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植物 雑感、考察

キンモクセイ

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By: snak

毎年、この時期になると、
我が家にキンモクセイの香りが漂ってくる。

ちょうど隣家の庭先にキンモクセイが植えられていて、
これが花をつけるためである。
ご存知の通り、この花はかなり香りが強く、
家の中にいてさえ、その香りが漂ってくることがある。
ちょっと甘さを感じさせる、独特の芳香。
個人的な好みを言えば、ちょっと香りが強すぎる気がするので、
我が家の庭には、植え付けようとは思わないのだが、
世間の人々はこの香りが大好きらしく、
自転車で市内を走っていると、あちらの家の庭先からも
こちらの家の庭先からも、キンモクセイの香りが漂ってくる。
香りが漂ってきて、周りを見回してみると、
大方、どこかの家の塀の上に伸びた庭木に、
あの小さい黄色い花が咲いている。

キンモクセイは、モクセイ科モクセイ属に属する常緑樹だ。
強い芳香を放つキンモクセイは、庭木として人気の高い植物だが、
鉢植えで栽培されることもある。
実はギンモクセイという品種の変種で、
こちらにもやはり芳香があり、白い花をつける。
良く分枝するため、こんもりとした樹型に育ち、
樹高は3~6mほどになる。
葉は長楕円形で、葉先は細く尖っている。
空気の汚染に弱い植物で、空気の汚れたところでは
花がつかないこともある。
日本では公害による大気汚染のひどかった高度経済成長期、
花の咲かないキンモクセイが多かったという。
あれだけ強い芳香を放つキンモクセイが、
空気の汚染に敏感だと言うのは、なんとも面白い話である。
ひょっとすると、あの香りと空気のコンディションには、
何らかの因果関係があるのかも知れない。

キンモクセイは、漢字では「金木犀」と書く。
「金」というのは、花の色を指しているので、
「木犀(モクセイ)」というのが、木の名前となる。
「犀」という字は、「固い、鋭い」というい意味があるそうなので、
「木犀」というのは、「固い木」という意味なのだろうか?
原産地は中国で、江戸時代に日本に持ち込まれたため、
「金木犀」という名前と字は、
江戸時代以降につけられた可能性が高い。
珍しい「犀」の字を使っている辺り、
ある程度、字に精通した人物の名付けかも知れない。
さらに注目すべきは、ただ「木犀」ではなく、
「金木犀」と名付けられたことだ。
これは、他に「銀木犀」が存在していることを知らないと、
思いつかない名前だ。
ひょっとすると、ギンモクセイもキンモクセイと同じ時期に、
日本に持ち込まれたのかも知れない。
ただ、現在のキンモクセイの普及ぶり、
ギンモクセイの数の少なさを省みてみると、
その香りについては、キンモクセイの方が
日本人の好みにはあっていたようである。
ちなみに、キンモクセイは中国語で「丹桂」となる。
「丹」というのが橙色、
「桂」がモクセイ類を指している。
中国に「桂林」という地名があるが、
これは「桂」の木が、多く生えていることからつけられた。
一説によれば、この「桂林」こそが、
キンモクセイの原産地だともいう。
「桂林」ではこの時期、むせ返る様なキンモクセイの香りに
包まれているのかも知れない。
洋名は「オスマンサス」。
これは直訳すれば、「香りの花」となる。
洋の東西を問わず、キンモクセイは「香り」の植物と
認識されているらしい。

さて、独特の「甘い」香りが特徴的なキンモクセイだが、
さぞかしその「実」も、甘くて美味しいのだろう、
と思ってしまうが、実は日本のキンモクセイに実はつかない。
(厳密にいえば、実のつくキンモクセイもあるかもしれないが、
 その数は非常に少なく、中にはキンモクセイが
 実のならない植物だと思っている人もいる)
「日本の」と、わざわざ書いてあるところから、
じゃあ、よその国のキンモクセイには実がつくのか?と言われれば、
実は、ちゃんとよその国(中国など)では、
キンモクセイは「実」をつける。
え、じゃあ何故、日本のキンモクセイに「実」がつかないのか?
ということになるのだが、実は日本に生えているキンモクセイは、
全ての株が「雄株」なのだ。
当然、「実」がつくのは「雌株」ということになり、
我が国には「実」のつくキンモクセイは無い、ということになる。
……。
いやいや、「実」と「種」がなきゃ、子孫が残せないじゃん、
という突っ込みも入りそうだが、
キンモクセイは挿し木によっても増やすことが出来るため、
これによって、日本のキンモクセイは子孫(?)を残している。
(正確には、クローンといったほうがいいかも知れないが)
つまり、日本中に生えているキンモクセイは、
「甘い」香りこそ放っているものの、実は全て男性で、
しかも皆、同じ顔をしている、と思ってもらえばいい。
人間で考えれば、かなり不気味な話になるが、
こういう例は、植物の世界では良くある話なのである。

日本で見かけることの無い、キンモクセイの「実」だが、
いくら調べてみても、その味についてはわからなかった。
というよりは、食べれるのかどうかについても不明であった。
その代わり、というわけではないのだろうが、
キンモクセイの「花」については、茶、酒、ジャムなど、
様々に加工されているようだ。
本場・中国では、この他にも芙蓉蟹(かに玉)、
豆腐、火腿(ハム?)、餅やお菓子にもキンモクセイの「花」が
使用されているものがある。
食材として使われる他に、漢方薬としても用いられている。

日本では、その強い香りで「便所」の臭いをごまかすため、
「便所」の近くに植え付けられることが、多かったらしい。
昨今では、下水道と水洗トイレの普及によって、
「便所」から悪臭が漂ってくるということも、無くなったが、
そういう経緯のせいか、一時はトイレの芳香剤にも、
合成されたキンモクセイの香りが用いられることがあった。
だから現在でも、キンモクセイの香りを嗅ぐと、
「トイレの芳香剤」の香り、と表現する人もいる。
(もちろん、そんなに人数はいないと思うが……)

だが、このまま時代が進んでいけば、
キンモクセイとトイレを結びつける様なことも、
行なわれないようになっていくだろう。
キンモクセイにとっては、
自身に何の落ち度も無く植え付けられた悪いイメージが、
ようやく払拭されるということになるはずである。

そういうことになれば、日本でももう少し、
キンモクセイを食べる、ということが、
行なわれるようになるかもしれない。

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