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21世紀の先住民〜その1

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少し前のニュースになるのだが、
1人のアメリカ人宣教師の男性が殺害される事件が起こった。

11月16日、インド東部北センチネル島に1人の男性が上陸した。
男性はアメリカ人宣教師で、どうやらこの島で暮らしている先住民たちに
キリスト教を布教しようとしていたらしい。
翌17日、島の海岸で先住民たちが男性の遺体を埋めているのを、
男性を島まで運んだ漁師が、沖合に浮かぶ船の上から確認した。
恐らくは16日から17日にかけての間に、男性は殺害されたのだろう。

この北センチネル島には、外部との接触を拒絶する先住民たちが住んでいる。
彼らは近付いてくる人に対して、弓や槍で攻撃を仕掛けてくることで
知られていて、2006年には地元の漁師2人が殺害される事件も起きていた。
そういう事情もあり、島への上陸は厳しく制限されていたのだが、
この宣教師の男性は、その決まりを破ったということになる。

このニュースをはじめて知ったとき、大きなショックを受けた。
おおよそ、現代に起こりうる事件とは思えなかったからだ。
先住民が住む島に不注意に上陸して殺害された、という話はよく聞く。
ただし、あくまでも現代の話ではなく、
本の中などでの「大航海時代」の話としてである。
また、キリスト教を布教しようとやって来た宣教師が殺害された
という話も、わりとよく聞く。
これもまた現代の話ではなく、「バテレン追放令」が出た後の日本、
安土桃山時代後期から江戸時代初期にかけての話である。
どちらも数百年という過去の話であり、
今となっては歴史の教科書の中に書かれているだけの出来事である。
その、歴史の教科書に書かれているような事件が、
この21世紀に発生したのだから、これはやはりショッキングな事件である。

これまでに、現代においても文明との接触を拒絶し、
非文明的な生活を続けている少数部族がいる、という話を聞いたことはあったが、
今回の様に、彼らが事件の主人公としてニュースに取り上げられるというのは、
全く聞いたことがなかった。
偏見と独断に満ちた解釈であろうが、そういう部族は
アマゾンやアフリカのジャングル奥深い場所で暮らしていて、
我々とは日常的な接触をしない場所で生活している、と思っていた。
しかし、今回の事件を受け、事件の舞台となった
「北センチネル島」の所在について調べてみた所、
インドの東・ベンガル湾の東部に位置する
アンダマン・ニコバル諸島の西30kmの位置にある孤島だという。
奥深いジャングルなど、人跡未踏の地に「その」ような部族が
残っているというのなら分かるが、
この位置に浮かんでいる島では、今までに何度も
島外からやってくる他民族と、接触する機会もあったはずである。
そういった場所に存在していて尚、文明との接触を拒絶し続け、
その状態を現在まで保っているというのは、ちょっとした奇跡でもある。
「人権」というものが広く認可されている現代ならばともかく、
そういう認識の薄かった時代を、生き抜いてきたというのは
正直、驚きを隠せない事実である。

この北センチネル島には、センチネル族と呼ばれる先住民が暮らし、
センチネル語という独自の言葉を使うという。
このセンチネル語というのが、近隣諸島の言語と大きく異なっていることから
恐らくは数千年という単位で、島外とは接触せずに暮らしてきたのだと
考えられている。
島外には、このセンチネル語を理解することの出来る人間がいないため、
彼らと会話を通じてコミュニケーションをとることは不可能である。
今回殺害された男性が、そんな島でどうやって
布教を行なうつもりだったのかは全くの謎だが、
あえてそういう相手に布教を行なおうとしたその熱意(?)に関しては、
一定の評価を与えていいのかも知れない。
(それ以前に、様々な理由から上陸を禁止されている島に
 勝手に上陸したことは、厳しく非難されるべき行為であるが……)
センチネル族は、部外者を矢を用いて無差別に攻撃するため、
恐らくはこの男性も矢で射殺されたと思われる。

島内には15〜500人ほどのセンチネル族がいると考えられている。
推定人数にかなりの誤差があるが、センチネル島は
島のほとんどがジャングルで覆われており、
島外から観察しただけでは、どれだけの人数が暮らしているのか
わからないからだ。
恐らく15人というのは、島外から確認できた最大人数、
500人というのは、島の面積などから逆算した、島の産物で養いうる
人間の最大人数という所だろうか?
(島の面積は約72㎢で、正方形をしている。
 おおよそ1片が8〜9kmほどの正方形と考えていいだろう)
このセンチネル族は、狩猟や釣りで食料を確保しており、
主に野生の豚などを飼っているという。
もちろん、電気や水道、ガスなどと言った
近代的な生活インフラは全く存在していないため、
「火」なども、かなり原始的な方法で起こしているのだろう。
それよりも、北センチネル島を地図で確認してみると、
島には川はおろか、池も存在していないようである。
ある程度の広さのある島なので、目立たないだけで
小さな池くらいはあるのかもしれないが、
むしろ飲み水をどうやって確保しているか?という点についても疑問が残る。
ひょっとすると、島には地下水が存在していて、
井戸などを掘ってこれを利用しているのかも知れない。

先にも書いた通り、侵入者(これは外敵だけではなく、調査などに訪れた
人間も含む)に対しては弓矢や石で応じているため、
島内の調査というのは、ほとんど進んでいないというのが現状だ。
この島を管理しているインド側は、1960年以降、
度々、彼らに接触を試みて、食料などの贈り物を運んだりしたようだが、
徹底的に無視され続けた。
1991年になって初めて、行政当局のプレゼントを受け取ったらしいのだが、
やはりそれに対しての反応はなく、警戒は今だ続いているという。
2004年、スマトラ島沖地震に伴う大津波が発生し、
部族の生存が危ぶまれる事態に陥ったらしいが、
その後、調査に向かったヘリコプターに対し弓矢を放つ姿が確認され、
その無事が確認された。
事実かどうかは不明だが、彼らは数万年に渡って北センチネル島に住んでおり、
生活としては石器時代の面影を残しているといわれる。
これがもし仮に事実だとすれば、非常にアレな言い方になるが、
彼らは人類の進化、その過程においての非常に貴重な資料、
サンプルであるともいえるだろう。
インド政府は現在、秘境を秘境のまま保持させる政策をとっていて
「私たちは、現代文明の影響を受けていないセンチネル族を尊重している。
 深刻な自然災害や病気の発生がなければ、
 島に干渉することはないだろう」
と、コメントしている。
島に住む彼らは、外部との接触が少ないため免疫を多く持っておらず、
外界から病気が持ち込まれた場合、一気に拡散してしまう懸念がある。
気軽な接触であったとしても、それが命取りになってしまう可能性もあるわけだ。

彼らの生活の中に、「宗教」というものが存在しているかどうかも
不明なのだが、この現状を考えれば、彼らにキリスト教を布教しようとした
宣教師の行動はやはり軽率で、貴重な彼らの文化(恐らくは外界のものほど
多様性を持ったものは存在していないのかも知れないが……)を
破壊する危険性があったことは確かである。
インターネットなどによって、世界が1つの繋がりを持っている現在、
それから切り離された所で独自に進化してきた彼らの文化は、
やはりしっかりと保護されるべきものであろうと思う。

今回は、北センチネル島で起こった事件を1つのきっかけとして、
センチネル族という、現代に生きる原始的な色合いを強く残す
1つの部族について書いた。
次回は、文明というものから離れた所に生きる人々と、
「人間」というものについて、改めて考えてみたいと思う。

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