
By: 弘明 飯塚
墓場をじっと眺めていると、色々な発見がある。
概ね、四角柱型の墓石である。
しかし、よーく見てみると、墓石の中に先端が尖っているものがある。
古い墓場なら、大抵、いくつかある。
これは仏教ではなく、神道のお墓である。
よく、先の尖った墓石は「戦没者」のお墓だといわれる。
これも、ある意味で正しい。
「戦没者」、つまり戦争で亡くなった兵士は、
当時、仏式ではなく神式によって葬られていたのだ。
「戦没者」は皇民、ということになっていたので、
たとえ家の宗派が仏教であったとしても、神式の墓が建てられた。
どうしてそんなことが……、と思われるかもしれないが、
それだけ戦前・戦時中は、神道の権威が高かったということだろう。
この尖り型以外で目立つのが、五輪塔型だ。
五輪塔型は、球形、立方体、四角錐の石材を組み合わせたもので、
パッと見た感じは、石灯籠に似ている。
これは歴史の長い、古い墓に使われ、
ノーマルな四角柱型と併設されていることが多い。
まだ新しいお骨は四角柱型に納め、
一定期間を過ぎたお骨は、五輪塔型の墓に移す場合もある。
そしてもっとも多いのが、四角柱型の墓石だ。
これは、改めて説明するまでもないだろう。
日本の墓石の80%以上は、この四角柱型である。
最近は、これだけではなく、オーダーメイドデザインのお墓もある。
さすがに、奇抜なデザインのものは少ないが、
それでも、今までの我々の常識からいえば、
考えられないようなデザインの墓石もある。
墓石の形も様々であるが、墓石に刻まれている文字も、
宗派によって、かなり違いがある。
ここで、墓石に刻まれている文字の代表的なものを、いくつか挙げてみる。
・○○家の墓
・先祖代々の墓
・南無阿弥陀仏
・南無妙法蓮華経
・南無大師遍昭金剛
・南無釈迦牟尼仏
・○○家奥津城
などが、日本の墓地でよく見かけるものだ。
「○○家の墓」と「先祖代々の墓」は、宗派を問わず、どの宗派にも見られる。
ただ宗派によっては、梵字が刻まれていたり、「妙法」「妙法蓮華経」などと
刻まれていることもある。
一般的には、もっとも多いタイプだ。
次に多いのが、「南無阿弥陀仏」と刻まれているタイプだ。
これを採用している宗派は多く、
浄土宗、浄土真宗、天台宗などが、これにあたる。
地域によっては、「○○家の墓」よりも多い所もある。
浄土宗系では、「阿弥陀如来」を主に信仰しているために、
それを信仰する「南無阿弥陀仏」の文句を刻む。
「南無妙法蓮華経」と刻まれているものもある。
中には「南無」が無く、「妙法蓮華経」だけのものもある。
「妙法蓮華経」というのは、主に日蓮宗系で信仰されている経典だ。
略して「法華経(ほけきょう)」と呼ばれることもある。
これは主に日蓮宗系の宗派である。
日蓮宗、日蓮正宗、創価学会などは、このタイプである。
「南無大師遍昭金剛」と刻まれているのは、真言宗だ。
この「大師遍昭金剛」というのは、真言宗の開祖・弘法大師空海のことだ。
「南無釈迦牟尼仏」と刻まれているのは、禅宗だ。
日本では、曹洞宗と臨済宗がこれにあたる。
「釈迦牟尼仏」とは釈迦の尊称である。
つまり仏教における開祖、お釈迦様の名前を刻んでいるわけだ。
「○○家奥津城」と刻まれているのは、神道の墓石だ。
先に書いた通り、墓石の形も、他のものとは違っている。
「奥津城(おくつき)」というのは、仏教でいう所の「の墓」と同じ意味になる。
もちろん、必ずこの文字を刻んでいるということもなく、
ごく普通に「○○家の墓」と刻まれていることもある。
そういう場合、墓石の文字から宗派を推測することは難しい。
仏壇があるような家でも、存外、自分の家の宗派を知らない人は多い。
前に友人に
「自分のうちの宗派がわからない」
と言われたことがあったが、聞いてみると、
墓石には「南無阿弥陀仏」と刻まれているという。
少なくとも、それだけわかれば、浄土宗、浄土真宗、天台宗のどれかだろうと、
アタリをつけることはできる。
昨今、葬儀場でお葬式を執り行うことは、普通のことになっているが、
その場合、一番最初に「宗派」を聞かれる。
身内が亡くなって、心中穏やかではないかもしれないが、
「宗派」によって飾る花や、祭壇の形、式の流れも変わってくるので、
知らないではすまされない。
まだまだうちは両親が健在だから、などと余裕ぶっていても、
不幸というのはいつ、どういう形でやってくるのか、誰にもわからない。
自分の家の「宗派」がわからないという人は、
墓や仏壇を調べ、自分の「宗派」がどこなのか、はっきりさせておこう。
そんなの親に聞けばいいじゃないの、と思われるかもしれないが、
意外に次の埋葬予定者たちに、「そういうこと」は聞きにくいものである。