雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

特撮、テレビ 雑感、考察

星雲仮面マシンマン

更新日:

世の中には、
「好きなはずなのに、なんかしっくりこない」
みたいなことが、たまにある。

食べ物で例えると、分かりやすいかも知れない。

・カレーは好きなんだが、シーフードカレーはイマイチ
・牛丼が好きで3食でも食べられるが、○○屋はダメ
・チョコレートが大好きだが、ホットチョコレートはダメ

と、まあ、こんな感じだ。
全体的なジャンルとしては大好きなのだが、
その中の「コレ」がダメ、「アレ」がダメというものである。
もちろん、こういうのは食べ物だけに存在しているわけではなく、
様々なものに、あてはめることが出来る。
そう、自分の好きな「特撮番組」の中にも、
この手のしっくり来ないものが、存在している。
それが、今回紹介する「星雲仮面マシンマン」である。

実は、自分が子供のころ、一度だけだが
この「星雲仮面マシンマン」を見たことがある。
多分、小学生の3~4年生ごろのことだったと思うが、
たまたまTVをつけたら、この番組をやっていて、
そのまま最後まで視聴したのである。
細かいところは良く覚えていないのだが、
ストーリー展開はこのような感じだった。

1・悪人(怪人?)が現れて、悪事を働く
2・子供たちのピンチに主人公が変身、
  ヒーロー(マシンマン)が現れる
3・悪人とマシンマンの対決、マシンマンの勝利

まあ、これだけを見れば、
まことに昭和特撮ヒーロー番組の王道パターンを踏襲している。
だが、この番組がちょっと違っていたのは、その後だ。

4・倒れた悪人に対し、マシンマンが光線を浴びせる
5・すると、途端に悪人が改心し、善人になる。

そう、倒した後の悪人に謎の光線を浴びせかけると、
敵の人格がコロリと変わって、善人になってしまう。
その後のことは、前非を悔いて警察に出頭したのか、
迷惑をかけた被害者たちへの、贖罪と賠償を行なったのかは不明だが、
とにかく、マシンマンは毎回、悪人を善人に変えていたのだ。

これは当時の自分にしては、驚くべきことであった。
それまで自分が見ていた「特撮番組」では、
ウルトラマンにしろ、仮面ライダーにしろ、快傑ライオン丸にせよ、
すべて敵を爆破して倒してきていたのだ。
まれに、敵の中に心を入れ替えるものもあったが、
それらは全て、敵の自発的な精神活動であって、
改心光線(ここからは番組の中での名に従って
「カタルシスウェーブ」と書くことにする)を浴びて、
あっさりと善人になってしまうというのは、
まさに前代未聞の出来事であった。

「星雲仮面マシンマン」は、1984年に放映された
特撮ヒーロー番組である。
主人公であるマシンマンは、アイビー星からやってきた異星人で、
普段は地球人・高瀬健を名乗って生活している。
しかし、ひとたび悪党たちが悪事を始めると、
マシンドルフィンの中でマシンマンに変身し、悪と戦うのである。

こう聞けば、本当に良くある異星人ヒーローものである。
遙か宇宙のかなたから、
地球の平和を守るためにやってきたヒーロー……、
という風に思ってしまうのだが、
実は、彼は地球の平和を守るためにやってきたわけではない。
彼は大学の卒業論文を書くため、フィールドワークの一貫として
地球を訪れ、そこで出会った地球の女性に好意を抱き、
その結果として地球に留まることになるのである。
え、じゃあ別にヒーローじゃないじゃない、ということになるが、
何、あの「ウルトラセブン」だって、
たまたま恒点観測員として地球にやってきて、
そのままヒーローをやっていたのである。
それがアリなら、マシンマンのケースもアリということになる。

さらに地球の平和を、という部分にも語弊がある。
マシンマンが戦っている悪の組織は、
「テンタクル」「オクトパス」というのだが、
彼らは別に世界征服とか、人類抹殺などを目的にしていない。
それぞれの組織の指導者たち(実は叔父と姪)は子供が嫌いで、
子供アレルギーまで患っている。
彼らはその腹いせに、高い科学力で怪人を作製し、
子供たちを「いじめる」のである。
……。
ここまで目的意識の低い悪の組織というのは、
他に例が無いといっていい。
途中、幹部から、子供なんかいじめてないで、
世界征服を目指しては?と勧められるのだが、
その献策をにべもなく却下し、
相変わらずムダに高い科学力を駆使して、
子供たちをいじめるのである。
このブレのなさはすごいのか、すごくないのか。

そういうことであれば、
マシンマンが「不殺」をモットーにしているのも分かる。
相手は高い科学力があるものの、要はただのいじめっ子だ。
これをいちいち殺害していれば、
むしろマシンマンの方が悪人になってしまう。
(ただ、実際には幹部はマシンマンに倒され死んでしまう。
 「テンタクル」の首領はショックのあまり、
 海外へ傷心旅行に出かけてしまう。
 なんという繊細なハートであろうか)
だが、結局ラストでは、追いつめられた首領たちは、
自らを物質分解装置にかけ、消え去ってしまう。
たしかに「殺して」はいないのだが、
どこかモヤモヤとしたものが残る、ラストシーンである。

さて、このカタルシスウェーブで
悪人を改心させるヒーローを目にし、これを母親に話したところ、
その反応は「それは素晴らしい」というものであった。
たしかに悪人とはいえ「命」を奪わないスタイルには、
「星雲仮面マシンマン」という番組のポリシーが感じられるし、
悪人を善人に変える、というのは、まさに奇跡のようですらある。
なるほど「素晴らしい」という評価が出るのも、頷ける。

だが、これは本当に「素晴らしい」ことなのか?

このマシンマンのカタルシスウェーブは、
冷静に考えれば、ただの洗脳光線である。
本人すら納得していないうちに、怪しげな光線で人格を上書きする、
という風に考えれば、これほど恐ろしいことはあるまい。
いくら悪党が相手であるとはいえ、
その人格の一切を否定して別人格を植え付けるというのは、
相手の人格を、人格として認めていないことになる。
この一方的な人格侵害に比べれば、
相手を、自分とどうしても相容れない人格と認め、
殺し合いを持ってでも決着を付ける、他のヒーローの方が、
「敵」としてでも相手の人格を尊重している分だけ、
随分とマシなのではないだろうか?
物語のラスト、敵首領たちが自らの手で
その存在を消す様なマネをしたのも、
カタルシスウェーブによって、自分の人格を壊され、
全く別の人間にさせられてしまうことが、
「死ぬ」ことよりも、忌まわしいことだったからだと思われる。

子供のころは、はっきりとは分からなかったものの、
こうして大人になってみると、「マシンマン」のどこに
自分が違和感を感じていたのかが、よく分かる。
悪人を、無理矢理、善人に変えてしまうカタルシスウェーブが、
どんな殺人兵器よりも恐ろしい、
人格破壊兵器であることを、それとなく感じていたのだ。

そういう恐ろしい一面を秘めているとはいえ、
「星雲仮面マシンマン」自体は、明るくコミカルで、
見ていて楽しい特撮ヒーロー番組である。
あまり予算がなかったのか、その影響が番組の端々に表れているが、
それも含めて、見てみる価値のある作品である。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-特撮、テレビ, 雑感、考察

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.