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植物 雑感、考察

イチョウ

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この季節、ニュースを見れば、
どこそこのモミジが紅葉して、見頃になっているなんていう話を良く聞く。

自分の住んでいるたつの市にも、いくつかの紅葉ポイントがあり、
この季節になると、これを鑑賞しようという人たちで溢れる。
場所によっては、そういう見物客を当て込んだ屋台などが出たりして、
辺りはちょっとしたお祭り感覚である。

インターネットで「紅葉」という言葉の意味を調べてみれば、
そこには

紅葉(こうよう)……落葉植物の葉が、落葉するに先立って秋、
          赤または黄に変わること。
          その葉。もみじ。

とある。
字面だけで判断すれば、葉が赤くなるものだけが
「紅葉」のように思えてしまうのだが、実際には
黄色くなるものについても「紅葉」の中に含められている。
(正確には「黄葉」とする場合もあるようだが……)
「紅葉」の字面通り、葉が赤くなる植物の代表といえば
「モミジ」である。
「紅葉」と書いて「モミジ」と呼ぶこともあるほど、
これは定番になっているのだが、
一方、葉が黄色くなる植物の代表といえば、
やっぱりこれは「イチョウ」ということになる。

日本において、「イチョウ」は非常に身近な木だ。
街路樹などとして、あちこちの道路に植えられている他、
公園や寺社の境内などにも良く植えられており、
日本人の多くは、そういうイチョウを身近に目にしているはずである。
秋も深まり、「イチョウ」の葉が黄変し、
その葉が地面を埋めて、一面の黄色に染まる様は、
まさに秋の季節の一幅の絵画ともいえる風景である。

「イチョウ」は、イチョウ目イチョウ科イチョウ属に属する
落葉針葉樹である。
葉の形からすると、むしろ広葉樹のように思えるのだが、
分類上でいえば、特殊な針葉樹ということになるらしい。
かなり古くから存在している樹木の1つであり、
かつて中生代から新生代にかけては、世界的に繁栄しており、
その歴史は、2億5千万年にも及ぶということになる。
実は氷河期にイチョウ科の植物は、ほぼ全滅してしまっており、
(氷河期自体は、数万年から十万年ほどの周期で
 やって来ていると考えられているため、
 そのうちの1つ、もしくは複数の影響によって絶滅したと考えられる)
現代まで生き残っているのは、我々が普段目にしている
あの「イチョウ」だけ、ということになる。
そういう理由もあり、現在、「イチョウ」は生きている化石として
レッドリストの絶滅危惧IB類に指定されている。
我々の周りには「イチョウ」が溢れ返っているため、
全くそんな実感を感じないのだが、存外、世界的には
貴重な種なのかも知れない。

「イチョウ」を漢字で書くと、「銀杏」「公孫樹」「鴨脚樹」などとなる。
「銀杏」に関しては、前回紹介した「ギンナン」を指す方が正統なようで
これを「イチョウ」と呼ぶのは、一種の読み替えのようだ。
「鴨脚樹」という字については、「イチョウ」の葉の形が
鴨の脚の形に似ていることから、つけられた名前である。
「鴨脚」のことを、中国語で「イアチャオ」と呼ぶため、
日本での一般的な呼称となっている「イチョウ」は、
ここから来ていると考えられる。
「公孫樹」には「イチョウ」の成長に関わる話がある。
「イチョウ」は成長も早く、寿命も長いのだが、
実をつけるまでにも、長い時間がかかる。
実際に、接ぎ木などを全くせずに「イチョウ」を育てた場合、
実をつけ始めるまでに20〜40年もかかるという。
(だから、栽培種では接ぎ木をして結実を早めている。
 それでも、結実までには5〜6年かかるというから、
 「ギンナン」目的で「イチョウ」を栽培する場合は、
 それなりに時間がかかることを覚悟しなければならない)
このことから、実がなるまで「孫の代までかかる」という意味で、
「公孫樹」という字があてられた。
現在、日本では「イチョウ」を表す漢字として、
「銀杏」と「公孫樹」が使われているが、
これらはどちらも宛て字が由来となっており、
「鴨脚樹」と書くのが、本来的には正しいものらしい。

本来的な原産地は全く不明で、現存しているもっとも古い記録は
中国の北宋時代のものになる。
その歴史が2億年にも至るのだから、本当の原産地を探るというのは、
さすがに無理があるだろう。
ヨーロッパなどでは、完全に「イチョウ」が絶滅してしまっていたが、
1600年代末期に、長崎から種子を持ち込み、
これが広がるような形で、ヨーロッパ各地に植えられるようになった。
日本に入ってきたのは、室町時代ごろのことらしく、
これ以降、日本中に広まっていった。
(ただ、前述したように世界中で「イチョウ」の化石が見つかっており、
 その中には、日本国内で見つかったものも存在している。
 日本でも、ヨーロッパと同じように
 かつては「イチョウ」が存在していたらしいが、
 氷河期に全滅してしまったものだと考えられる)

さて、この「イチョウ」、前回も書いた通り、
秋口になると葉の黄変とともに、雌株は果実をつける。
そう、「ギンナン」である。
これがひどい悪臭を放つことは、すでに前回触れた通りなのだが、
街路樹などとして植えられているものは、どういうわけか、
全く実をつけなければ、当然、悪臭を放つことも無い。
種明かしをすれば、これは非常に簡単なことで、
街路樹として植えられている「イチョウ」は、全て雄株だからである。
ただ、「イチョウ」の雄株と雌株を見分けるのは非常に困難で、
それとハッキリ分かるのは、成長して花を咲かせるようになってからだ。
だが、「イチョウ」に花が咲くときは、
それはつまり「イチョウ」に実がつくときでもある。
早い話、タネ(銀杏)を植えて、苗を育てるとすれば、
その木が雄株なのか雌株なのかが判明するのは、
20〜40年ほど待たなければならないということになる。
これでは、雄株のみを選んで街路樹にするのは、不可能である。
だが実際、街路樹として植えられている「イチョウ」は、
キレイに雄株ばかりが選りすぐられている。
これは一体、どういうことなのか?
実は街路樹などで植え付けられている「イチョウ」は、
タネから育てられているわけではなく、
すでに雄株と分かっている木(樹齢がたっているもの)から
接ぎ木や、挿し木をすることによって、育てられる。
つまり、子供というよりはクローンといったほうがいい。
雄株の接ぎ木や挿し木からは、当然、雄株が育つことになる。
これを可能にしているのは、「イチョウ」の強い生命力なのである。

前回、「ギンナン」は多量に摂取すれば中毒の危険性はあるものの
栄養が豊富で、頻尿や喘息に効く
薬効を持ち合わせていることを書いた。
だが、「イチョウ」が薬効を持ち合わせているのは、
何も「ギンナン」部分だけのことではない。
実は「イチョウ」の葉にも、ある種の薬効が認められている。
(日本では薬品と認められておらず、食品として販売されているが……)
「ギンナン」も「イチョウ」の葉も同じ植物なのだから、
その薬効も同じなのでは?と思ってしまうが、
「イチョウ」の葉の薬効は、認知症などの脳機能障害の改善に
効果があるとされており、「ギンナン」のそれとは全く種類が違っている。
これらは「イチョウ葉エキス」という名で販売されているが、
もちろん、「イチョウ」の葉を、生で食べるなどというのは論外である。

現在、「イチョウ」の苗は、園芸店などでも購入することが出来る。
「ギンナン」の栽培を目的とするのか、
あるいは街路樹のように、庭木として紅葉を楽しむのか、
しっかりと目的を見定めてから、購入するようにしたい。

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