現在、日本では戦艦の代名詞ともなっている「大和」。
しかし、当の太平洋戦争中は、一切が軍事機密扱いで、
その存在すら国民には知らされていなかった。
これが一般に知られるようになったのは、
戦後、新聞や雑誌といった紙媒体で、
日本海軍最大の戦艦として
「大和」が取り上げられたためである。
これらの雑誌などによって、
徐々にその知名度を上げていった戦艦大和。
やがて、かつて大和に乗務していた吉田満によって、
戦艦大和の最期を描いた小説、
その名も「戦艦大和ノ最期」が上梓される。
これは、当の大和に乗務し、
最後の戦い「沖縄特攻作戦」に参加した者の手で書かれた、
記録小説である。
そしてこの小説は、これ以降に作られることになる
戦艦大和を題材にした映画やドラマなどにとって、
この上ない第1級の資料となり、
多大な影響を与えることになった。
と、ここまでが、前回の内容である。
今回はこの「戦艦大和ノ最期」以降、
大和がどのように扱われていったのかを書いていく。
「戦艦大和ノ最期」の発行の翌年、
この小説は「戦艦大和」のタイトルで映画化される。
主人公の名前は吉村少尉。
原作「戦艦大和ノ最期」の作者である、
吉田満をイメージしているのは確実だが、
この作品こそが戦艦大和を題材にした、一番最初の映画となる。
これが1953年のことだ。
1960年代に入ると、子供、
それも男の子を対象にした「戦記物」が人気を呼ぶ。
これらは、かつての大日本帝国の栄光を懐古するものであり、
「ゲゲゲの鬼太郎」などで知られる水木しげるも、
この時期、「少年戦記の会」を名乗り、戦記マンガを描いている。
現在ではほとんど考えられないことだが、
1960年代では、これらの「戦記物」は大流行し、
これが戦艦や戦闘機などのプラモデル人気へと繋がっていく。
ただ、これらの「戦記マンガ」は、
作者による独自の解釈が混じることもあり、
必ずしも史実に忠実なものではなかった。
そして、そういった独自の解釈が、
さらに想像力へと変わっていく。
「戦記」を通じて広がり始めた想像の翼は、
1962年、ついに戦艦大和を空へ飛ばすことに成功する。
少年月刊誌「日の丸」に連載された絵物語、
「新戦艦大和」である。
これは戦後の日本が、空を飛んだり、海に潜ったりできる、
「超戦艦大和」を所持しており、
これをもって、日本を狙う悪の侵略者・キラー博士と
戦うというストーリーである。
アニメ「宇宙戦艦ヤマト」よりも以前に、
戦艦大和を飛ばした人間がいたのである。
この「新戦艦大和」の作者は梶原一騎。
そう、「巨人の星」や「あしたのジョー」で知られる、
マンガ原作者である。
「巨人の星」で、ボールを消したり、
増やしたりしたその想像力は、
日本で最初に戦艦大和を空に飛ばしていたのである。
こう言った戦記物(?)の影響もあり、
少年向けの雑誌などでは、戦艦などの特集が組まれるようになる。
そのような状況の中で、ひとつ面白い使われ方があった。
戦艦大和が怪獣になったのである。
……。
何を言っているんだ、と思われる人もいるだろう。
だが実際に、戦艦大和はウルトラセブン第21話、
「海底基地を追え」の中で、ミミー星人によって改造され、
軍艦ロボット・アイアンロックスとなり
ウルトラセブンと戦ったのである。
ただ、このアイアンロックス、
部分部分では、確かに戦艦大和に似通っているものの、
砲塔の数や位置などが、全然違ってしまっている。
艦橋の前だけでなく、
サイドにも1つずつ3連装46㎝砲がついている。
これでは、全く戦艦大和と違う。
(もっとも初期の戦艦大和では、
艦橋の左右に3連装の副砲が設置されていたので、
それに倣ったとも考えられる。
いずれにしても、沈没時の大和が
そのまま出てきたわけではなかった)
さらにこのアイアンロックスは、
下半分が上甲板まで水没しており、
上部構造の一部が水面上に出ているだけで、
戦艦大和っぽくはあったものの、
あきらな別物であった。
また、アイアンロックスの内部には爆弾が仕込まれており、
停止してから15分経つと自爆するようになっていた。
アイアンロックスは鎖でセブンを捕え、
15分後に共に自爆するつもりだったようだが、
ウルトラ一族であるセブンは、3分経つと死んでしまう。
それを考えると、アイアンロックスが自爆するときには
すでにセブンは死んでいるということになる。
(実際には、時間前に鎖から脱出し、
エメリウム光線でアイアンロックスを倒した)
戦艦大和が物語の中で活躍する際は、
正義の味方として活躍する例が多い中、
これは珍しく、大和が悪役であった。
ちなみに、このアイアンロックス、
予算が逼迫していた円谷プロが、
東宝から譲り受けた「戦艦大和」の模型を使って
怪獣を考えてくれ、とデザイナーに頼み、
彼を激怒させたという話が残っている。
たしかに、それではデザインもへったくれも
あったものではないだろう。
さて、今回は1960年代を中心に、
「戦記物」などで取り上げられた大和や、
空を飛んだ大和、怪獣になった大和を紹介した。
次回はいよいよ、大和が宇宙を飛ぶあの話である。