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富士山とトイレ〜その2

投稿日:

By: ume-y

さて前回、日本一の高峰、
そして日本の誇れる、世界文化遺産「富士山」が、
実は結構「臭う」山であるということを書いた。

これはひとえに、富士山のトイレ事情が関係している。
2005年までは、山小屋などのトイレでは、
シーズン中にし尿をためておき、
山小屋閉鎖後に「それ」を
富士山にぶちまけるという方式だった。
木や草もなく、気温も低いために
これらをしっかりと分解できない富士山では、
結局、雨や雪によってし尿が溶け広がり、
「目立たなく」するだけのものだったのである。
当然、これでは「臭い」という感想が出るのも
無理はないだろう。

さすがにこのままではマズいと思ったのか、
それぞれの山小屋が国の補助を受け、
杉のチップとバクテリアによって
し尿を水と炭酸ガスに分解する、
「バイオトイレ」を設置したのが、
2011年のことである。
これにて、富士山の「臭い」問題は
一応の解決を見た……、はずであった。

しかしこの問題は、しばらくの時をおいて
再び蘇ってきたのである。

それまで、富士山に登ってくる登山者数は、
年間約20万人であった。
これを多いと思うか、少ないと思うかは、おいておこう。
ただ、富士山に一般の登山者が登れるのは、
夏の2ヶ月間だけであり、この20万人という人数は、
その2ヶ月間に山に登る人の数だ。
詰まる所、ひと月10万人が登っている計算になり、
これは1日に、3300人ほどが
登っているということになる。
もちろん、登山者数は日によってばらつきが大きいので、
これはあくまでも、机上の数字に過ぎない。
この3300人に対して、用意されているトイレは、
約50ほどである。
仮に全てのトイレに、
均等に登山者が振り分けられるとすれば、
ひとつのトイレを、1日66人が利用することになる。
杉のチップとバクテリアを使った「バイオトイレ」は、
これだけの人数の出すし尿を、
完全に分解しきっているということだ。
(もちろん実際には、登山者だけでなく、
 山小屋の従業員もトイレを利用しているのは当然である)
この数字を凄いと思うか、その程度しか分解できないのか、
と思うかは、やはりおいておこう。

計算の上では、富士山に設置された
「バイオトイレ」によって、処理できるし尿は、
1シーズンで25万人分である。
それまでの登山者数20万人より、
5万人分ほど余裕を持って
「バイオトイレ」は設置された。
数字の上では全く問題はなく、
少々の人数の変動ではものともしないだけの、
処理能力であった。

しかし、あることがきっかけとなって、
この事情は一変してしまう。
それが、2013年の「世界文化遺産」登録である。
このとき、日本中が祝賀ムードに包まれた。
それだけならば良かったのだが、
「世界文化遺産」に登録されたために、
登山者数の数が、10万人以上も増えてしまったのである。
2013年に関していえば、
登山者数は31万人であった。
……。
もうおわかりだろう。
「バイオトイレ」の処理能力は25万人分である。
登山者数がトイレの処理能力を、
6万人分ほど上回ってしまったのである。

さらに問題は続く。
設置された「バイオトイレ」の中には、
故障してしまったため、
稼働していないものがあったり、
さらにいえば、稼働させておくと電気代がかかるので、
夜になるとスイッチを切られてしまっているものも、
あったのである。

もっと、根本的な問題もある。
先に、「一般人が登れるのは、夏の2ヶ月間だけ」
と書いたが、登山に慣れた人、冬山に慣れた登山者などは、
この2ヶ月間以外の期間にも、山に登ってくる。
これが意外に多く、実に6万人ほどが、
夏の2ヶ月間を避けて、富士山に登っているのである。
当然、そのときには、
全ての「バイオトイレ」が稼働していない。
結果として、この6万人分のし尿は、
富士山の山肌に、垂れ流されたことになる。
先ほどの、処理能力を超えた6万人分のし尿が、
仮に山肌に垂れ流された、と仮定すれば、
「バイオトイレ」設置後であっても、
約12万人分のし尿が、垂れ流されたことになる。
これでは、「臭い」の問題は、
ほとんど解決されていないといってもいいだろう。

一般人が富士山に登るようになったのは、
江戸時代のことである。
「富士講」と呼ばれる、一種の信仰登山がそれで、
御師と呼ばれる指導者のもと、
「講」の代表者が、富士山に登った。
現在のレジャー登山とは違い、
宗教色の強い登山であった。
このころの登山者たちは、
トイレをどうしていたのだろうか?
現在のような、山小屋や公衆トイレなど
存在していない時代である。
やはり、山にし尿を垂れ流していたのだろうか?

もちろん、そんなことはありえない。
宗教色の強い富士登山なのだから、
山はご神体そのものである。
ご神体にし尿をまき散らすようなことが、
許されるはずもない。
当時の「富士講」の登山者たちは、
御師より渡された、
箱の中に杉チップが敷き詰められたものを持ち、
用便は全てこの中に足し、
その全てをきっちりと持ち帰っていた。
いわば、一種の携帯トイレである。
「杉チップ」が使われている点は、
現在の「バイオトイレ」と変わらない。
その消臭効果を期待されたものだろう。
少なくとも江戸時代の富士登山者たちは、
現代人のようにし尿をまき散らすようなことは、
していなかったのである。
当然、そのころの富士山には
「臭い」などあろうはずもなく、
「白い川」なぞ、陰も形もなかったに違いない。

これが、5合目まで車道が走り、
登山路が整備され、山小屋が用意されるようになると、
途端に富士登山はレジャー化し、
人々はし尿を山にまき散らすようになった。
江戸時代の人々がこれを見たら、
どんなに嘆くことであろうか。

昨今、富士山では任意で
1人あたり1000円の入山料を徴収し始めて
話題になったが、実際にはその使い道すら、
はっきりとしていない有様だ。
そんな曖昧なことをするくらいならいっそのこと、
登山口で登山者全員に携帯トイレを渡し、
下山時にこれを全て回収するシステムを作った方がいい。
江戸時代の人間が当たり前にやっていたことを、
やるだけである。
これがどうしてもイヤな人間は、
富士山に登らせなければいい。
必然的に、いい加減な気持ちでやってきている
観光登山者たちを、5合目以上にやらない効果も生まれ、
現在の登山者過剰も解消するだろう。

富士山は、たしかに「世界文化遺産」に登録された。
しかしそれと同時に、
2016年までに解決しないといけない、
様々な問題点も指摘されている。
もし、この問題点が改善されなかった場合、
「世界文化遺産」は取り消され、
「危機遺産」に格下げされてしまう可能性もある。
そんなことになってしまっては、
それこそご先祖様たちに申し訳が立たないだろう。

この富士山のトイレ問題というのは、
富士山の抱える問題の中でも、
象徴的といっていい問題だ。

そしてこの問題は、
いまだ解決の糸口さえ見えていないというのが、
現状なのである。

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