでは無いだろうか?
そういうわけで、今回の「B1グランプリスペシャル」では、
ちょっと残念な結果に終わってしまった
加古川市と「かつめし」だが、
そもそも、「かつめし」って、なんだ?と、思っている人も
いるのではないだろうか?
もちろん「B1グランプリスペシャル」において、
加古川市のご当地グルメとして、アピールしていたわけだから、
食べ物には違いないのだが、
それが具体的にどういうものか?ということになると、
意外と良く知らない人も、多いのではないだろうか?
加古川市では、かなり有名な「かつめし」であるが、
ご当地である加古川市を離れてしまうと、
存外、これを扱っている飲食店は少なく、
我がたつの市まで来てしまうと、
これを食べることのできる店は、1軒も無いようである。
仮に、自分が「かつめし」を食べてみたいと思った場合、
姫路市まで出て行かなければ、これを食べることは出来ないのだ。
さて、ひとことで「かつめし」と言っているが、
これは具体的には、どのような食べ物なのだろうか?
「かつめし」の定義によれば、
洋皿の上に持ったご飯の上に、ビフカツ(またはトンカツ)をのせ、
タレ(主にドミグラスソースをベースとしたもの)をかけ、
茹でたキャベツを添えたもの、とある。
早い話、「カツ」ののった「飯」だから、「かつめし」なのである。
「かつめし」というワードで、画像検索してみると、
茶色いソースがタップリとかかった、カツの写真が出てくる。
ソースがたっぷりかかっていて、
カツの下のご飯が見えないこともある。
「かつめし」の定義によれば、
ドミグラスソースをベースにした「たれ」とあるのだが、
アレンジのやり方によるのか、「たれ」の色は
オレンジ色っぽいものから、どす黒いものまで、様々である。
それが、カツとご飯にベットリとかかっていて、
いかにもウマそうだ。
これが、加古川市内の食堂や喫茶店など、
100店舗以上で食べられるらしい。
(喫茶店などの中には、「かつめし」と名付けず、
「カツライス」としている所もある)
100店舗もある「かつめし」取扱店の中には、
それぞれに独自のアレンジを加えている所もあり、
ビフカツ・トンカツ以外に、チキンカツや海老フライをのせたり、
ソースに独自のアレンジを加えてあったり、
茹でたキャベツの代わりに、生のキャベツやポテトサラダを
添える店もあるという。
この辺りのいい加減な所は、いかにも「B級」感が漂っている。
さすがに海老「フライ」をのせるのは、
「かつめし」では無くなってしまうのではないかと思うのだが、
そこら辺もOKらしい。
基本的には、皿の上にのせたご飯の上に、カツをのせ、
それにソースをかけたものなので、
本格的なものにこだわらなければ、
家庭でも簡単に作ることが出来る。
上にのせるカツは、スーパーの総菜コーナーに行けば、
トンカツくらいは常備してあるし、
ソースにしても、ウスターソースとトマトケチャップをベースに、
色々な調味料を加えていけば、
それっぽいものに仕上げることが出来る。
「かつめし」の本場である、東播磨一帯のスーパーなどでは
「かつめしのタレ」なる商品も販売されており、
これらを使えば、さらに簡単に「かつめし」を作ることが出来る。
添え物のキャベツも、面倒くさければ、生のまま添えればいい。
実際に、加古川市を中心とした東播磨地方では、
家庭で作ることも、一般的なことらしい。
さらに学校給食や、高校の食堂のメニューに取り入れられているなど、
行政の方からも、積極的に「かつめし」を取り入れていこうと
しているようである。
(さらに加古川市内では、ご当地バーガーとして、
「かつめしバーガー」なるものも販売されている。
パンで挟んだら、すでに「めし」じゃないんじゃないの?と、
思ってしまうが、これはバンズをライスに代えた、
ライスバーガーとして作られている)
この「かつめし」が最初に考案されたのは、
加古川駅前にあった「いろは食堂」という、洋食屋だったらしい。
創業が1947年となっているので、
戦後、間もなく開店した店のようだ。
当時の加古川では、洋食の食堂というのは大変珍しく、
地元・加古川のみならず、稲美、小野、加西、姫路と、
周辺の町からも客が来ていたらしい。
この店の人気メニューだったのが「ビーフカツレツ」で、
これは昨今の「ビフカツ」、つまりトンカツの牛肉版ではなく、
「赤味ステーキ肉のパン粉焼き」という、本格的なものだったようだ。
これに特製のタレをかけ、野菜とご飯を別皿に盛って、
客に供されていた。
典型的な、洋食屋スタイルである。
ところがある日、余りの客の入りに、
ついに皿が足りなくなってしまった。
そこで、オーナーが窮余の一策として、
「ご飯のお皿の上に、一口大に切ったビーフカツをのせて、
特製のタレをかけて出そう」
と言い出した。
……。
わりとムチャなことを平気でやる人物だったのか、
もはや、なりふり構っていられないほど、忙しかったのか?
ともあれ、こうして「かつめし」は誕生した。
さらに、もう1つの大きな特徴として、
従来のようなナイフとフォークではなく、箸で食べるようにした。
ひょっとしたら、お皿が足りないのと同時に、
ナイフとフォークも足りなくなっていたのかもしれない。
普通、この手のムチャは、1回やれば次はやらないものだが、
これ以降、「かつめし」がメニューに加わった所を見ると、
お客さんの評判も、相当良かったのだろう。
これがこの後、徐々に市内へと広がっていき、
ついには、加古川市の誇るご当地グルメと、
いわれるまでになったのである。
この「かつめし」誕生の店「いろは食堂」は、
残念ながらすでに閉店してしまったのだが、
後に店主の親族によって、同じ屋号の店が復活している。
さらに、同じく親族の経営している「かつめし」専門店もあり、
親族の経営している肉屋では、
「牛かつめしセット」を通信販売しているもあるので、
元祖の味を味わいたいのであれば、
これらを利用してみてもいいだろう。
さて、この「かつめし」を擁した加古川市は、
今回の「B1グランプリスペシャル」において、
残念ながら上位入賞を果たすことが出来なかった。
だが、今回、ゴールドグランプリに輝いた「あかし玉子焼き」も、
(正確には明石市だが……)複数回のチャレンジの末、
今回の栄冠を手に入れている。
これからも積極的に「かつめし」のアピールを推し進め、
いつか、B1グランプリを制してほしいものだ。